シュレディンガーのホールトマト
夕ご飯にミネストローネを作ろうとした。
うちの息子二人は苦手な野菜がたくさんある。
そのため毎度、食べさせるのに苦労する。
「すっごく美味しくできたから食べてごらん」
「食べたらめっちゃ元気になるよ」
「一口でいいからこっちも食べてよ!」
「そっちばっか食べてこっちを残すとか許さんからね!」
「だからご飯前にみかんとバナナ食べるなって言ったでしょ!」
「一口でも食べないと明日おやつなしだよ!」
「もっとちゃんと口をあけろ!!」
「寝たふりすんな!!!」
上から順にどんどんイラついていくわたくし。
でもミネストローネはぱくぱく食べる子供達。
トマトがまろやかに全てを包んでくれるおかげ。
普段は見かけただけで完全拒否のナスもピーマンもネギも、セロリだって気にせず食べてくれる。
なので我が家では頻繁に登場するミネストローネ。
苦手な野菜の存在を極力消すため、みじん切りを頑張らねばならぬのがなかなか手間だが、野菜を食べさせるためならえんやこりゃ。
玉ねぎ、ニンジン、ピーマン、えのき茸、しめじ、キャベツ、ネギ、セロリ、ブロッコリーを刻みに刻んだ。
そしてひき肉とウィンナーとともにじっくり炒める。
半透明の玉ねぎ、しんなりした野菜たち。
いい感じ、いい感じ。
あとはホールトマト缶を投入してくつくつ煮込めば出来上がり!
流しの下の一番低い位置の引き出しを、しゃがんでぐいと出す。だいたい尻もちをつく。覚悟のいる引き出し。缶詰やレトルトなどを貯蔵している。
ここの右端にホールトマトが……と思い持ち上げると、みかんの缶詰だった。同じサイズの缶詰が横に二つありそっちだったかと持ち上げると、それぞれ黄桃と白桃だった。
どれも同じスーパーのオリジナルブランドのもので、パッケージのデザインがホールトマトと似ていた……と言い訳したところでホールトマトは出てこない。
見た目は少し似ているが黄桃と白桃にホールトマトの役が務まる気もしない。
終わった。
ホールトマト、引き出しを見るまではひと缶残っている気がしたんだけどな……。
「シュレディンガーのホールトマト」
と思いついてだんなに話してみたら、
「全然ちがう! なんもわかっとらん!」
と切り捨てられた。
みかんと黄桃と白桃の缶詰を私は「観測」していたはずだから違うらしい。
観測なんてしっかりしたこと私にはできない気がするが、どうせ買うなら桃は二種類にしようと考えた記憶があるからまあ観測したのでしょう。
「みかん缶が食べたくなった!」とだんなは突然主張した。
夕飯は急遽、冷凍の白身魚のフライを揚げた。さつまいもも揚げて大学芋にした。
(油に同量の砂糖を混ぜて揚げるとそのままで大学芋になる、というレシピが好きすぎて作るたびに嬉しくなる。
油に砂糖を混ぜてよかったなんて! と自由を感じる)
あとは昼の残り。おあげを焼いたのと、レタスのサラダ。キャベツの味噌汁。
次男は大学芋ばかり食べて他食べず。長男もレタスには手を出さず。野菜不足兄弟。
小一時間かかったミネストローネなりかけの、刻み野菜とひき肉とウィンナー炒めはそのまま放置された。
野菜から出た水分で今はしっとりしているが、明日までにカピカピにならないか心配。
でもトマト以外の水分を先に含ませたくない、というこだわりが捨てきれない。
明日午前中、ホールトマト缶を買いに行きます。
シュレディンガーの猫に誓って。