世界はこんなにも美しい物語で溢れているのに。
みんなたくさんの美しい物語に触れているはずなのに、なぜこの世界は醜さを増していくのだろう……ずっとそれが不思議だった。
涙を流し、憧れたはずの主人公たちの姿に近づきたいとは思わないのだろうか。目に映るのは、あのかっこいいヒーローとは正反対のケダモノばかりである。
“反対側”を考えてみれば、至極単純なことだった。
反対側とは、これまで腐るほど聞かされてきた「過激な描写が含まれた作品は悪影響を及ぼす!アニメやゲームは犯罪を助長する!」というアレだ。
暴力シーンのある作品を観たところで、そういう人間になろうとはまったく思わない。中には触発されてそうなりたいと思う人間がいるかもしれないが、割合とすればほんの僅かなものである。
逆もまた真なり。
美しいものを観たところで、そうなりたいだなんて思わない。仮に思う人がいたとしても、それはごくごく少数なのだろう。
これまでずっと不思議だったナゾ。
理由がわかった、というわけではないが、なんとなく自分の中で納得がいったような気がする。
少なくてもいい、苦しくても構わない。
どんな逆境でも諦めなかったあの主人公たちのように、きれいな心でありたいね。