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【看取りの現場から】たったひとつの「触れ合い」が、心を救う
――その瞬間、触れることが持つ力
大切な人が最期のときを迎える瞬間。そのとき、何をしたらいいのか、どう寄り添えばいいのか、悩む方は多いでしょう。「何もしてあげられない」と感じる人もいるかもしれません。ですが、実はたったひとつ、誰にでもできる、そして大きな力を持つ行為があります。それが「見つめる」ことと、「触れる」ということ。
触れることで心がつながり、癒される――看取りのプロたちは、その奇跡的な力を日々目の当たりにしています。この「最後の触れ合い」がどんな効果をもたらすのか、そしてどのように寄り添うべきなのかをご紹介します。
1.看取りにおける『触れる』ことの意味
「触れる」行為には、言葉では伝えきれない想いを届ける力があります。最期を迎える人にとって、ただそばにいるだけではなく、手を握ったり、背中にそっと触れたりすることは、安心感を与える大きな支えになります。
1.触れることで生まれる安心感
看護師や介護士がよく言うのは、触れることで患者さんの表情が穏やかになるということです。皮膚にはたくさんの神経が集まっており、優しいタッチはリラックスを促すホルモンである「オキシトシン」を分泌させます。このホルモンが痛みや不安感を和らげ、穏やかな気持ちをもたらしてくれます。
2.心を伝える「言葉にならないコミュニケーション」
最期を迎えようとしている方が、必ずしも言葉で気持ちを伝えられるわけではありません。それでも、手を握ったり、そっと触れることで、「私はここにいます」「一緒にいますよ」という温かい想いを伝えることができます。
この無言のコミュニケーションは、ただそこにいること、そして触れ合うことで、相手を安心させ、心を穏やかにします。家族にとっても、この行為を通して、大切な人の存在をしっかりと感じ、心の平穏を取り戻すことができるのです。
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見つめたり触れることは、単なる動作ではありません。それは、「あなたはここにいることが大切です」という、生命に対する深い敬意を表す行為なのです。言葉を超えて、心と心が通い合う、かけがえのない瞬間と言えるでしょう。
2.触れるケアが紡いだ、最後の物語
看取りの現場で、時に言葉よりも力強く心に響く「触れるケア」が織りなす、癒しの物語があります。
ある看護師は、生と死の境に立つ患者さんの手を握りしめ、まるで子守唄を奏でるように、ゆっくりと肩や胸を撫でました。すると、それまで苦しそうに呼吸していた患者さんの表情が、少しずつ穏やかに変化していき、まるで安らぎを見つけたかのように、静かに息を引き取ったそうです。
また、ある家族は、最期の瞬間まで温もりを伝えようと、亡くなる方の足を優しくなで続けました。言葉を発することはできなくても、表情が和らいでいくのを見ながら、心と心が通じ合ったことを確信したといいます。触れて、ケアをすることによって、家族全員が、最期までできる限りのことを尽くせたという達成感と、深い安らぎを感じ、その後の日々を前向きに歩み始めることができました。
3.実践-触れるケアの基本ステップ
それでは、具体的にどのように「触れるケア」を行えばよいのでしょうか?プロではない家族でも簡単に実践できる方法をいくつかご紹介します。
(1) 手を握る
最もシンプルで効果的な方法です。相手の手を握り、軽く圧をかける程度でOKです。「ここにいるよ」と心で伝えるつもりで行いましょう。手の甲を手のひらでなでるのも効果的です。
(2) 肩や背中をなでる
ベッドのそばに座り、肩や背中を優しくなでます。手のひらを使い、ゆっくりと行うと相手がリラックスしやすくなります。心拍よりもゆっくりしたリズムを意識すると良いでしょう。
(3)足をやさしくなでる
足先は冷えやすい部分ですが、温めることで全身がリラックスします。また、優しくなでることで老廃物が流れやすくなり、むくみの解消につながります。決して強く押したり圧迫したりしないように注意してください。苦痛であるだけでなく、圧迫によってかえって老廃物が流れにくくなることがあります。
(4) 表情を見て調整する
触れるケアの最中は、相手の表情や呼吸に注目してください。リラックスしていると感じたら、ゆっくり続けましょう。不快そうであれば、すぐに手を止めてください。
4.最後に――「触れるケア」が心を癒す理由
触れるケアは、技術的なスキル以上に「想い」が大切です。看取りの場面では、相手にとっても家族にとっても、不安や悲しみが入り混じる時間になります。その中で、手を握り、触れることで「一緒にいる」という温かさを共有することができます。
何より、触れるケアを実践した家族からは、「やってよかった」「最後の瞬間に寄り添えたことが救いになった」との声が多く聞かれます。このケアは、亡くなる人だけでなく、見送る家族の心にも深い癒しをもたらすのです。
――あなたもできる最後の『触れ合い』
「看取りのリンパケア」は特別な資格がなくてもできるシンプルで温かなケアです。最期の時間にそばにいること、触れることの大切さをぜひ心に留めてください。そして、大切な人との「最後の触れ合い」が、癒しと安心の瞬間になりますように。