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劇団☆新感線「天號星」を観て入れ替わりに思いを馳せた【観劇感想文】

※大阪での一度きりの観劇、戯曲未購入、
思い出しつつのネタバレ有り感想文です。

・いのうえ歌舞伎名物・人情チャンバラ劇を満喫!

とりあえず粗筋から。

今回、時代は江戸の元禄、場所は大江戸八百屋町。
この町では仕事を差配する口入れ屋が大繁盛。
ところがこの店の裏稼業は悪党を始末する引導屋。なかなかきな臭い一面を持つが、この店以上に胡散臭く腹黒い連中もいて、なにやら企んでる様子。

そんな町に、生粋の冷徹な人斬りが紛れ込んでくる。
さらに何の因果か宿縁か、この人斬りが口入れ屋の主人である気弱な中年男と人格が入れ替わってしまう。
この奇妙な出来事をきっかけに、彼らと取り巻く人々との、陰謀と我欲と愛憎が入り混じった物語が加速度をつけて転がり出す……。

そんな出だしの、勧善懲悪・人情物・おふざけあり、プラスこれでもかとぐいぐいと殺陣を盛り込んだ、にぎにぎしく華やかな、いい意味でいつもの「いのうえ歌舞伎」でした。

今作は、そこに「人格入れ替わり」というスパイスが含まれているのですが、これがもう、とびきり絶妙。

剣劇アクションではトップクラス、そして影の濃い暗殺者が多かった早乙女太一が、泣き言を言いまくり腰がひけている情けない中年男の振りをする、そしてそれを真面目にしっかりと演じている。この落差のおかしさが絶大で、この劇を引っ張った随一の良さだと思いました。「蛮幽鬼」のころから考えると、成長されたんだなあ、とほろりとしたり。

さて、物語のほうですが。
人斬りの腕は卓越していても、ほかに何も得られなかった男が、ハプニングを経て生活と立場、つまり居場所を得たことできっと初めて、権力への欲を抱きます。

その変化に、彼もやはり人間だったのかという側面を見るのも、状況をより巧く利用しようとする生きることへの貪欲さずる賢さを感じ取るのも、観る側の自由。何せ彼は背負った過去が不明で、ただ無情な人斬りだと示されるだけだからです。

だからこそ、生きてくるのがラストです。
結局入れ替わったまま戻らなかったという、入れ替わり劇には珍しい結末。

……いきなりラストへ話が飛ぶのもあれですが、流れ上。

銀次の心と半兵衛の体を成敗し、銀次の体と半兵衛の心を持つ男は、ひとり出立する道を抱きます。この結末が、すがすがしい。娘たちと仲良くという人情物の流れになると思いきや、入れ替わった男はこれまでの人生を捨て、孤独な道をゆく決意を持ち旅立つのです。

銀次が背負っていたものが何も無かった≠知らされなかったからこそ、何が待っているのか、まるで分からない道を。

もしかしたら、それは、銀次が生きてきた道に似ていくのかもしれない。銀次のような剣術を得たことで、いつのまにか銀次に似た生き方をせざるを得なくなっていたのかもしれない。

一度人を斬れば「もと」には戻れない、その証左のように。

最後。
銀次とも半兵衛とも判じられないその男は、多くの行灯に煽られつつ、悲壮に勇猛に、啖呵を切る。その瞬間。

ああ、古田新太と早乙女太一が入れ替わった、

と、このとき、すとん、と腑に落ちたたのです。

・新感線を観続けてきたイチ観客としてのとても私的な感慨

すべての演目ではないですが、新感線の芝居はかなり昔から観てきました。
役者もスタッフも年を重ねていき、最近のパンフやインタビューでは、面白おかしく、時に真剣に、年齢を経ての自分たちの立ち位置やこれからについて語る場面を見ることが増えていきました。だから、

これから、新感線はどうなるんだろう、
いつまで、新感線を楽しめるんだろう。

という漠然とした不安に近い思いを、いつしか抱いていました。
生身の人間が演じているのだからいつかは終わりを迎えるのは当たり前、シェイクスピア的な普遍の物語性があるわけではなく、彼ら彼女らでないと作れないスタイルの作劇なのだから、近い未来に受け入れる終わりは、受け入れなければいけない。

