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【産学連携/対談記事】(Part2)大手前大学・北村教授にきいた最新のキャリア論!「サステナブルキャリア(持続可能なキャリア)とは??」

皆さん、こんにちは。三井物産人材開発のカスティーヨです。今回は前回から引き続き、大手前大学の北村教授に専門領域である「サステナブルキャリア(持続可能なキャリア)」についての対談記事となります。Part1ではサステナブルキャリアを研究されている背景から解説いただきました。(Part1はこちらからご覧いただけます。)
(interviewer:三井物産人材開発 一井、佐々木)


■サステナブルキャリアを実践する際に企業人が押さえるポイント

やはり大切なのは「組織と個人のパートナーシップ」

一井)会社としてのビジネスのあり方やマネジメントの役割、個人の働き方など多くの変化がある中で今までのやり方では通用しないこともあると思います。そのような中で、個人が意識すべきこと、大切にすべきことはありますか。

北村教授)個人は、「組織とのパートナーシップ」を念頭に置いておいておくべきです。組織の役に立ちながら自分も伸ばすというのを基本スタンスにすべきだと思っています。
自分がやりたいことは「これだ!」と拘りすぎて、必要がない仕事を勝手に作りだすことや、自分の成長のことばかりを考えて組織は仕事をアサインしているのに「それ自分の仕事ですか」と盾ついたりすることはよくありません。
今の時代に役立つキャリア論は「変化の中でのダイナミックな自己構築」だと感じています。変化の多い現代で、一点だけにこだわっていたら変化への適応力がなくなってしまいます。「逸れたら逸れたでそれもあり」と思えるようなメンタリティが必要です。キャリアコンストラクション理論ではキャリアは崩して構築し直すものだとも述べられています。

一井)お話を聞いていてアンラーニングとも繋がりました。過去の成功体験に囚われずに新たなことを習得する必要性があるのですね。


ご縁があって入社したならまず好循環を作ろう

北村教授)サステナブルキャリア(持続可能なキャリア)の成果変数はウェルビーイング*1 / ヘルス / プロダクティビティ(生産性)があります。プロダクティビティが含まれているのがこのキャリア論の新しい部分です。ニューキャリア論は、自分がよければ、それで良いキャリアだという考え方でしたが、それでは長期的にいいキャリアは歩めません。まず、会社に貢献することが良い循環を生み出し、個人の幸せに繋がるというメッセージでもあります。

*1 ウェルビーイング
ウェルビーイングとは個人の権利や自己実現が保証され、身体的、精神的、社会的に良好な状態に あること
引用:経済産業省. (2025). 「ウェルビーイング」の定義. 経済産業省.007_03_00.pdf

サステナブルキャリアのベースとなる考え方に、スパイラル効果があります。
「先輩や上司を尊敬する⇒先輩に好かれる⇒上司にも信頼される⇒仕事のサポートが上手く得られる⇒いい仕事がもらえる⇒自信がつく⇒さらに信頼される」とどんどん好循環が回り始めます。
一方で、この先輩大したことないなあ、こんな上司になりたくないなあと考えていると、「それが態度に出てしまう⇒いい仕事は与えられない⇒自己効力感は身につかない」と悪循環に陥ります。なので、ご縁があって入社した会社では、まずは好循環を作ることを心掛けるのが必要だと思います。

一井)スパイラル効果を活用し、好循環サイクルを回すのは、入社年次関わらず取り組める個人のアクションですね。

北村教授)現実には、理由を説明せず雑用と受け止められる仕事を与える上司もいます。上司側にも仕事の意味を付けする必要性を分かってもらう必要がありますが、新入社員側も仮に雑用と感じる仕事を指示されても嫌な顔せずとりあえずやってみるのが正しい態度だと思います。

■人事担当者が抱えるもやもやキャリア論

人材育成の現場から「ニューキャリア理論」の疑問!?

一井)ニューキャリア論、計画的偶発性理論、積極的不確実性理論などのキャリア論を具体的に学んでも現場の組織力向上に結び付いていないケースがあると感じます。例えば、目の前に与えられた業務がある中その枠を超えてチャレンジをする環境がない場合、発揮する機会はどこにあるのかという意見は出てきています。

北村教授)理論が現場で有効に使われていないのだとすれば、理論が現実にそぐわないということではないでしょうか。
基本的にキャリア研究は個人の長期的なモチベーションを理解することを通じて、組織成果に繋げることを目的としています。しかし、ニューキャリア論やバウンダリレスキャリア*2は、伝統的なキャリア論とは分断されています。個人としてのキャリアサクセスを中心に考え、組織のパフォーマンスは目的変数から抜かれてしまってます。一方で組織内キャリア論には個人のハピネスがあまり入っていません。なので、組織内キャリア論に偏ったマネジメントや個人がバウンダリレスキャリアの信奉者だと組織と個人はなかなかいい関係を作れません。

