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①個人買収のやりがいは(日曜大工が趣味の人以外は)不動産投資とは比較にならない

 書店に行けば関連書籍が沢山並んでいるように、この10-15年くらいでサラリーマンによる不動産投資が随分と活発になってきました。漫画の世界だけかと思っていましたが、昼間は会社で全く目立たない中年社員が、実はアパートを4-5棟持っていてその収入が2000万円以上ありますという事態は実際に目の当たりにしたこともあります。

 私も一時期不動産投資を熱心に研究し、何冊も本を読んで、何十件も物件を見て、何人もの仲介会社に会って、実際に何部屋か買ったり、一棟物件を買おうとしたりしたこともありました。結果的にそんなに多くは所有しませんでしたが、物件の検討をきちんと行えば、安定的な収入が見込めるとは思えました。

 投資としては金融商品への投資などに比べて手触り感もありますし、日曜大工の延長のリフォームが趣味だという人にとってはとてもやりがいのある活動だと思います。お金を得る以上に自分の仕事を得るからです。経験者が書いた本もたくさん読みましたが、多いのはやっぱり自分で物件・ハードウェアに直接手を加えることを厭わない人です。

 ところがリフォーム関係の作業がまったくできない私のような人にとっては、自分ができる範囲のことが狭すぎて面白くないというのが率直な感想でした。一棟物件や戸建賃貸の物件ならまだやってみようかという気にもなるのでしょうが、区分マンション(いわゆるワンルームマンション)の場合には主要事項は全て管理組合の合意によって意思決定されるので自分ではほとんどできることはありません。空室になった時に少し綺麗にするとか、募集条件を変えたりするくらいです。そもそも最初に立地ありきですので、少々のことをやっても無駄なあがきです。

 そうなると購入を検討する際にも、販売図面の決まった項目を見て良い悪いかを考えるだけで、方程式さえ覚えれば後は良い情報をつかむために日々同じような活動を繰り返すだけです(それが得意であったり心地良かったりする場合は、向いているでしょう)。

 また長い目で見たら人口は減っていきますし所得は二極化していくので、空室リスクと賃料単価の下落リスク、物件そのものの評価額の低下のリスクを考えると、安定的なリターンが出る可能性は高いとはいえ、著者にとってはあまりピンとはきませんでした。もちろんそれらのリスクがどこまで影響が出るかというのは場所によって全く変わってきますが、全体的に確率は悪い方向に振れて行くでしょう。

 自己資金で買った場合はそのまとまった現金はしばらく返ってきませんし、ローンを組んで買った場合も、いつローン返済額が収入を上回る事態になるかわかりません。十分にバッファーを取って(融資額を低くして、収益率を高くして)安く買おうとすると、あっさりと他の人が少し高値で買って行ってしまいます。条件が良い物件が出ると沢山の人が取りに行きますので、その波の先頭に立つことは、後から始めた人間にとってはなかなかに難しいです。

 一方で企業投資の売買が成立して、自分自身で会社・事業・ヒトを所有したら、不動産投資とは比較にならないくらいのビジネスを動かしている実感が得られます。もちろん他人の生活を背負う責任というプレッシャーもあります。売上200億円の会社で経営者をしていた経験もある私でさえ感じますので、組織の一部としてしか働いたことがない会社員や、アドバイスかエクセル回ししかしたことがないコンサルタントにとっては異次元の感覚のはずです。でもそれも慣れの問題ですし、乗り越えられるものだと捉えています。

 JALが一度法的整理に入った後に名経営者である稲盛和夫会長が着任してすぐの頃、会社の幹部を前にして「あなたたちは大会社の幹部気取りだが、その実、八百屋1軒すら経営できないだろう」といった主旨のことを怒鳴りつけたというエピソードがありました。言わんとしていることは実によくわかります。でも人間誰しも考える力、行動する力はありますので、腹をくくって踏ん張って周りの人に頭を下げて協力を引き出せれば、たいていのことはできるはずです。その試行錯誤に耐えられるかどうかが最大のハードルです。

 私の所有する事業会社は工場で製品を日本や世界の色々なお客様に卸していますので、利益はまだ出たり出なかったりであっても、なんだか夢とロマンがあります。

 この工場は、同じ時期に購入を検討した歌舞伎町の築30年の12平米の投資用ワンルームマンション(1000万円)よりも安く買っていました。正確に言えば株式を1円(債務超過だったので)で買って500万円の運転資金を融資したので、1000万分の1でしょうか。上記のマンションは家賃が月78,000円で、管理費と修繕費、固定資産税や損害保険を考慮しても60,000円弱が毎月利益として安定的に入ってきます。

 事業はそうはいきません。ただし私の場合は買収してから半年で黒字化できたので、債務超過の解消や債務の圧縮は時間とともに進められる可能性がぐっと高まりました。そこで初めて著者の荷が降りることになります。利益の安定感はまるでありませんが、うまくいった場合には株価は投資した時点から理論値が何百、何千万倍にもなるのかもしれません。

 理論的にはさすがに債務超過の会社に手を出せるのは私のようなプロの世界の経験者だけにしておいたほうがいいので極端な例ですが、どちらが人生を豊かにできるだろうかということは自分の本音と照らし合わせて考えるべきでしょう。

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