でもきっと、派手に綺麗にラストを決めるのだろう。
そのときには、せめて立ち会えたらいいな、という感覚でいました。

が。

入れ替わり、いけそうじゃね?
と、この芝居は思わせてくれました。

往年のキレッキレの古田さんの殺陣を生で見た世代……ではないのですが、早乙女さんからその系譜を感じられたのです。殺陣の巧さは語るまでもない前提として、鋭利な冷徹さと同時に愛嬌あるコミカルさを演じあげ、舞台中央で口上を叫び観客を一手に惹きつけるスター性。

この方なら、新感線の魂を引き継いでいただけるのでは。
そう感じたのでした。

もちろん、彼が主宰する劇団があるのは承知しています。
そのうえで、新感線のような「くだらなく、けれどただ面白い」演目をつないでいってくれる、そんな期待を持たせてくれたのです。あのラストの、古田さんが演じた数々のヒーローを思い出す、半兵衛/銀次の堂々たる佇まいに。

だいぶ個人的な妄想が入ってますね。……書くくらいなら、許されたい。

・セットやキャストさんもみな素晴らしく。

直線的な格子模様がシンプルで渋く、金屏風などが目立つ程度の抑えた舞台セットはシリアス多め、チャンバラ満載なこの劇にはとてもぴったりだと思いました。映像演出も派手すぎず使いすぎず、「往年の時代劇感」が漂っていて落ち着けました。

また、入れ替わりの鍵となることもあって、ここぞというタイミングでバシッと使われていた照明効果・ライティングも完璧でした。

キャストさんについては、
古田さんの好々爺っぷりと反転しての残忍な風情を併せ持てる巧さは舞台ならではの妙味だと、再確認。殺陣はそろそろしんどそうかな…

早乙女太一さんは前項まででだいぶ語ったので割愛。良い役者さんになられました…(親戚目線?)
弟の友貴さん、今回も正直コミカル強めな役柄で、出番も少なめながら兄弟の斬り合いなど見せるところはキッチリ見せていく、素晴らしい腕にほれぼれです。

山本千尋さん、全身をフルに使ったアクションの美しさと柔軟な動きがとにかく素敵で!ひたむきなキャラクタも良くお似合いで、ひたすらかっこいい存在でした。

久保史緒里さん、現役アイドルはまず顔が小さすぎてびっくりするのだけれど、ほんと小さくて…。でも歌声はパワフル、台詞回しも堂々としたもので、これまでの経験をバネに堂々と舞台に踏み込む気概を感じさせてくれて、とても素敵でした。

あと、常連メンバーの池田成志さんの隙あれば笑わせようとする役者魂、粟根さんの待ってましたの胡散臭さ、高田さんのコミカルな姉御っぷりなどなど、みなさん脇に徹しつつも存在感抜群でした。

・ただ正直、客席は使いすぎではと……

解禁されて嬉しいのはわかるけれど
けっこう間近を通ったから、まあうれしかったけれど
客側、役者側両方にリスクがあるから、ちょっとハラハラはしました。

WWホール外観 おしゃれではあります

・WWホールの所感もついでに

ホワイエとトイレの導線回りの狭さは設計時点でどうにかしてほしかった。
外観のお洒落さや巨大ディスプレイとかホールの名づけにこだわってるけれど、ちょっと人を集める施設としての配慮が足りないかと……。

座席は、やや硬めながらまあ普通かと思います。足元も狭すぎでもない(広くはない)
珍しく傘立てがあったのはうれしかったです。

・家に帰るまでが観劇ですので

夜公演、公共交通機関で家に帰らなければならない自分には結構ギリギリな終演時間でした。規制退場なら厳しかった。
ここで3時間超えの公演するなら昼しか買わない方が無難だと、これは私的メモ。

以上、
書き足りない部分がまだまだあるけれど、充分長いのでこの辺にしておきます。楽しい舞台でした!

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