『イカロス』introduction #少女カルテ
教室の隅が光っている。
よくわからないけど、そんな気がした。小学校に入学して、嬉しさと緊張で心がぽわぽわぐつぐつしていたあの時だ。
集中し過ぎて逆に曖昧な世界の中で、その光だけは強烈に覚えている。凄かった。光の源は一人の男の子。そんな目の前の事実を認識するのにも少し時間がかかるくらい、私は戸惑っていた。
今まで見た誰よりもカッコいいとか、誰よりも背が高いとか、誰よりも優しそうとか。今思い返せば、そういうわかりやすい憧れと恋慕だったに違いない。
けれど、けれど。
何も知らない私から見て、あの感情は光だったのだ。
興奮した脳細胞がぱちぱちとスパークして、神経の中を何かがぐるぐるする。熱くて眩しくて、私の脳内で暴れるそれらの感覚が目の前に光として出力される。もしかしたら光っていたのは、彼ではなくて私の目だったのかもしれない。
爛々と。
そして、目の奥を真っ白に塗りつぶしながら私はその光へ手を伸ばした。
時が経ち、周りの皆が普通に恋愛やその次の段階をする頃になり、私の横にはかつての彼がいる。
けれど。
彼は前のように光っていない。
私の目は、今でも光を追いかけている。ただ、ずっと。目の前にあるそれに手を伸ばす。それだけの話だ。
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