NODAMAP「正三角関係」殺意を持たない手ばかりの世の中で【観劇感想文】
※ネタバレあり個人の感想文です。
NODAMAP新作公演、素晴らかった
幕開けはなんらかの裁判の場面。喧々諤々の応酬により、ほどなくして父殺しの容疑をかけられた息子の物語だと知れる。これがまず一つの主軸、「カラマーゾフの兄弟」がモチーフ。
そして彼は花火師であり、三人兄弟の長男。次男は物理学者、三男は教会の賄い。代々伝わる花火師一家ではあるが、彼らの生きかたはバラバラ。父親もごく潰しのろくでなし。そんな父親と長男は、実はひとりの「女」を愛していた。これが二つ目の主軸。花火師一家の憎悪と愛情が交差した人間模様。
場面が目まぐるしく変わる中、突如空襲警報が鳴り響く。きな臭い単語の端々から、時代が戦時下だと理解する。長崎、浦上、そして8月。徐々に浮かび上がっていくこの三つ目の主軸が、実は物語のいちばんの芯となって、避けられなかった酷い「あの日」へと到達する。
こういった、主軸が複数同時に進行して、錯綜する人間模様とともにやがて「かつて近代にあった歴史」を掘り起こし示すという描きかたは、最近のNODAMAPの作品の恒例です。パンフなどで野田さんが言及されている通り、次の世代へとつなげていかねばならない歴史を、演劇という広い世代が受け止められる(はず)の手法で、卓越した脚本と構成、演出で描き上げ続けています。
原爆、戦争、拉致、そういった衝撃と悲痛を覚えてもいつのまにか忘れてしまう出来事をまたフォーカスさせ、眼をそらしてはいけないと訴えかけていく姿勢には、敬服を覚えずにはいられません。
殺意のない手による殺人は犯罪ではない、そのような台詞が劇中にあります。まさに現在、さまざまな言い訳によって「殺意」なく「殺人」が大量に同時に世界中で起こっています。その手は確かに有罪か無罪かを問われることすらないけれど、黒焦げになって死んでいく被害者たちは確かに存在しつづけている。この矛盾がさばかれない歴史、戦争というもののむごさを、今一度思い知らなければならない。何もできなくても、知って、意識しなければならない。そういうことを感じました。
主演三人の方が三者三様の良さ
松本潤さんの真摯で真面目で、舞台を縦横無人に駆け回る演じっぷりが舞台を引っ張ります。キャラクタも彼に寄せたのか、一途に女と花火を思いながら不器用に走り続けるさまが印象深く残ります。
そして長澤まさみさんは二役の演じ分けがものすごい。早変わりしたとき初見では気づけず慌てたほど。目の前で一瞬であれほど人格を切り替えて演じ分ける才能が恐ろしい。二役とも、ベクトルの違う懸命さが伝わってきて心を打たれました。
永山瑛太さんはあの場を一瞬で惹きつける張りある声の魅力が素晴らしい。状況を一歩引いて理性的に物事を進めつつ、実は一番の狂気を纏わせている人格を控えめながら的確に演じられています。観る度に上手さが増している気がします。
見立てを駆使し尽くした特級の演出
NODAMAPといえば見立てを駆使して同じものを違うのものに見せかける、モノの活かし方のバラエティの広さ。とても好きです。
今作では棒やテープ、そして大きな布を駆使し、まるでリング、まるで路面電車、まるで一面の砂礫を、メインキャストとアンサンブルが一体となって表現します。その表現は誰一人欠けてもミスしても成り立たない総合芸術で、これをリアルで体感できることに、毎回とても新鮮な刺激を受けます。
あと印象的だったのが、ひとつのライトが振り子のように揺れながら松本さんと松岡さんの男女二人が語りあう場面。ライトが揺れることで常に影が纏われる部分が入れ替わり立ち替わり、打算と本音を交わし合う艶めいた場面の演出として素晴らしいなと思えました。
最後に
あれも良かったこれも良かったと書き続けてもあの2時間の再現には遠く及ばない…と当たり前のことを思いつつ、NODAMAPにしか描けない作品世界をまた新たに体験できたことが嬉しいです。観られて良かったなあ…!
(おまけ)SkyシアターMBSについて
蛇足ですが初めて行った劇場だったので所感をいくつか。
・外に出ずに行けるルートが複数あって便利。
・JRの西側にあるので、JRが近く、阪急はすごく遠い。
・ロビーは狭い。螺旋階段の下で物販とテーブルと数席だけのソファとわずかな空間しかない。公式HPの印象とはだいぶ違う。
・座席、凄く観やすい。
千鳥配置だし、勾配もちゃんとあって前の人の頭が全く邪魔にならない。座面が広いかちょうどよい感触かはわからない。そこまででもないかなと思う。二階席も距離は遠いけれど、ちゃんと全部見える。視界を遮るモノがない。NODAMAPのような舞台全体を自在に変えて生かす舞台だと二階席で観たほうが映える演出もある。(一度目二階席で観て、二度目一階席だったので余計そう思えた)価格が同じでいいかは微妙だけど。
・スタッフは丁寧だけど数が少なめ。退場時の案内が劇場外では無くて、新しい建物だし降りるルートを案内したりエスカレーターでの渋滞に目を配る人が欲しかったと個人的には思う。