見出し画像

「人生100年時代」の後半をかけて、追い求めたい「夢」(#MDMゆく年くる年)

皆さんこんにちは。「MDMゆく年くる年2024」のトリを務めさせていただきます、三井物産デジタル・アセットマネジメント(MDM)代表の上野です。

私は今年、50歳の節目を迎えました。大学院を経て社会に出たのは25歳の時で、三井物産に入社して以来、金融分野の新規事業を中心に歩んできました。この25年間で4つの会社を立ち上げ、多くの挑戦と学びを得てきました。

振り返ると多くの困難もありましたが、元気に、楽しく、新たな挑戦を続けられる環境に感謝しています。これからの「人生100年時代」の後半50年をかけて、追い求めたい「夢」をお話しさせていただきます。


投資に対する個人の常識をまるごと変えたい

「その志しで、世界を動かせ。」と題された三井物産のプロジェクトで、私は2年前に自身の仕事に対する心意気を語る機会をいただきました。このプロジェクトのテーマである「どんな変革も、始まりは誰か一人の意思だから。私たちは、その『最初の一人』でありたい。」という言葉には、深く共感しています。

その内容を1分にまとめた動画も公開されていますので、ぜひご覧ください。実際の収録では3時間以上にわたり、仕事に対する思いやこれに人生をかける理由を語りました。ここでは動画に入り切らなかった部分も補足しつつ、私が目指す「投資の常識を変える」というテーマについてお話しします。

理想の金融商品? 「高利回りの定期預金」

小学生の頃、祖父にこう言われたのを今でも覚えています。
「お年玉は郵便局に預けなさい。1万円なら、毎年600円ずつ増えていくよ。」

当時の定期預金は金利が5~8%と高く、預けておくだけで資産が増える仕組みでした。これは、ある意味で理想的な金融サービスだったと言えます。この「何もしなくても資産運用が成り立つ」という点は、以下の2つの要素に集約されるのではないでしょうか。

深く考える必要がないこと
定期預金の場合、複雑な選択肢に悩むことなく、確定金利が提示されています。選ぶとすれば運用期間を5年にするか10年にするか程度。非常にシンプルです。

心配する必要がないこと
金融機関が元本を保証するため、「お金が減るのではないか」という不安を抱える必要がありません(破綻リスクはありますが、安心感が大きいのは確かです)。

これらの条件を満たす金融商品は今ではほとんど見当たりません。

例えば、新NISA制度の影響で注目されている投資信託(オールカントリー型など)は、「考えなくても良い資産運用」に近いものの、株式市場の動向によって元本が変動します。一方で、現在の定期預金は低金利の影響で過去のような魅力が薄れてしまいました。

こうした状況は、個人投資家だけでなくプロの機関投資家も同様に感じている課題です。しかし、プロには「オルタナティブ投資」という選択肢があり、この分野で①と②の両立を目指した運用が可能になっています。

個人投資家にこそ、インカム型オルタナティブ投資を。

「オルタナティブ(代替)」とは、伝統的な投資とされる株式や債券とは異なるリスク・リターン特性を持つ投資対象の総称です。不動産、インフラ、プライベートエクイティ、コモディティ、ヘッジファンドなどがこれに含まれます。

その中でも、私たちが特に注目しているのは、不動産やインフラといった賃料や利用料、リース料などの安定収入が期待できる投資です。これらの投資は、保有しているだけで一定の収益を得られる上、インフレ局面では賃料や不動産価格の上昇という恩恵を受ける可能性があります。また、価格が下落する場合でも、継続的な収入がクッションとして機能するため、安定感のある運用が可能です。

私たちはこれを「インカム型オルタナティブ投資」と呼びます。この投資手法は、かつての高金利定期預金に近い性質を持つものと考えています。プロの投資家たちが運用資金の一部をオルタナティブ投資に配分することで、資産運用全体の安定性を高めているのも、この特性に起因します。
ただし、この分野には以下の課題があります:

利用機会の制限
対面販売が主流であり、最低投資金額も高額なため、アクセスできる層が限られている。

一部の層への偏り
結果として、機関投資家やごく一部の富裕層だけが利用できる状況が続いている。

私たちが提供する「オルタナ」は、こうした課題を解決するために生まれました。インカム型オルタナティブ投資に特化した商品を自ら組成・運用し、それをオンラインで手軽に提供することにより、これまで手が届かなかった多くの個人投資家へその魅力を届けています。2023年5月のサービス開始から約200億円の販売を達成し、今まさに個人向け投資の民主化を実現する存在として、その歩みを進めています。

MDMが狙う、もうひとつのチャレンジ

オルタナによる「投資の民主化」は、MDM設立の大きなテーマですが、その先にはさらに大きな「夢」があります。
日本は明治維新以降、民間から預かった預金を経済成長に必要な領域へ集中的に投下する仕組みを築き、人類史においても類を見ないほどの成功を収めました。