*2 バウンダリレスキャリア
会社や職種などの境界(バウンダリ)を超えて、自由にキャリアを形成していくという考え方。(バウンダリーレスキャリアとは?組織にもたらすメリットと企業として出来ること .shoun+ブログ.2023)


「ロールモデル」と「フューチャー・ワークセルフ」

一井)組織の一員としても、個人としてもとても考えさせられる内容ですね。北村教授の著書の中でロールモデルに関する理論がでてきていました。研修でロールモデルの理論を出すと「そもそもロールモデルがいない」と言われることもあります。私個人としては、人ベースでロールモデルを探すのではなく、スキルや能力ベースでロールモデルを探すことが必要なのではないかと考えています。

北村教授)まずロールモデルは1人の人物である必要はありません。「いいところどりでいい」と思います。また、できるかできないかはともかく、「自分がどうなったら嬉しいか」を考えるとよいでしょう。先ほどの「フューチャー・ワークセルフ」とも絡みますが、素敵な人がいても「絶対あの人にはなれない」と思ってロールモデルにしないケースもあると思います。例えば、大谷翔平をみて、ロールモデルにするかというとしない方が多いのではないでしょうか。しかし、「海外の現地で評価されて、最大限に自分の能力を発揮したい」と考えると大谷翔平はロールモデルになりえます。「自分でも手が届きそうかどうか」ではなくて「自分がどうなったら嬉しいか」というのを元に考えるのが「フューチャー・ワークセルフ」の考え方です。

一井)なるほど。自己の延長線上でのロールモデルと、自己と切り離した過去に捉われないロールモデルを行ったり来たりして考えることにより、世界が広がるかもしれないですね。


今後の人事に求められるのは個人の人間性を無視しないこと

佐々木)本当に学びが多くて質問したいことがたくさんありますが、最後にサステナブルキャリアという考え方の中で人事担当者に特にお伝えしたいメッセージをお願いします。

北村教授)個人を人間として見る目を養ってほしいと思っています。戦略的人事管理は、この人は役に立つのか、どこに使えるかという組織のパーツとして見てしまいます。サステナブルキャリアはすべての人を全人的に見ようという考え方です。個人から最大のパフォーマンスを引き出すには、組織のパーツという見方だけでなく、人間性まで見ないと本当の意味で高い生産性を生みだせないと思います。


以上が、北村教授との対談記事となります。いかがだったでしょうか。

転職が当たり前になりつつある現代でサステナブルキャリアは新しい観点でした。新たな雇用形態が一般に普及するにはまだまだ時間がかかりそうですが、組織と個人のwin-winの関係性や好循環サイクルを意識することは明日からでも実践できそうですね。

いいね、コメント等お待ちしております。ご覧いただき、誠にありがとうございました。

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interviewee:北村 雅昭氏(大手前大学 経営学部 経営学科 教授 学部長)
きたむら まさあき/1985年 東京大学法学部卒。1989年 ミシガン大学経営管理大学院修士課程修了。博士(経営学)。京都美術工芸大学、大手前短期大学を経て2020年に現職。
著書は『持続可能なキャリア -不確実性の時代を生き抜くヒント-』(大学教育出版、2022年)など。これまで日本ビジネス実務学会奨励賞(論文)など学会での受賞。


interviewer:三井物産人材開発株式会社 一井 奈津美、佐々木 孝仁
一井 奈津美(Natsumi Ichii)
三井物産人材開発株式会社 人材開発部 キャリア・デベロップメント室
人事業務(教育・採用・企画・労務)に約9年間従事。航空会社での客室乗務員、金融機関での人事業務を経て、2020年に三井物産人材開発株式会社入社。中堅社員や管理職手前の社員を対象にした研修や地域ブロックをメインに事業開発研修の企画・開発や講師を務める。また、大学との共同研究を通してDE&Iの推進業務に携わっている。


佐々木孝仁(Takahito Sasaki)
三井物産人材開発株式会社 人材開発部 部長
一橋大学経済学部卒業、2005年に株式会社リンクアンドモチベーションに入社、その後教育系ベンチャー企業を経て、2009年に三井物産人材開発株式会社入社。三井物産グループ向け研修の企画・開発・講師や各種研修起ち上げ等を経験。2017年にアジア・大洋州三井物産(株)(在シンガポール)に出向し、アジア地域の育成体系再構築を主導。2021年より現職。人材開発部門の責任者を務めつつ、各大学との共同研究をリードしている。立教大学大学院経営学専攻(リーダーシップ開発コース)博士課程後期在学中。


この記事を書いた人:
カスティーヨ 舞衣亜 (Maia Castillo)
三井物産人材開発株式会社 人材開発部  マネジメント・デベロップメント室 2024年三井物産人材開発株式会社に新卒入社。大学時代は、学内のリーダーシップ科目の運営や人材派遣会社の長期インターンシップにて相互称賛ツールを用いた社内の組織開発に携わる。現在は、管理職の社員を対象にした研修を担当している。