読書:『ファウンテンブルーの魔人たち』白石一文
書名:ファウンテンブルーの魔人たち
著者:白石一文
出版社:新潮社
発行日:2021/05
https://www.shinchosha.co.jp/book/305657/
数年前巨大隕石によって壊滅した新宿。豪華マンションで発生している連続不審死と、その現場に現れる白い幽霊。人類から性を取り除こうとする大規模な人工子宮計画。米・露・中による人口削減計画。絡み合ったそれらの糸に、自由に体外離脱できる主人公がまきこまれていく。人間そっくりなAIロボットとともに。
文学畑の作家……というか純粋なSF作家ではない作家が書くSFってけっこう好きなんですよね。SF作家が書くSFとはだいぶ雰囲気が違う。
この小説もそれで読んだのですが、けど、これは……
思わせぶりなキーワードが散りばめられていますが、実際に読んでみると、どうもちぐはぐというか、つぎはぎというか。連続不審死事件がきっかけになるのだけど、主人公がそんなにこの事件に興味をもつのかもまずわからず……。話はどんどん大きく広がって荒唐無稽とも言える展開になっていくが、読者を置き去りにして突っ走っているような感じ。
これは、文学とSFのいいところ取り……ではなく、悪いところ取りかも。
文学としてもSFとしても中途半端で、どちらの魅力も感じられない。
なにより気になったのは、主人公はじめとする人物(主に男性陣)の性的な気持悪さ。
主人公は思いのまま対外離脱する特殊能力をもっているのですが、それを使ってやっているのは結局「覗き」で。意識体の状態で同居人やらの部屋に忍び込んであれこれ観察したり。かと思えば、AIロボットが、主人公の恋人そっくりになって体の関係を誘ってきて、それで主人公もその行為にはまりまくったり……などなど。
あと、同性愛者が多すぎる。同性愛者というか「両刀」なのかな。多すぎるどころか登場人物ほぼみんなそうではないかな。いくらなんでもそれは違和感がありますよね。
また、婦女暴行のエピソードもあるのだけど、本当に必要なエピソードなのか疑問に感じたし、凶悪すぎる場面なのが気になりました。
もっとも、この作品について作者が語っているところによると、人類はこれから男女が憎み合う方向に向かうのだろう、男女はもう「駄目になる」のだろう、と予測していて、その観点でこの作品を描いたらしい。主に性的な問題から。
だからこの作品は、「ある意味で気持の悪い性的な作品」にならざるをえなかったのかなという気もしますが……
少なくとも作者にはこれが必要な要素だったのだろうと考えられますね。
気持悪いと言えば、主人公たちが「マー君」「アッ君」「ヒデ君」などと呼び合っているのも、なんだかぞわぞわする感じがありました。そして、しゃべりかたも雰囲気もみんな似ている。みんなやわらかい物腰で、みんな美青年で。誰が誰だかわからなくなるレベル。
ところで、読者を置き去りにしたまま物語は進んでいき、米・露・中、そしてインドが絡む、人類の運命にかんするとんでもない陰謀に進展していくのに、対する日本勢は、この主人公や財閥などの人間だけでちんまりとしていて、巨大な設定なのに「世界が狭すぎる」感じが否めません。
そして、とどめはラストですね。SFと思えた物語は、最後になって「意識体だかなんだかよくわからないものを、存在していない弓矢で打ち倒す」というファンタジーになっていくのですが、それも最後まで決着せずに、「さあ、これからだ!」と、まるで打ち切りになった漫画によくあるような終わり方で、冗長なこれだけ長い小説を書いてこの終わり方はないのではないかと思いました。
思わせぶりに語られた「T」も、結局「???」でしたね……
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