「Serpens Albus~白蛇の紋章~」WHITESNAKE (1987)
このアルバムは正に情念が産み出した作品、
そう言っても過言ではない。
1984年にリリースされた
前作「SLIDE IT IN」が全米でスマッシュヒット
これで好感触を得たボーカルの
デイヴィッド・カヴァデールは
本格的に全米でのビッグヒットを
視野に入れたのだろう、
ホワイトスネイクの持ち味である
ブルース系ロックのスタイルをかなぐり捨て
モダンなハードロックへの路線変更を試みた。
それは恐らく前作から加入した
若きギターヒーロー、ジョン・サイクスに
触発されたのかも知れない。
ジョンは以前、THIN LIZZYに加入し
その叙情的なロックスタイルを
エネルギッシュな音楽性へと変貌させた。
とは言え、あの渋さを売りにしたような
ホワイトスネイクが生まれ変わるのだろうか?
その答えこそがこのアルバムと言っても
過言ではない。
アルバムが発売されると
早速音楽誌でレビューを確認した。
思いの外高評価ではあったが、
私は少々懐疑的ですらあった。
新作にセルフカバー曲が2曲収録されている、
どちらも過去に聴き覚えのある曲だ。
そう、私も幾つかホワイトスネイクの作品は
聴いたことがあった、
「LOVE HUNTER」と「Saints & Sinnes」
後述のアルバムにこの2曲は収録されていたが
そこまで印象に残っていなかった。
発売されてしばらくすると
アルバムがそこそこ話題に取り上げられ
それじゃ聴いてみようか、と思った矢先
ラジオ番組でアルバムからある1曲が流された
「めちゃめちゃカッコええやん!」
その曲は「Straight for the Heart」
シングルカットされた曲ではなく
メディアに取り上げられた曲でもない
アルバムの収録曲のひとつ。
にも関わらずこのカッコよさ!
これはアルバムを聴かなければ、と
その週末にはレコード店へと足が向いていた。
そして購入したアルバム
針を落として第1音を聴いた瞬間…
鳥肌が立った!
A black cat moans
when he's lonely with the fever~♪
カヴァデールの第1声は過去の名曲
「Crying in the rain」に
新たな息吹を吹き込んだのだ!
歌詞の内容は失恋を悔やむ女々しい男の歌
…ながら
その激情が歌と演奏に如実に反映されている。
当時高校生で恋愛経験のさほど無い私でも
凄まじいばかりの情念を感じた。
その歌を一層引き立てるのが
ジョン・サイクスの迸るまでの熱いギター
聴けばすぐに彼とわかるチョーキングと
鬼気迫る中盤のギターソロは正に圧巻
歌だけでなくもっともっと
このギターも聴きたい!
あっという間に(レコードなので)
B面のラストまで聴き終えた。
この時点でカヴァデールの挑戦は成功した、
と言えるだろう。
さほどこのバンドに関心の無かった私を
熱狂的な"白蛇信者"にしたのだから。
その後、このアルバムは全米で大ブレイク
彼らは不動のポジションを手に入れた。
このアルバムではオーソドックスな
歴代のホワイトスネイク節を
新たに蘇生させたのみならず
モダンなハードロックへのトライが
功を奏した形となっている。
「Straight for the Heart」然り
「Bad Boys」
「Children of the Night」などは
新生ホワイトスネイクと言っても
過言ではない。
余談だがEDGUYの
「Lavatory Love Machine」と言う曲の最初のトビアス・サメットのシャウトは
この「Bad Boys」のオマージュである、
と言う説もあるらしい(笑)
「Here I Go Again」
「Is This Love」
「Don't Turn Away」と
バラードが3曲収録と言うことで
AOR的な印象を持たれるかも知れないが
決してハードロックの軸をブレることなく
1本芯の通った作品となっている。
そしてこのアルバムを語るに当たって
避けて通ることの出来ない"あの曲"について
最後に触れておきたい。
そう言わずと知れた
「Still of the Night」のことである。
1980年代中盤、レッド・ツェッペリンの
音楽性が再考され(以下ZEP)
彼らを模倣したバンドや曲が増えていた。
この曲も数あるZEPクローンの
一つであると捉えられ
ボーカルのロバート・プラントからも
直々にクレームが入ったのだとか。
確かにZEPの音楽スタイルを踏襲している
部分がなきにしもあらず、ではあるが
曲そのものの素晴らしさは本家にも劣らない
ドラマチックな名曲である、と
個人的にはそう思っている。
アルバム全体のイメージとしては
やはりボーカルの素晴らしさ、
ここに刮目しながら聴いていただきたい。
だが私はこの後、メンバーを大幅に入れ替えた
ホワイトスネイクよりも
(元々入れ替りの激しいバンドだった)
ギタリストのジョン・サイクスに魅かれ
過去のTHIN LIZZYのアルバムを聴き込み
その後はジョンが結成した新バンド、
BLUE MURDERへと傾倒していくのであった。
が、それでもこのアルバムの輝きは
今となっても色褪せることはなく
発売から35年が過ぎた今もなお
かなりの頻度で聴いている、
それほどの名盤であると断言できる。