【意志あるところに道がある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.11 標高3000mの荒野③
ラサのインターネットカフェで出会った男性は「近江」さんと名乗った。
聞くと、近江さんもこれからネパールへ行く予定だと言う。
いろんな話をする中で、ケイイチがママチャリでインドへ向かっていることを話すと、近江さんは並々ならぬ興味を持ってくれた。
日本で長年会社を経営していたと言う近江さんは、「冒険」に憧れていたのだ。
一緒に行きませんか?と聞くと、ニヤリと笑って、行きます、と言った。
ケイイチは旅の仲間ができたことが嬉しかった。
実は、ラサでの滞在中、もう1人、旅の仲間ができていた。
近江さんと同じ宿に泊まっていた、「まろ」さんだ。
まろさんも、ケイイチの話を聞いて、一緒に行きたいと言った。
まろさんは、旅の途中で賭博詐欺にあっていた。
持ち金のほとんどを失くし、旅をどうしようか、と考えていたのだ。
自転車での旅はお金がかなり節約できると思ったようだ。
ラサに滞在中、近江さんが泊まっていた宿でシャワーを浴びさせてもらった。
実に43日ぶり!
自分でもびっくりするぐらい肌の色が浅黒くなっていた。
チベットの方は人生で3回だけ身体を洗うと言う。
生まれた時、結婚する前、死んだ時だ。
水が貴重なチベットでは、シャワーを浴びることはとても贅沢なことなのだ
シャワーを浴びると、泥色の水が体を伝った。
身体の表面から皮膜が取れていくのが面白かった。
シャワーの後は、爽快感で身体が軽くなった気がしたほどだ。
2003年5月3日、チベット自治区ラサを3人で出発した。
まろさんは旅用に自転車とテントを買った。
近江さんは、自転車もテントも持っていた。
ただ、近江さんの自転車は街中を走る用の折りたたみ自転車だった。
60歳の近江さんは、折りたたみ自転車の上に荷物を牽引していて、進みが遅かった。
ケイイチとまろさんは5kmぐらい進んでは、近江さんが追いついてくるのを待つ、と言うことを繰り返す。
息を荒くしながら追いついてくる近江さんは、初日からギブアップ気味だった。
次の目的地の街、シガチェまで250km。
そこまでは頑張って行こうと言うことになった。
夜、テントを張って、3人で寝る。
人がいると言う安心感があった。
1人旅とは全く違った。
自分のペースで走りたいと言う気持ちもあったが、3人旅が楽しかった。
夕食を食べながら話が弾む。
一緒に大変な道を進んで、わかちあえるのが嬉しかった。
薄い酸素の中で自転車を漕ぐのは、思った以上に身体に負担がかかる。
この先に標高4,300mの峠がある。
でも、近江さんがそれを越えるのは難しそうだ。
疲れて動けないと言って、近江さんは ヒッチハイクをすることにした。
道端に立って、車が通るのを待つ。
数時間後に、通りかかったジプシーツアーの車が止まってくれて、シガチェまで乗せてくれると言う。
ケイイチは、引き続き自転車でシガチェを目指した。