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クリエータ紹介⑥栗原佑弥さん・下前仁志さん・古川瑠晟さん - 異なる才能、同じ志で挑むスライド発表ツール開発の舞台裏
このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。
今回は、同じ大学に通う三人、栗原佑弥さん・下前仁志さん・古川瑠晟さんの、スライド発表に特化したオンライン会議ツール「DeckHub」プロジェクトについてお伝えします。
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プロフィール
プロジェクト名:スライド発表に特化したオンライン会議ツール「DeckHub」
支援プランと期間:Pro(23年8月~24年1月)
クリエータ:栗原佑弥さん(九州工業大学 情報工学部4年)、古川瑠晟さん(九州工業大学 情報工学部4年)下前仁志さん(九州工業大学 情報工学部4年)
これまでの歩み、来歴
現在は、九州工業大学 情報工学部で共に学ぶ “同級生” の三人ですが、それぞれの持つプログラミングのキャリアは少し異なります。
代表クリエータとしてプロジェクトを引っ張る栗原さんは、大島商船高等専門学校(山口県)1年生のときにプログラミングと出会い、以後、全国高専プログラミングコンテストに参加するほどのめり込みました。九州工業大学入学後、デジタル作品の制作を行うコンピューターサークル「C3(Composite Computer Club)」に入り、後に福岡未踏で「DeckHub」プロジェクトへの挑戦を共にする下前さんと出会います。
下前さんは、大学に入ってからプログラミングを始めました。C3のサークル活動で先輩に教えてもらいながら学びを深め、大学1年生でハッカソンに出るも、結果が実らず悔しい思いをしたと言います。悔しさを原動力に技術系のアルバイトなども始め、開発力を磨いてきたそうです。栗原さんとはサークルが同じでしたが、大学3年生で一緒にハッカソンに出場したことをきっかけに、深い関わりを持つようになりました。
古川さんも、大学入学後にプログラミングを学び始めました。ただし、栗原さん・下前さんと違いC3には所属しておらず、コロナ禍でのオンライン授業が主で、入学後の2年間はグループ開発の経験がほとんどありませんでした。古川さんは、「授業で理論的な部分は学ぶものの、社会との接合はイメージが湧いていなかった」と当時を振り返ります。
彼ら三人は、大学3年生で同じクラスになり、チームとして実験をともに進めました。その縁が、現在、福岡未踏で「DeckHub」プロジェクトに取り組むきっかけとなりました。
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プロジェクトの概要
彼らが熱中するプロジェクト「DeckHub」は、スライド発表に特化したオンライン会議ツールです。スライドを投影しながらの発表を伴うオンラインイベントや会議では、発表者が画面共有に手間取ったり、見せたい画面と違う画面を出してしまったり、動画や音声が意図したとおりに流れないなど、失敗が起きがちです。また、スライド進行のタイミングが早すぎるなどを理由に、聴講者が重要な資料を見逃したり、再度参照したくてもできなかったり…といった課題もあります。「みんなが抱える小さなイライラを集めることで、オンラインイベントや会議がもっと良い体験になるのではないかと思った」と栗原さんは話します。
興味深いことに、このアイデアは、福岡未踏に応募するために生まれたわけではありません。元々ものづくりに意欲的だった栗原さんと下前さんが、「こんなものがあったらいいね」と話すなかで生まれたタネをプロジェクト化したのです。
そのため、もともとスライドに関わる全般的な機能を取り入れるアイデアでしたが、福岡未踏では、2024年1月までの限られた期間である程度の完成まで持っていく必要があることを踏まえ、発表ツールに特化する方向で開発を進めています。
「DeckHub」は、イベント企画者がイベントを作成し、セッションごとにスライドを紐付けていくことが可能。参加者は質問や感想をコメントの形で投稿でき、それらがどのスライドの発表時に投稿されたものなのかも表示します。投稿に対する絵文字でのリアクションや、ニーズの高い質問を上に表示するなどコミュニケーション要素の強い機能も備える予定で、イベントの趣旨や目的に応じ、参加者が見る発表資料のページを操作できるようにするか、など自由度の高い設定も実装するそうです。このツールは、オンラインだけでなく、対面の状況でも使用可能なものとなる予定で、あらゆるスライド発表の体験を向上する可能性を持っています。
福岡未踏への応募理由
彼らがこのプロジェクトを始めた理由は、前述の通り、元々サービスを作りたいという思いがあったからです。一方、福岡未踏に応募した理由は、サーバー代などで必要な金銭的支援を受けられる点と、PMやメンター、他のクリエータからのアドバイスやフィードバックを得られる点からでした。
実際に、「あれもこれも実装したい!」と始まった、いわば無謀な「DeckHub」プロジェクトを、1月までの期間でどこまで仕上げるのか、誰に向けてどの機能を重点的に開発すべきなのか…といった具体的な仕様に落とし込むプロセスでは、PMの存在が大きかったと言います。また、中間発表の場で、他のクリエータから「自分だったらこういう機能を付けると思う」といったコメントも得られ、重宝するそうです。
福岡未踏が「DeckHub」プロジェクトを前に進めるために良い機会なのは確かですが、なぜこの三人チームだったのでしょうか。お話しを伺うと、三人の絶妙なバランスがチームの挑戦をより良いものにしていることが分かります。
古川さんは、あえて言うと、三人のなかでもっとも開発キャリアが浅いメンバーです。古川さんに話を聞くと、「以前から、『同じ学年に金髪の天才がいるらしい』と噂で聞いていた。それが栗原くんだった」とのこと。同じチームとして実験を進めると、確かに栗原さんの開発能力は恐ろしく高く、一方でそれだけでなく、仲間に知識や技術を教えるといった人間的魅力にも惚れ込んだと話します。同様に、下前さんに対しても、技術力はもちろん「必ず期日までに完成させてくる勝負強さがあり、尊敬していた」そうです。
そんな二人が、開発キャリアが長くない古川さんをチームに誘ったのは、「古川さんがチームのモチベーションを上げる存在だった(栗原さん談)」から。実際、古川さんはチームの雰囲気を良くして、ポジティブにプロジェクトを進める役割を果たしているそうです。
技術力、マインド、コミュニケーションスキルの観点で、それぞれが秀でたものを持つ三人チーム。福岡未踏で同じプロジェクトに取り組むなかで、自分にないものを他のメンバーから学ぶ機会にもなっています。
福岡未踏で成し遂げたいこと
彼らは、福岡未踏のプロジェクト期間中に「DeckHub」を完成まで持っていき、世の中に出すことを目指しています。また、マネタイズやさらなる機能追加も想定しています。今後彼らは、大学院に進学する計画を立てており、同時に「DeckHub」の開発を続ける予定です。
プロジェクトの開発初期には、野心的なアイデアを現実的な範囲内で実現するために、多くの検討と調整が必要でした。彼らは、福岡未踏の終了をゴールとせず、長期的な視点で「DeckHub」を育てていくと捉えることで、この課題を乗り越えています。
おわりに
三人が手がける「DeckHub」はコミュニケーション機能に重きを置いており、実用的なイメージが湧くものでした。なにより、三人の関係性の良さ、相互に抱く信頼や尊敬の気持ちが非常に魅力的で、福岡未踏での挑戦が開発力を磨くだけでなく、チームコミュニケーションやビジネススタンスを学ぶ場にもなっていることを実感しました。「DeckHub」のリリースと三人の今後の活躍が楽しみですね。
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福岡未踏とは
福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。
(文:五十川慈)