クリエータ紹介(21) 田中一成さん、奇ソ貞さん、陳實さん、趙佳旭さん - 高齢者が「楽しく歩ける」仕掛けを散りばめ、歩行速度の向上を実現する
このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。
今回は、高齢者の歩行速度を「楽しみながら速くする」ことに挑戦する、奇ソ貞さん、田中一成さん、陳實さん、趙佳旭さんのプロジェクトをお伝えします。
プロフィール
プロジェクト名:歩行速度向上アプリ開発プロジェクト
支援プランと期間:Solve (23年11月〜24年1月)
クリエータ:田中一成さん(Fukuoka International School Grade11)、奇ソ貞さん(Fukuoka International School Grade11)、陳實さん(Fukuoka International School Grade11)、趙佳旭さん(Fukuoka International School Grade11)
これまでの歩み、来歴
奇さん、田中さん、陳さん、趙さんの4人で構成されたプロジェクトチーム。みんなFukuoka International Schoolに通っていて、4人とも高校2年生にあたるGrade11です。国際色豊かなこのチームは、それぞれユニークな文化的背景を持ち育ちましたが、ものづくりに対して情熱を燃やしているのは共通しています。
チームリーダーを務める奇さんは、2005年生まれの18歳。彼女は日本で生まれ、5歳までを日本で過ごした後、一時期韓国に戻りました。その後、日本の東京にある韓国の高校に通い、最終的に父親の仕事の都合で福岡に移住しました。このプロジェクトでは、チームの統括リーダーとして活躍しながら、デザインも担当しています。彼女は、アートとしての絵画よりも産業アートに興味があり、彼女にとってUIデザインは初めての実践ですが、コンピュータを使ったクリエイティブな作業には以前から興味がありました。また、チームでのものづくりや、チームを率いることにも挑戦してみたいと以前から考えていました。
田中さんは2006年生まれの17歳。大阪で生まれた彼は幼少期を岡山で過ごし、その後、中学生のときに家族と共に韓国へ移住しました。現在は福岡で学び、このプロジェクトでは奇さんとともにデザイン面を担当しています。小学校の頃から図工のクラスが好きだった彼にとって、福岡未踏に参加し、UIデザインやUXについて学び、経験を積むことができたことはとても貴重でした。
陳さんは、2007年生まれの16歳です。彼はデンマークで生まれ、2歳で台湾に帰国。その後小学校2年生のときに東京へ移り、中学校になったころ福岡に来ました。彼はプロジェクトでプログラミングを担当しています。もともとはビジネスに興味を持っており、YouTubeチャンネルの作成やShopifyを使ったTシャツ販売など、さまざまなビジネス活動に挑戦してきました。しかし、Shopifyではテンプレートに従う必要があったため自由度が低く、プログラミングの必要性を感じて独学でRubyなどのプログラミング言語を学び始めたと言います。SNSやマッチングアプリなどを個人開発するも、より深く学びたいと考えプログラミングスクールに入学。それでもAPIなどは独学を続け、現在の深い知識を習得するに至りました。
趙さんは2006年生まれの17歳。彼は福岡で生まれ、直後に中国に戻り、小学4年生まで中国で過ごした後、再び福岡に戻りました。中学2年生まで私立の中学校に通い、その後インターナショナルスクールに転校しました。プロジェクトでは陳さんと共にプログラミングを担当しています。彼は幼い頃からレゴが好きで、特に、レゴで遊びながら直感的にプログラミングを学べる「マインドストーム」でプログラミングの考え方を身に付けました。その後、オンラインのプログラミングコースなどで学ぶ機会はありつつも、今回が初めての本格的なプロジェクト体験となりました。
プロジェクトの概要
課題提供:福岡市
福岡市からの課題に応える形で、彼らは、高齢者の歩行速度向上を目的としたアプリ開発に取り組んでいます。このプロジェクトは、単に歩行速度を上げることだけではなく、「楽しく」「速く」「気分良く」歩けるようなアプリの開発を目指しています。
彼らが開発しているアプリの核となるのは、ユーザーに合わせた、Googleマップでの散歩ルートの推薦機能です。この機能は、ユーザーが楽しんで歩けるように、地元福岡の魅力的なスポットをルートに組み込むことで、ただ歩くだけでなく、新たな発見や体験を提供します。また、彼らは、ローカルスポットへの訪問を促進することで、地域の活性化にも寄与する可能性があると考えています。
アプリの特徴的な機能の一つに「インターバル速歩」があります。これは、3分間の早歩きとゆっくり歩きを交互に行うウォーキング法で、筋肉に負荷をかける歩き方と、負荷の少ない歩き方を繰り返すことで、高齢者が無理なく歩行速度を上げることができるように設計されています。この機能により、適度な運動を促しつつ、心地よいペースで歩行を続けられるようにサポートします。
さらに、アプリは高齢者にも使いやすいインターフェースを目指しており、アイコンや文字の表示を大きくし、直感的に操作できるように工夫されています。色の選定にも配慮がなされ、目の負担を減らすために青を基調とした落ち着いたデザインが採用されています。また、普段から使い慣れたLINEでのログインも実装しています。
プログラミング面では、GoogleマップのAPIを活用しており、ユーザーが希望する歩行時間などの情報に合わせ、評価の高いスポットを推薦する機能を実装しています。また、いわゆる「歩きスマホ」を防止するために、スマートフォンを見ながら歩くことを前提とするのではなく、バイブレーションやナレーションを通じて歩き方のアドバイスを提供する機能の開発も検討されています。「歩きスマホ」を防止するという観点は、福岡未踏で他のクリエーターから受けたフィードバックをもとに改善が加えられようとしています。
