【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.18 旅の道連れは手品④
自転車を漕いでいると、男性が、こっちに来いと言うように手を振っていた。
「お茶を飲んでいけ」と言う。
「騙されるな」と言う言葉が頭の中をめぐる。
が、「こんな田舎だし、大丈夫なんじゃないか」と思い直し、飲んでいくことにした。
屋根が辛うじて載っかっているような掘っ立て小屋がチャイ屋になっていた。
座って、チャイを飲む。
どれだけ高額請求されるのか、ドキドキだ。
どこから来て、どこへ行くのか、とインドの特徴的なアクセントがついた英語で話しかけられる。
今の目的地はガンジス河の畔のベナレスと言う街だ。
「100km以上あるじゃないか!」
男性はかなり驚いていた。
100km以上をママチャリで移動すると言うのだから、普通の人は驚く。
だけど、ケイイチが通って来た道はそんなものではない。
もはや、100kmなど、すぐそこだ。
それから男性は、「インドは最高の国だ!」と教えてくれた。
ケイイチの価値観で、インドを最高の国と思えるのかどうか。
インドで何を得ることが出来るのか。
「まだ、来たばかりでわからない」とだけ答えた。
飲み終わって、チャイの料金を払おうとすると、「いらない」と言われた。
もしかしたら法外な値段を請求されるかもしれないと思っていたので、拍子抜けだ。
実はこの後も、何度も止められてチャイをご馳走になったのだが、一度も「騙される」と言うことは起こらなかった
ケイイチは「噂とはだいぶ違うな」と首を傾げた。
早速ストリートに立って、手品をしてみる。
人はどんどん集まって来た。
一通り終わって帽子を差し出したが、コインを入れてくれる人はいなかった。
インドで手品で稼ぐのは難しいかもしれない。
場所を移動してもう一度。
もう一度。
3回目の時に、コインではなく、サモサをもらった。
それでもありがたい。
お腹が満たされることはとても重要だった。
また、移動。
次の小さな街で12ルピー入れてもらえた。
お金を入れてもらえると自信になる。
またやろうと思える。
始めるまでは勇気が必要だが、その小さな一歩が必要なのだ。
インド最初の夜。
どこでテントを貼ろうかとキョロキョロしながら歩いていると、また呼び止められた。
チャイを飲んでいけと言う。
急いで寝る場所を探していたので悩んだが、ご馳走になることにした。
「どこから来てどこに行くのか」
「どこで寝るのか」
何度も繰り返される質問に、身振り手振りを交えながら答える。
「適当に場所を探して寝る」と言うと、「自分の家に泊まっていけ」と誘ってくれた。
インドでは騙されないように気を付けろ。
また、この言葉が頭をよぎる。
なんだか上手く行き過ぎていて怖いぐらいなのだ。
不安そうにしているのを察してくれたのか、「家族と一緒に住んでいるから大丈夫だ」と笑った。
その笑顔に安心感を覚え、甘えることにした。
あぜ道を一緒に歩く。
夜の8時を回っていた。
辺りはすっかり暗くなっている。
街灯などない。
レンガが積まれた道の先に、男性の家があった。
軒先に柔らかい色の明かりがぶら下がっていた。
中に入ると、サリーを着た奥さんがびっくりした顔で出迎えてくれる。
男性が事情を説明すると、奥さんが、木と網でできたベッドを貸してくれた。
中のような外のような場所だったが、安心して眠れるのはありがたかった。
「騙されるな、気を付けろ」と言われ続けていたが、全く、予想と違う。
ケイイチはインドでもまた、人々の優しさと暖かさに触れていた。