【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.16 旅の道連れは手品②
カトマンズに滞在している間、ネパール人と結婚している日本人の「アツコ」さんの家に滞在させて頂いていた。
友人の知人、と言うほぼ他人のケイイチを快く家に招いてくれて、仕事を手伝う代わりに家に泊めてくれたのだ。
居心地の良さも手伝って、滞在期間は思いの外長くなってしまった。
そろそろ本格的に旅の資金がつきそうだった。
どうするか。
悩んでいる時に、アツコさんが一つの提案をしてくれた。
時々、アツコさんと旦那さんの前で手品をしていたのだが、それを路上でしてみてはどうか、と言うのだ。
「路上で手品をしたら、コインを集めることが出来るのではないか」
ケイイチはすぐにでも行動したい衝動に駆られた。
ケイイチと手品の出会いは、まだ学生時代の頃だ。
技術家庭科の先生が授業で見せてくれて、衝撃を受けた。
目の前で行われる手品は、本当に不思議で、目が離せなかった。
自分でも練習して、友達の前などでしたことはある。
それを路上でやる。
どれだけの人が集まってくれるだろうか。
でもやってみるしかない。
やらなければ、結果は得られない。
カトマンズの観光名所ダルバールスクエアに立つ。
スペースも広く、人通りもあるので、路上で芸をするにはちょうど良さそうだ。
ドキドキしていた。
何も考えないように。
手品を練習するつもりで。
始めると、足を止めて見てくれる人がいた。
1人が止まったら、3人が止まって、いつの間にか人だかりになっていた。
帽子を足元に置いてみたが、集まっている人が近過ぎて、帽子の存在に気づいてもらえない。
結局、コインは1枚も入らなかった。
翌日。
この日は、ネパールのお祭りで、人がたくさん出ていた。
いいチャンスと思い、また路上に立って手品を始めてみる。
昨日と同様に、すぐに人だかりになった。
一通り見せた後、勇気を持って帽子を差し出してみた。
前列に座っていた男性がもう一度と言うので、もう一度見せる。
そうしたら、ケイイチの帽子の中に2ルピー入れてくれた。
そのおじさんにつられて、複数の人がコインを入れてくれた。
数えたら16ルピーあった。
日本円で26円。
自分の芸を見せることで手に入れることができたお金だ。
コインを握り締めて、ケイイチは感動していた。
わずか26円。
それでも大きな一歩だった。
2005年8月30日、ケイイチが初めて手品でお金を稼いだ日だ。
9月に入ると、アツコさんの旦那さんが自分の田舎の街にいってみないか、と誘ってくれた。
調べるとインドとの国境にも近い街のようだ。
ネパールの田舎にも行ってみたいと思い、即決で行くことを決めた。
アツコさんたちは自動車で移動するので、自転車のケイイチは先に出発する。
カトマンズは、四方を山に囲まれている盆地だったが、ネパールの南側に入ると平野が広がっていた。
太陽が痛いほど眩しかった。
気温は30度近い。
野宿できる場所を求めて彷徨っていると、小さなお店から人が出て来た。
外国人が珍しいのか、話しかけてくる。
テントを張れる場所を探していると言うと、店の2階で寝たらいい、と言ってくれた。
ケイイチのことをちっとも警戒していなかった。
全く知らない外国人を怖いと思いわないのか、不思議だった。
それだけ「人」を信用しているのだ。
それは、小さな街だからなのかもしれなかった。
だけど、とても心が暖かくなる。
人の優しさに触れることは、人を優しく、そして強くもする。
ちゃり旅が教えてくれることは、お金では買えない「何か」だった。