真実のかけら
ミニマリストに憧れて
少しずつ、部屋の整理をはじめた。
主に仕事の資料整理が目的だったのだけれど、
進めるうちに、
昔の手紙や写真、年賀状、カードの類が
わんさと入った箱が出てきた。
片付けあるある。
やってはいけないとわかっているのに
少しだけ、と、開いて片目で見る。
だけど、開けたら最後、動けなくなった。
懐かしすぎて、もう先に進めなくなった。
読み進むうちに
「ありがとう」と伝えたい人が
たくさん出てきて、驚いた。
こんなにたくさんの人が
そのときどきのシーンで
私を気遣い、励まし、勇気づけてくれていたなんて。
まだ、ほんの子どもだった私を、
中学のときに友だちができなくて孤独だった私を、
親の希望する進路に進みたくなくて自暴自棄になった私を、
バイト先で初めての失恋をして呼吸困難になった私を、
なぜ生きなければならないのか、悩んでいた私を、
いっしょうけんめい言葉を紡ぎながら
私の心を救ってくれた人たちの、息づかいが聞こえた。
たくさんの人に支えられて、
今の自分があることを、
この箱の中身が教えてくれた。
思わず、泣いてしまいそうな手紙もあった
嬉しくて照れてしまう手紙もあった
厳しい批判、辛辣に叱られている手紙もあった
そして
そのすべての手紙に愛があった
どの手紙も、私のことを真剣に考えてくれていた。
私のために、大切な時間を使ってくれていた。
本当に、ありがたすぎて、涙がとまらない。
どうしてもある人に「ありがとう」を言いたくなった。
もうずいぶんと連絡が途絶えていた彼女に、
どうしても感謝を伝えたい。
メールアドレス、変わっていたらどうしよう。
そんなこと、考える間もなく、
ほとんど発作的に、
メールを送っていた。
1時間くらい経っただろうか。
彼女から返信がきた。
心臓が止まりそうになる。
最初に、
「メールを読んで、泣きそうになった」と書かれていた。
それから、今住んでる場所や家族のこと、近況なども教えてくれた。
どこかの空の下で、今も元気に暮らしていてくれて
ほんとにありがとう、と思った。
それだけで、すごく嬉しい。
伝えたいことが、すぐに伝えられるメールに、感謝。
純粋に感謝を伝えるのに
過ぎ去った時間のことは、気にしなくていい。
人がそう思った瞬間だけ、時間は巻き戻ってくれるから。
だから、伝えたいことがあるなら、迷わず伝えた方がいい。
この世界のなかで
縁があって出会い、
どこかの時間をいっしょに過ごした人たち
大切な、かけがえのない人たち
そういう人と人とのつながりは
恋愛とか友情とか敵や味方とかの
小さな枠にはおさまりきれない
大切なものを未来に残してくれる
掌で掬った砂が指の間からすり抜けていくみたいに
長い時間のなかで淘汰され
大切なものだけが、掌に残る
私は今その砂粒を、ぎゅっと握りしめる。
きらきらした砂粒。
その1つひとつは、
過去、そこにあることにすら気付かなかった
大切な真実のかけらだ。
*ありがとう、を伝えた友人は、幼稚園からの同級生でした。住んでいる場所は遠く離れていますが、この後、同じく大切な親友(中学の同級生)と3人のグループLINEが始まりました。