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写真集を作るということ 3

  肝心なことを書いていなかった。写真集を作る上での費用の問題。一番簡単なものはもちろん自費だ。好きなように作れば良いし、費用に応じて体裁も選べるし部数も決まる。ネット上でレイアウトし、入稿しオンデマンド印刷ができるところも多いし、画像を上手に扱えるならば自力で作ることはこの時代難しいものでもない。実際に様々な写真集ができている。新宿御苑前の「蒼穹舎」をのぞいてみれば、写真集は東京地方を問わず案外数多く出版されていることが実感できるはずだ。そして蒼穹舎のように出来た写真集を置かせてもらえる場所も確保できるなら、もちろん儲からないという前提を理解した上で、自力で作ればよいだろう。ただし、色校正など本格的に印刷会社とやりとりをして作っていく上では、やはり専門的な知識と進行能力のある方に手伝ってもらわねばならない。当然、何がしかの御礼も必要だ。私も2012年の写真集「砂町」はそうやって作った。初めて出会ったデザイナーの方が熱心にリードしてくれたおかげで、確か50万円ほどで300部の写真集(カラー)が刷れたと記憶している。1989年のモノクロ作品集「WONDERLAND 1980-1989」は700部で220万円だったと思う。

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   また、昨今は個人でギャラリーや小出版社を起業している方もいて、そうしたところからも多くの質のいい写真集が生まれいる。それぞれ様々な状況の中から写真集が作られているはずだ。場合によっては制作費は作者が全て負担することもあるだろうし、一部、あるいは半分負担、さらにはできた写真集からある程度の部数を作者が買い取るということもある。ケース・バイ・ケースで動いている世界でもあり、では例えばこれまでたくさん写真集を刊行している「赤々舎」はどうなのか?  森山大道さんの写真集はどうなのか?と聞かれても私にはさっぱりわからない。まさか森山さんが費用半分負担するということはないだろうとは思えるが。


   ある人気写真家の写真展を何度も開催し、写真集も作っているところに私も作品を持ち込んで写真集の可能性について尋ねたことがある。しかし。オーナーからはいい返事はいただけなかった。「自費出版ならいい」ということだった。その方の目利きとしては私の写真はダメだったのだ。趣味の問題、方向性の違い、写真集の売れ方の問題などいろいろとあるのだろうと思えた。確かに、そのギャラリーで私が展示しても多くの「フアン」を集められないのは自分でもわかっているが、オーナーはそのあたりも鋭く天秤にかけていたのだろう。


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 さて、今回の私の写真集「 TOKYO HEAT MAP  路上の温度計 1997-2004」は禅フォトギャラリーの制作。700部を先方で作っていただくという形だ。印刷費用、アートディレクション、デザイン、そのほか諸々の費用を持っていただけることになった。これはありがたいことだ。ただし、写真集の売り上げについては全てギャラリー側ということになる。「印税」という方向は多くの場合、出版社での契約は別として、こうしたギャラリーなどでの写真集制作の上ではあまり聞いたことがない。半ば慣例化しているといっていい。(それが適切だということでもないが)   作者としては本来埋もれていく宿命にあった作品を「本」として「形」として残していけるという「特典」を選択したことになる。したがって、出来上がった自分の写真集を自分で何冊が買い上げるという、ちょっと妙な事態が普通に出てくる。自費出版として作ったのだと思いある程度買い上げればよいだけだが、なんか変?と少し躊躇してしまうのは無理もないだろう。それでもしっかりした本を手に取ると、やはり嬉しいものだ。
 実際の印刷工程の話を書くつもりが、妙な方向に流れてしまったので、元に戻してみたい。昨日、やっと自宅に何冊か写真集が到着したので!!
                                                                                                                    つづく

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大西みつぐ / 写真家
古くから様々な読者に支持されてきた「アサヒカメラ」も2020年休刊となり、カメラ(機材)はともかくとして、写真にまつわる話を書ける媒体が少なくなっています。写真は面白いですし、いいものです。撮る側として、あるいは見る側にもまわり、写真を考えていきたいと思っています。