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モネと稚魚


数年前、京都文化博物館へ
モネの『睡蓮』を観に行った。

連作で描かれた作品は
時間の経過を感じさせる。

これは良く晴れた日の午後
これは雨の日

水の温度さえ推し量りたくなる
この透明感
絵の前にじっと佇んでいると、
モネの庭の池が見えるような気がした。
風に揺らぐ睡蓮の繊細な花びらや葉を
じっと眺めている、
そんな妄想さえ芽生てくる。

水面に揺らぐ美しい睡蓮の今を描きとめようと、
モネは、日がな一日、描いていたのだろうか。
何枚も、何枚も
生きていた睡蓮の記録を残すみたいに


美術館を出ると
モネを虜にした睡蓮を無性に見たくなった。

睡蓮が自慢の植物園に行く。
温室の中で一面に咲く睡蓮を見つけた。

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やはり、超が付く美しさ。
池の淵を散歩するお釈迦様の姿を彷彿とさせる
清楚で高貴な、泥に咲く花


家に帰っても、睡蓮が頭から離れなかった。

近くの園芸店に行ってみた。
今の時期には入荷していない、という。

立ち去りがたく、店内を回遊していると
ホテイアオイという肉厚で根っこの太い水草を発見。
せっかくなので、金魚鉢へ入れてみよう、と思いつく。

家に帰って、ホテイアオイを浮かべると
金魚が大きな根っこを邪魔そうに避けて泳ぐ
なんか落ち込むな

嫌われたホテイを別のガラス鉢に移動。
数種類の水草といっしょに
バスルームのタイルの上に置く。
バスタブに浸かりながら、眺めるのもいいかんじ。

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と、数週間後のある朝。
ホテイの周辺で、大量の何かが蠢いていた。
まさか、ボウフラ? 
ぎゃっ~と、心の中で小さく叫ぶ。

ん? でもどこか、何かが違う。
これ、魚っぽいよ?
スマホで撮影し、スローで動きを確認。
そのまま画像検索してみる。

おー出てきた。
ありゃ、これ、メダカの稚魚だ!

金魚の稚魚

急にうれしくなる。
メダカが産卵していた浮草を
ピンポイントで購入してきたみたい

水面にビッシリ。
割り算の記号 ÷  みたいな無数の稚魚が
鉢の外側にきれいに頭を向けて集合してる。

いや、しかしこれはやっかいなことになった。
メダカは、一匹に対して1リットルの水が必要、と
何かで読んだ覚えがある
となると、ざっと300リットルはいる。
こうなりゃ風呂か池に放つ以外、飼うのは不可能だ。

ひとまず金魚鉢になりそうないれものを探す。
サラダ用のボールや壊れた鍋、花瓶なども総動員。
いくつかのにわか金魚鉢に水を張る。
子どもらを適当に分けて、入れた。
餌は、メダカの餌だと大きいので、
すり鉢ですって粉末状にして与えた。

突っついて食べる姿がかわいい。
赤ちゃんといえど、がっつく姿は一人前。
しかしこの先どうやって
この突如生まれた大量の稚魚の面倒をみていけばいいんだろ。

しばし考えあぐねた結果、
里親制度を思いついた。

夏になると、メダカを飼いたい人はたくさんいる。
無料であげると言ったら、
喜んでもらえるにちがいない。

夜、いつものプールに行って
聞いてみた。
なんと、いきなり5人の里親が見つかった。

1本のペットボトルに
水と50匹ぐらいの稚魚を入れた
稚魚ボトルを5本つくった。

水草を買おうかなあ、
水槽を買おうかなあと、
みんなウキウキ、大喜びしてくれた。

残った稚魚約50匹ほどは、
にわか金魚鉢に分担し
家で面倒を見ることにした。

そうこうするうち、あることを思いついた。
あのとき買えなかった睡蓮を買って、
その睡蓮鉢に稚魚を泳がせてみる、という
ビオトープ的な試み。
問題解決と欲望と流行を完全網羅したこの思いつきは
すぐに実行された。

翌朝、いつになく早起きして
近くのホームセンターへ行く。

まっすぐメダカコーナーに行くと、
あった、あった、ありました。
ちいさな姫睡蓮だけど、睡蓮は睡蓮。
店員さんに管理方法を教えてもらい、
稚魚放流を見越して、少し大きめの睡蓮鉢を購入。

支払いが済むと、さっきまで何も言わなかったのに
「2月に植え替えてくださいね」と定員さんが思い出したように言う。
え、植え替え? これ、植え替えが必要なの? 
蓮根がおおきくなるのかな。 
泥の中で蓮根に振り回される自分とメダカを想像し、不安がよぎる。

家に帰って、睡蓮鉢の準備を整えていると、小雨が降ってきた。
ちょうどいい具合に、睡蓮鉢に雨水が降り注ぐ。

水の濁りがおさまったところで、
稚魚を放流した。

少し戸惑った様子の稚魚たち。
まるで探検するみたいに、
睡蓮の葉の隙間を縫うように泳いでいく。

いつか花が咲いて、
大きくなった葉の木陰に座り、
モネの気分に浸れる日が来るだろうか。

そんなことを考えながら
いつまでも、
生命力いっぱいの稚魚を眺めていた。

                     2014年5月の日記より

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*後日談ですが、このメダカの稚魚は、メダカではなく、金魚の稚魚でした(笑 成長するにつれ、丸く大きくなって、里親たちを驚かせたようです。

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