「マジック・・・マリック」


 銀座の博品館や、都内のデパートでよくマジックの実演をやっていて、ちょうどその最中にタイミングが合うと、足を止めてその不思議さを堪能した。
 あれ、どうしてだ?なぜああなるんだ、と堪能の次にはそのマジックのタネが知りたくなる。そうなるともう我慢できず、実演したマジック商品を買ってしまい、家に帰ってその仕組みを知ると、なんだこんなことなのかとその単純さに拍子抜けし、もう次は買わないぞと思うのだが、ついまた足が向き、不思議に出会うと、またついつい買ってしまうことを繰り返した。
 実際に練習もし、誰かに披露することもあったが、マジックのタネは単純でもそれをいかにも不思議に見せるにはそれ相応の技術が必要で、しゃべり、手の微妙な動き、観客の視線のコントロールを含めて、マジシャンの細部にわたる全ての総合力によって不思議な世界が展開しているわけで、実践しようとするといかに難しいかがよくわかる。
 そしていつしか、タネは知らないままのほうがいい。不思議だ、不思議だと思い続けるほうが幸せなのだと思い至り、実演を見ても、マジック用品を買うことはなくなった。
 テレビでのマジックの番組もよく見たが、やはりマジックを一般の人にわかりやすく紹介する筆頭と言えばMr.マリックだろう。最初はマジックでなく超魔術という謳い文句で技術を披露していたが、見ている方は本当に超能力かと信じる人もいたようだ。「ハンドパワーです」という彼の台詞は一躍有名になった。最初は実演販売の仕事をしていたという経歴も後で知られるようになったが、もはやマジックだとか超能力だとかの呼び名は関係なく今は皆がそのマリックの世界を楽しんでいる。
 
 皆さん、もしよかったら白い紙と筆記具を用意してみてください。これはある番組でマリックが紹介し、こちらは授業で学生がどうにも乗らない時、景気づけのつもりでホワイトボードを使って実践したものです。
 まず、大きい富士山のような山を画いてください。その下に地平線を画くのですが、真ん中あたりで筆記具を下方へ動かし、深い深い穴を画いてください。そしてまた地平線に戻ります。そして、穴のすぐ右上に二本の短い縦線を画き、二人がこの穴を覗いている、と説明します。最後に深い穴の底に小さい丸をひとつ画いてください。そしてこの絵を見ている人にこう尋ねるのです。この丸いのは卵です。さあ、何の卵でしょうか?と。

 考えさせた後でじらしてから答えを言うと、学生は一様に皆ぽかんと口を開け、そしてしばらくして合点がいったように目を輝かせる。ただ、それでも何故そういう答えになるのかとポカンと口を開けたままの学生もいる。答えは「へび」で、もうこれはひらがなで答えが書いてあるという種明かしなのだが、一瞬頭の中が別のところへワープする感覚は、まさにマジックと同じで、こういうのを紹介するマリックもまたおもしろい。こう書いているうちに、また久しぶりに彼の不思議の世界を体験したくなってきた。そして、「ハンドパワーです」の声も聞きたくなってきた。

 これはマジックの範疇に入るのだろうが、ほんの時々遭遇する屋外での実演販売もある。街なかで薄っぺらな紙のピエロが跳ねるようにして踊っている。男が手を出すと、その上にぴょんと飛び乗り、そしてまた踊り始める。男は周りに何もないことを示して、そして路上に戻ったピエロは踊り続ける。人だかりの中にはどうしてもタネを知りたくなる人がいて財布から紙幣を出して買い求める。ひょっとしたら最初に買うのは「サクラ」かもしれないがそう野暮なことを言うのはやめよう。わざわざ躍るピエロを求めた人は家に帰ってタネを知り、どんな感想を漏らすのだろうか。
 私はといえば、いろいろな想像はするが、もはやタネを知ろうとは思わないので、涙を流しながら踊るそのピエロの不思議を見つめるだけなのだ。愛嬌がありそうで、それでも何とも物悲しい、そんなピエロのダンスを。


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