さらさらと、ささやかに

ちぎられたって、踏まれたって、平気なの。
だって根っこが生きているから。
むしられたって、ひきぬかれたって、大丈夫。
どこまでも自分は続いているから。

鋭利な葉はスっと静かに傷つける。

ふねを水に浮かべたかったの?
願いを天に届けたかったの?

痛みは一瞬で、まっすぐな赤い線。
切れ味が鋭いほど、痛みはないから優しいよ。
でも濡れるたびチリチリと疼く。
1.5センチの切り傷は、人の心も支配できるよ。

派手な花を咲かせる必要はないの。
今のままそのままの自分で生きていけるから。
誰かの助けも必要はないの。
さらさらと風が吹けば、それでいい。
ささやかな光が差せば、それでいい。

いつのまにか、じわじわと。
いつのまにか、どこまでも。

さらさらとささやかに。
覆い尽くし、景色となる。

* * *

フクイチさんの「ミルフィーユnote案」に参加してみました。


#ミルフィーユnote   (フクイチさんのnoteより)
二人一組で参加する企画。
まず、何の打合せもせずに各自が文章を書く。
その後、二人の文章を一文ずつ交互に並べて一本のnoteとする。二人の書き手が折り重なったnoteはそう、ミルフィーユ。


ささいな笹さんと百瀬七海さんがやってらして興味を持ちました。
完成した作品もとても好き。奇跡的なシンクロがいくつも!
(あと、自分でやってみて初めて気づいたけど、文の掲載順がお互い逆になるので、雰囲気が変わります。両方のnoteをそれぞれ新鮮に楽しめますよ〜!)

ということで、「私ともぜひミルフィーユしてください!」とさささんに勇気を出して告白しました笑
さささん、こころよく引き受けてくださってありがとう!

さささんの文とミルフィーユしたものを、ぜひご覧ください!

* * *

一度だけ、好きな人の真後ろの席になったことがある。
ちぎられたって、踏まれたって、平気なの。

中学二年生の、夏のこと。
だって根っこが生きているから。

私は角っこの一番後ろの席で、オセロなら負け知らずの場所。
むしられたって、ひきぬかれたって、大丈夫。

目が悪いから、ほんとは全然見えてなかったけれど。
どこまでも自分は続いているから。

キリンのように、タカのように、イヌのように前だけを見た。
鋭利な葉はスっと静かに傷つける。

今でも思い出すのは、チラリと机の右から見える彼のノート。
ふねを水に浮かべたかったの?

シャーペン、オレンジの蛍光ペン、あと不思議な色の青いマーカー。
願いを天に届けたかったの?

すでに告白してふられていたから、気まずかった。
痛みは一瞬で、まっすぐな赤い線。

白紙に引かれる流線や文字に何度となく心が揺れた。
切れ味が鋭いほど、痛みはないから優しいよ。

蒸す夏、色めく夏、瞬く間になくなる綿飴みたいな夏。
でも濡れるたびチリチリと疼く。

ねぇ、見てるでしょ。
1.5センチの切り傷は、人の心も支配できるよ。

ある日、彼が後ろに振り返って、おもむろにそう言った。
派手な花を咲かせる必要はないの。

話しかけてくれたことは嬉しいけれど、しっかり見透かされていて恥ずかしかった。
今のままそのままの自分で生きていけるから。

うん、……見てる。
誰かの助けも必要はないの。

いいけどさ、もっとこっそり見てよ。
さらさらと風が吹けば、それでいい。

恥ずかしいから。
ささやかな光が差せば、それでいい。

ぼそりと落とされた言葉を聞き逃さなかった。
いつのまにか、じわじわと。

閃光のように鮮やかなオレンジ色の恋色。
いつのまにか、どこまでも。

大雨を予感する、強風ブルーの失恋色。
さらさらとささやかに。

あっ、そっか、あれは夕暮れのことだ。
覆い尽くし、景色となる。

* * *

いかがだったでしょうか?

さささんの甘酸っぱくて可愛い思い出と、私の笹擬人化ポエム(仲さんの企画の影響!?)のミルフィーユ。
前回の笹さんと百瀬さんのミルフィーユと同じ条件でやってみました。
テーマや文体の統一など一切なし!「20行で書く」のみ!

前回のお二人のほど、うまくなじまなかったかなぁと(勝手に相性占いみたいな気持ちになって)残念に思いつつも、一行ずつ層を重ねるたびにひとりでふふふと笑ってしまいました。
なんだろう、まったく異質な他人の文が入ることで、自分の文もぜんぜん違う意味に様変わりするのが面白かったのかな。
自分の文の中でちまちまやっていたのとは別次元で、うん、とっても広々として面白い。
重みを失った言葉が、その分軽々と飛び立ったみたいな。


特に好きなところをいくつか紹介。

私は角っこの一番後ろの席で、オセロなら負け知らずの場所。
むしられたって、ひきぬかれたって、大丈夫。

オセロのルールを全然分かってない感じに笑っちゃった。オセロはむしらないし、ひきぬかない!

すでに告白してふられていたから、気まずかった。
痛みは一瞬で、まっすぐな赤い線。

ここはわりとキマってるんじゃない、と自画自賛。


ねぇ、見てるでしょ。
1.5センチの切り傷は、人の心も支配できるよ。

ある日、彼が後ろに振り返って、おもむろにそう言った。
派手な花を咲かせる必要はないの。

この部分は彼のセリフが変わってしまって面白い。元の彼よりだいぶ怖いな。


って、一行ずつ全部つっこんでいきたい感じで、自分の中で愛おしい文になりました。

フクイチさん、楽しい発明をありがとうございます!
もっといろんな方のミルフィーユを見てみたいなぁ。
私もよかったらまた誰かとやってみたいです。お声がけくださいませ。

最後に私が好きなさささんのnote紹介。

さささんの文を読んでいると、明るくて軽やかであることと深みがあることは全然矛盾しないし、それどころか合わさって凄みを増すものだなぁと思います。

空とネコ」でたくさんの方が「す、すごい…」とざわついてましたが、それより前に書かれてた「いまだけおばけ」もそのタイプ!なんとも言えない面白さ!「空とネコ」がハマった方はぜひ読んで〜!
(「私のが先にさささんのすごさを知っていたぜ」というファンによるマウンティング行為かも笑)


最後まで読んでくださりありがとうございました!
ミルフィーユ文、ぜひやってみてくださーい!


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うめがき たね
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