さらに、健康データの活用も重要な要素で、歩行スピードや歩幅、歩数などのデータを収集し、それをもとにどのような病気が予防できるかをユーザーにフィードバックすることで、健康寿命の延伸に寄与することを目指しています。
このプロジェクトは、高齢者が日常的に楽しみながら健康を維持できるようなアプリケーションを提供することで、社会的な課題解決に貢献することを目標としています。若き開発者たちの情熱と技術が結集し、新たな価値を生み出す取り組みが進行中です。
福岡未踏への応募理由
福岡未踏プロジェクトへの応募は、奇さんと田中さんが、学校の進路相談カウンセラーからの情報提供をきっかけに知り、共に挑戦を決意したことから始まりました。彼らは、福岡未踏の「チームでのものづくり」の機会に強い興味を持ち、自らの情熱を形にする場としてこのプロジェクトに魅力を感じました。
奇さんと田中さんは、技術的な知識や開発経験に不安を感じつつも、未踏プロジェクトを通じて新たな挑戦をし、自分たちのアイデアを実現することに強い意欲を持っていました。彼らは、プロジェクトに対する勇気と情熱を持ち合わせ、チームで何かを成し遂げたいという共通の願望を持っていました。そこで、プログラミングに詳しいメンバーを誘うことにしたと言います。
陳さんと趙さんは、それぞれプログラミングに関する経験と技術を持っており、奇さんと田中さんからの誘いを受けてプロジェクトに参加することを決めました。陳さんは、これまでの経験を活かし、新たな技術に挑戦することに興味を持ち、趙さんも調べながら開発を進めることで技術を身につけることができると感じ、プロジェクトへの参加を決意しました。
プロジェクトが開始すると、思いもよらなかった壁にもぶつかりました。デザインを担当する奇さんと田中さんは、二人の間で、デザインの実装において重視するポイントが違った際の調整に頭を悩ませました。これは、どちらも作ってみて、他のふたりの意見を聞いてより適したものを選ぶことで調整できたそうです。プログラミングを担当する陳さんと趙さんは、初めてのiOSアプリの開発で、これまでのWebアプリ開発とは異なる書き方に戸惑いました。また、ドキュメンテーションやライブラリの使い方なども分からず、コードのエラーと戦いつつ、一つひとつ調べながら地道に乗り越えたと振り返ります。
コミュニケーションに関しても工夫が求められました。4人のチームプロジェクトはメンバー全員にとって初めてのことで、誤解が生じないようにNotionを使ってプロジェクト管理やコミュニケーションを進めたと言います。また、学校とのバランスを取ることも難しく、冬休み中の最後の2週間を使い、毎日誰かの家に集合し、ほぼ1日を福岡未踏のプロジェクトに注いで過ごしたそうです。「大変だったけど楽しかった。」追い込み期間を振り返り、4人はそう口を揃えます。
福岡未踏で得られたこと
最後に、福岡未踏の期間で得られたことや、今後の人生に活かしたいことについて一人ひとり伺いました。
奇さんは、福岡未踏でリーダーシップとプロジェクト管理の経験を積み、自分が何に興味を持ち、何が得意なのかを探求できたことが最大の収穫と感じています。プレゼンテーション、デザイン、チームマネジメントに対する情熱を発見した彼女は、かねてから興味があった経営学や経済学と、今回のプロジェクトを通して興味が深まったデザインや開発の双方を大切にし、自身の幅を広げ、コンテストやプロジェクトで積極的にチームを率いて行きたいと考えています。
田中さんは、プロジェクトを通してプレゼンテーションスキルやデザインスキルを磨けたと感じています。これまで人前で話すことに苦手意識を持っていた彼ですが、情報のまとめ方、プレゼンや準備の進め方を学び、今後は自信を持って人前で話せそうという手応えを感じています。また、Figmaなどデザインツールの技術も習得できたことから、実務に活かすことができる学びを今後も深めたいと意欲を持っています。
個人開発の経験が豊富な陳さんにとって初めてのチーム開発となった今回のプロジェクトは、一人ひとりが自分の担当領域に責任を持ち、集中して開発を進め、気付いたらみんなの力を合わせて大きなものができる新鮮な体験でした。プロジェクトを始めるまで、未経験の技術領域に関しては自信がなく、着手を避けていた彼は、取り組んでみると案外習得できる、ということを学びました。未経験の技術にも積極的に手をつけていき、その技術を将来のビジネスに活かしたり、引き続き開発したりといった将来を描いています。
趙さんは、プログラミングスキルの向上とプロジェクト管理の経験を得られたと感じています。特に、XcodeとSwiftを使用したiOS開発に取り組むなかで、プログラミングスキルを高めることができました。また、3ヶ月と期間を定められたプロジェクトも、ミーティングやプレゼンテーションなどのプロセスも初めての経験だったため、「仕事はこんなふうに進めるのか」と解像度が高まったと言います。将来、科学系やコンピューターサイエンスの分野に進むことを考えている彼は、これらの経験が今後の人生に大きく寄与すると感じています。
おわりに
高齢者の歩行速度をただ速めるだけでなく、「楽しく」「速く」「気分良く」歩くことができるアプリを開発するプロジェクト。健康のための散歩という発想ではなく、ローカルスポットを紹介したり、抑制できた病気などの健康データを得られたりといった機能により、楽しさを散歩のモチベーションにするアイデアが光ります。
何より、今回お話を伺った、16歳・17歳で構成された若きチームは、それぞれが自身の経験やスキルという観点でも「未踏領域」に挑戦しています。彼らの姿からは、一人ひとりの経験、スキルやそれらへの自信がたとえ十分でなくても、力を合わせれば大きなことが成し遂げられるという勇気を与えられます。彼らが世界中で活躍する未来が楽しみですね。
福岡未踏とは
福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。