外路系の体育・外路系の訓練➖錐体外路系の重要➖
活元運動とは、一口にいえば、思わずクシャミをしたり、アクビをしたり、無意識に痛いところを手で押さえたりするように、体がひとりでに動いてしまう運動であります。
一般に活元運動は、病気の治療法であるとか、健康法であるとかいうふうに解されているようですが、それはあくまでも結果でありまして、目的ではありません。
体操とか体育とかいうと、意識して体を動かす面のことだけが認識されがちですが、われわれが生存を全うしていけるのは、意識して体を動かすより、無意識に行ってしまう運動の恩恵に浴していることのほうが大部分を占めていると言えるのです。
ですから、この無意識に行ってしまう錐体外路系の運動を積極的に訓練して、われわれの日時生活に活かしていきたいというのが、みなさんに活元運動をおすすめする所為なのであります。
ご承知のように、人間の体の運動は、筋の張弛によって行われております。その筋にも、手とか足とかを意識して得る随意筋と、心臓とか胃袋のようにわれわれの意志では動かすことのできない不随意筋とがあります。
つまり意識して動く運動と、意識しないで動くうんと、この二つのものが重なって行われております。
意識しての運動は、左の頭で命令して右の身体を動かし、右の頭で命令して左の体を動かしますが、この命令を伝えるのが生理学でいう、“錐体路”であって、錐体路は後頭部で交差で交叉しております。
ですから、右の脳溢血を起こして錐体路が毀れると左の半身不随となり、左の脳溢血を起こすと右の半身不随となります。
このような錐体路系の運動以外に、われわれは意識しないのに、行ってしまう運動があります。ビックリすると思わず体がすくむとか、冷や汗をかくとか、眼にゴミが入ると洗い流すために涙目が出るとか、思わず顔が赤くなるとか、ともかく意識しないで動いてしまう体の動きはたくさんあります。それが、いわゆる錐体外路系による動きますであって、われわれ人間生活には、この錐体外路系による運動が、きわめて重大な働きをもっているのであります。
歩いていて、不意に片足を払われると転んでしまう。けれども、われわれは片足だけで立っていることができるし、片足跳びだってできるのです。ですから、不意に片足を払われても、反射的に片足だけで立っておれるのは外路系運動の準備がなされるからであります。
このように人間の運動を観てまいりますと、日常生活の中で意識して行われている体の動きの大部分が、意識しない外路系運動の裏打ちによってなされているのであります。いや、意識による運動以上に、外路系運動の方が大事な比重を占めているといえましょう。例えば、外路系運動が鈍ってしまいますと、いくらゴルフを練習しても上達しないのです。ピアノでも、習字でも、踊りでも、同じです。
錐体外路系による無意識の運動が健全になされていてこそ、はじめてそういう意識運動が思う如く行われると言えるのであります。
お茶を教えている人がおりまして、「近頃の娘さんは姿勢が悪くて真っ直ぐ立てない。おかしな格好でお尻を捻って立つんです」とこぼしますので「お茶を立てる前に活元運動をさせなさい」と私は答えました。
その人が、私に言われたように娘さんたちに活元運動をやらせたところ、どの娘さんもすらっと真っ直ぐ立てるようになった。そこで、お茶を教えるという条件に活元運動をやるという条件をつけた人がありましたが、まあ、こういうのも、活元運動の正しい使い方私理解してきたといってもいいでしょう。
活元運動は、こういった稽古ごと以外にも、普段にもっといろいろと行われております。昔の剣豪が太刀風三寸で身をかわしたのも、みなさんがパッと自動車をよけるのも、意識以前に体の裡に動いてしまう反射運動でやってしまう場合が多いのです。
そのように、危機一髪にところで思わず命びろいをすることがよくありますが、それは錐体外路系が敏感に働くからであります。
脈をうつのも、呼吸をするのも、胃が働いて消化するのも、大小便をするのも、すべて意志以外の錐体外路系の動きで行われております。また寝相が悪いのも、電車の中で思わず足を組むのも、アクビうつしたりするのも、すべて外路系的な疲労調整の要求を果たすための働きであります。
年を取ると錐体外路系の働きが鈍くなってくるので、だんだんと腰がこわばってきて、意識運動すらが思うようにできなくなってくるのです。p98
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