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私的読書(劣化復活版)

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個人的読書メモ、読書記録、読書感想です。 かつて、1997~2003年あたりに、『私的読書』というタイトル付けでけっこう力を入れて読書レビューを書いていました。その劣化復活版です。
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#読書感想

読書:『7分間SF』草上仁

読書:『7分間SF』草上仁

書名:7分間SF
著者:草上仁
出版社:ハヤカワ文庫JA
発行日:2020/3
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014482/

 草上仁さんの短篇は要するにショートショートなんですよね。長めではあるけれど。ユニークなアイデアでピシッと決まるオチ。SFとしてのアイデアも俊敏です。フレドリック・ブラウンのようだとかデビュー当時は言

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読書:『ミシンと金魚』永井みみ

読書:『ミシンと金魚』永井みみ

 認知症を患っていると思われる女性のひとり語り。と読み始めてすぐわかって、これはアレかな、他人が知るよしもない老人の頭のなかを若い作者が好き勝手に妄想した小説かなと意地悪な目線で読み続けたのだけど、確かにそれはそうに違いないと思うのだが(これもまた自分が患わなくては知る由もないことだけど、認知症の人の頭のなかはもっと混沌としているような気がする)、そんな意地悪に読んでもなおこれは面白かった。

 

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読書:『塞王の楯』今村翔吾

読書:『塞王の楯』今村翔吾

書名:塞王の楯
著者:今村翔吾
出版社:集英社
発行日:2021/10
https://lp.shueisha.co.jp/tatexhoko/

 戦国時代、穴太衆と呼ばれる石工集団が活躍していたという。石を切り出し、運び、積む。城の石垣を組み上げたのが彼らだ。
 石垣はただ積み上げているだけなのになぜ崩れないのか? 何百年ものあいだ。そんな疑問をもったことはないだろうか。それを可能にしたのが穴

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読書:『N/A』年森瑛

読書:『N/A』年森瑛

書名:N/A
著者:年森瑛
出版社:文藝春秋(文學界)
発行日:2022/6
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163915623
https://books.bunshun.jp/articles/-/7072

 本年度の文學界新人賞受賞作。SNS等で良好な評判をよく目にするので、早く読んでおくべきかと思って読んでみた。

 読み始めてすぐ、文章

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読書:『ガラスの顔』フランシス・ハーディング

読書:『ガラスの顔』フランシス・ハーディング

 ぼくにとってのファンタジー観に近いかも。
 ファンタジーはオリジナル性。見たことのない世界。想像したことのない世界。ぼくはそう思っている。
 しかし日本でよく目にするファンタジーと言えば、ゲームでなどでよくありがちのタイプの異世界もの。エルフなどの異世界生物がいて、勇者がいて、魔術師がいて……というような。ここ数年では、さらにその異世界に転生する構図のものばかり。金太郎飴状態にもほどがあって、い

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読書:『乾いた人びと』グラシリアノ・ハーモス

読書:『乾いた人びと』グラシリアノ・ハーモス

 乾いた荒野を歩いていく家族。どうやら雇われていた牧場主から黙って離れ、安息の地を探す旅に出たらしい。やがて町を見つけ、そこで新しく雇われて一家は生活を始める。とはいえ、生活は楽にはならない。
 雇い主からは搾取される。警官には理不尽な理由で殴られ、留置さえされる。新調するシャツは、生地をケチったせいで最初からつぎはぎだらけ。ベッドは木材が腰に固く当たって痛く、疲れ果てた状態でなければ満足に眠れな

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読書:『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ

読書:『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ

 読む前に想像していたものとはまったく違っていた。
 思っていたよりもはるかに面白く。
 分量のせいもあるけれどこれはじっくり読み込みたいと思い、図書館で借りていたのを返却し、購入しました。

 各地を転々として生活してきた男とその娘の物語。
 男(父)の体に撃ちこまれた銃弾をモチーフに、いつどのようにして撃たれたのかというエピソードを描くパートと、12歳の娘の視点から現在を描いたパートが、交互に

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読書:『着たい服がある(全5巻)』常喜寝太郎

読書:『着たい服がある(全5巻)』常喜寝太郎

書名:着たい服がある(全5巻)
著者:常喜寝太郎
出版社:講談社モーニング KC
発行日:2019/1~2019/9
https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000033929

 友人たちからかっこいい女と思われている女子大生の小林マミ。けれど彼女は本当はかわいいもの、かわいい服、ロリータファッションが好きで、そんな本当の自分を出せずにいる。少しスカートを着た

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読書:『海神の子』川越宗一

読書:『海神の子』川越宗一

書名:海神の子
著者:川越宗一
出版社:文藝春秋
発行日:2021/06
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913872

 台湾の英雄、鄭成功。国姓爺とも呼ばれている。
 日本では一見馴染みのない人物のようにも思えるかもしれないが、「国姓爺合戦」のあの国姓爺と言えば聞き知っている人は多いだろう。少なくとも名前くらいは。

 この小説ではまずあ

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読書:『ナインストーリーズ』乙川優三郎

読書:『ナインストーリーズ』乙川優三郎

書名:ナインストーリーズ
著者:乙川優三郎
出版社:文藝春秋
発行日:2021/06
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913933

 もう黄昏期に入った人々の短篇集。
 もう若くはなく無茶はできない。しかし「この人生でいいのか?」「このままでいいのか?」という思いがどうしてもただよってしまう日々。諦念とほのかな後悔。そんな雰囲気がどの短篇に

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読書:『ファウンテンブルーの魔人たち』白石一文

書名:ファウンテンブルーの魔人たち
著者:白石一文
出版社:新潮社
発行日:2021/05
https://www.shinchosha.co.jp/book/305657/

 数年前巨大隕石によって壊滅した新宿。豪華マンションで発生している連続不審死と、その現場に現れる白い幽霊。人類から性を取り除こうとする大規模な人工子宮計画。米・露・中による人口削減計画。絡み合ったそれらの糸に、自由に体外離

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読書:『かつらの合っていない女』レベッカ・ブラウン

書名:かつらの合っていない女
著者:レベッカ・ブラウン
絵 :ナンシー・キーファー
訳者:柴田元幸
出版社:思潮社
発行日:2017/09
http://www.shichosha.co.jp/newrelease/item_1919.html

 レベッカ・ブラウンの最新翻訳小説。久しぶりです。
 掌篇集ですが、1篇1篇がごつい。さっと読み流せない。
 そして読むとすぐ読み返したくなる。咀嚼のた

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読書:『ある女の子のための犬のお話』ダーチャ・マライーニ

書名:ある女の子のための犬のお話
著者:ダーチャ・マライーニ
訳者:望月紀子
出版社:未来社
発行日:2017/10
http://www.miraisha.co.jp/np/isbn/9784624610418

 何度か迷いつつも、いや、これは読まないといかん、買わないといかん、とつぶやきつつ買った本。
 タイトル通り、女の子に語り聞かせる形式の犬の短篇集ですが、甘ったるい話ではありません。犬

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読書:『アナログ』ビートたけし

書名:アナログ
著者:ビートたけし
出版社:新潮社
発行日:2017/09
http://www.shinchosha.co.jp/book/381222/

 今まで出した本を書いたのはすべてゴーストライターで、今回初めて自分で書いた、と言っていたけれど、本当かもしれないと思いました。
 素人くさい。
 読むに耐えないほど下手というわけではないのだけど、文章表現、展開の仕方、場面転換、そういった

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