渋沢栄一さんは銀行について、次のように語っています。

銀行は大きな川のようなもので、お金が銀行に集まらないうちは、谷川のしずくの水にすぎない。豪商や豪農の穴蔵に埋蔵し、雇用者やおばあさんのえりの内にあるままでは、人々を豊かにしたり国を富ませることはできない。銀行を設立すれば、穴蔵やえりの内にしまいこまれたお金が集まり、多くの資金となる。それによって貿易や学術、道路の整備が進み、国が豊かになる。

渋沢史料館「私ヲ去リ、公ニ就ク-渋沢栄一と銀行業-」より

しかし150年が経過した今の日本では、元本保証を前提とする「預金」が過度に重視され、融資中心の資金供給に偏りがあるように見えます。一方で、預金から投資へ資金を動かし、個人の資産形成を促進するだけでなく、日本国内でのリスクマネーの供給不足や偏りの解消を目指す動きも高まっています。

私たちは、預金ではなく「投資」としてお預かりした資金を、融資ではなく「出資」へ振り向ける仕組みこそが、新たな「大きな川」となると考えています。いわゆる「ファンド」がそれにあたりますが、個人投資家から広く集めた資金を堅実な事業へ循環させるという役割は、現代の日本社会において大きな意義を持つと確信しています。

社内では、ある有名マンガの名前を借りて「元気玉」と呼んでいます(笑)。多くの人々から少しずつ集めた力を、一つの大きなエネルギー源としてさまざまなプロジェクトに注ぎ込む。この仕組みこそが世の中を元気にし、日本をさらに豊かにする鍵になると信じており、その基盤をオルタナを通じて着々と整えているところです。

とは言え、長い道のり。50年の計。

渋沢栄一さんが設立した銀行も、「しまいこまれたお金が銀行に集まる」までには、実際にかなりの時間を要したと言われています。今の言葉で言えば、新しい金融システムがtoCの世界で社会実装され、仕組みとしての信用を得るまでに長い道があったということです。昔も今も、新しいものが歩む道のりは同じですね。

では、お金が十分に集まるまでどうしていたかというと、特定の出資者が大口のお金を出し、それを貸し出していたそうです。お金を貸す仕事は、資金をどのように調達するかによって銀行業と貸金業に分かれますが、当時は前者を目指しながらも、しばらくの間は後者でカバーしていたということですね。

私たちが目指す理想の姿も、実現には相当の時間を要することを覚悟しています。銀行が定着するまでに20~30年かかったのであれば、よりリスクの高い資金を預かるとなると、信用を確立するのに50年かかるかもしれません。
非常に長い道のりですが、明治の頃と違うのは、今はさまざまなインフラや法制度が整っている点です。オルタナではサービス開始当初から、公募の形で資金を募っています。不特定多数の方々からお金をお預かりし、それを特定の不動産で運用する仕組みですが、社会的責任も重く、情報開示やガバナンスに関する制約は非常に厳しいものがあります。

事業としての不確実性を下げるのであれば、貸金業に近い「私募」の形で実績を積む手もあったかもしれません。しかし、将来に見据えるビジョンの大きさを踏まえ、あえて最初から“完成形”に近い形態で取り組む道を選びました。結果的に、20億円のファンド調達でも、200兆円のファンド調達でも、基本的な枠組みは変わりません。

2075年、私自身がまだ生きているかは分かりませんが、こうした仕組みが社会に根付き、日本や人々の生活に役立ち、その中に込めた想いが生き続けるようになれば、一人の社会人として大きな成果を残せたと満足できるのではないかと考えています。

千里の道も一歩から。2025年の抱負は?

やや話が大きくなりすぎましたが、2025年はデジタル証券の市場規模が飛躍的に拡大すると予測しています。私たちも業界の主要プレーヤーとして、これまでの取り組みをさらに広げるとともに、いくつかの“大玉”を仕込み、自社の機能をいっそう先鋭化させる予定です。

“大玉”の内容については、現時点では詳しくお伝えできませんが、より多くの皆さまにオルタナのサービスを便利にご利用いただくための仕組みであることだけはお知らせしておきます。今年の2倍、3倍のペースで事業を拡大していく計画ですので、ぜひご期待ください。

また、今年から新設した経営企画部では、こうした新領域の事業開発や企画を担う“強者集団”を編成中です。自薦・他薦は問いませんので、「我こそは」という一騎当千の方々のご応募を心よりお待ちしています。刺激的な環境で、能力と熱意にあふれた仲間たちと切磋琢磨することに魅力を感じる方は、ぜひご検討ください。

ここまでの長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください!