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餃子をギュッと包むように

「夜ごはん、なんにしよっか? 何食べたい?」
ひまな休日にこう訊ねると、長男もだんなも決まってこうこたえる。
「ぎょうざっ! かーちゃんの手作り餃子!」

ちょっとめんどいなぁと一抹の後悔をしつつ、望まれているのが嬉しくて、よっしゃと気合を入れて皮など買いに行く。

キャベツのみじん切りが嫌い。
手や包丁に張り付いたり、まな板から逃げ出したり、思い通りにならないカケラたちにストレスを感じる。

そんな時、「やまと尼寺 精進日記」というお気に入りの番組を思い出すようにする。なんなら作り始める前に少し視る。
とにかくみんな楽しそうに料理をしている。食材を丁寧に扱いながら、四季を感じて、触感や香りや色彩を楽しんで。味見して、料理のアイデアを出し合って、みんなでおしゃべりして、いっぱい笑って。
そして手は休まず動き、小気味いい包丁の音を聞かせる。いつの間にか美味しそうなごちそうが綺麗にならんでいる。

いいないいな。料理ってすごい。うっとりするごちそう。見るだけでも幸せがもらえる。食べたらどんなに力をもらえるだろう。
それに作ることだって、こんなに楽しんでいいんだ。楽しめるものなんだ。いつかこの禍が収まったら、誰かと一緒に料理をしたい。

さぁ、今は一人だけど、楽しもう。
包丁の音を味わう。刻んだキャベツをボウルに入れる。思い通りにならない反乱分子は無視。ネギもたっぷり入れよう。ニンニクと生姜も。
それからキノコ。エノキは必須。シイタケもあったら入れたい。おじいちゃんが去年会いにきてくれた時、お土産にくれた分厚いシイタケ。餃子に入れたらジューシーで歯ごたえも良くて最高だった。おかげで私の餃子レシピは進化した。おじいちゃん、ありがとう。
レンコンも入れるとレベルアップ。でも無くたって美味しい。その時々の野菜室の都合でなんとでもなるから餃子は強いね。

ひき肉を軽くこねて、あれこれ調味料を入れて、野菜と混ぜ合わせてやっとひと息。餃子のひとやまを超えた。餃子はタネ作り、包む、焼くの三つの山がある。一番苦手な山は終わった。ちょっとこっそり休憩。

***

庭でとーちゃんと遊んでいた子供らが戻ってくる。4歳の長男は一緒に餃子を包みたがる。ちょっと面倒だけど大歓迎。こういう経験は大いにさせたい。3歳の頃から何度かやっている。手本を見せてやり方を確認したあと、横で好きにやってもらう。あれ? 普通にできている。以前は手に生肉がついたり、皮が破れたりでブーブー言って、ずっとつきっきりで見ていなくてはいけなかったのに。いびつだけどちゃんと一人で作り上げている。……成長。
こうしてだんだん楽になっていくのか。そしてちょっと寂しくもなる。

ちょっぴり感傷に浸ろうと思ったら、2歳の次男がガシガシ私によじ登ってきた。餃子のタネが気になるようで手を伸ばしてくる。一瞬で消えた感傷。やめろ、触るな! とっとと大きくなれっ!
次男を肩車して首を締め付けられながら餃子を包んでいく。うん、こんなおかしな餃子作りは今しかない。

長男はまともな餃子制作に飽き、立体作品に挑戦しだした。ああ、やったな私も。弟と競うように変な餃子を生み出したな。シュウマイみたいなやつや、ギザギザのひだをどっちが多く作れるか、とか。どんな形にしても餃子はおいしいから大丈夫。

***

さぁ何とか全部包んで、第二の山もクリア! 首が痛い…。
あとは焼くだけ。
片面をこんがり焼いたら、お湯を少し入れて、フタをする。水じゃなくてお湯にするのがポイント。理由は……忘れた。

でも、そのポイントを知ったタイミングは忘れない。
大学生の頃に仲良しの友達2人と餃子パーティーをした時だ。
私含め3人とも餃子の作り方がよく分からなかった。親のお手伝いでは作っていたけど、主体的に作るってのはまた全然違った。
クックパッドでレシピをみて、一工程ずつみんなで読み上げながら作った。その時に水じゃなくてお湯にせよ、とあったのだ。その時は律儀にお湯の量の計測までしたなぁ。今じゃ全部適当だけど。
その時はホットプレートで作った。お湯を入れてフタをして、くもったフタを7分間、飽きずに眺めながらおしゃべりした。それからフタを取った時のワクワク感を覚えている。食べた時の満足感も。

餃子を焼くたびに思い出す。友達と一緒に味わった小さな達成感を。だから餃子を焼くのは大好き。

それから一枚の写真が浮かぶ。今より若い私がボサボサな格好で餃子を焼いている写真。なんで撮るの?って困惑しながら笑っている様は結構まぬけ。でも結構好き。
同棲を初めて間もない頃に、当時彼氏だっただんなが撮ってくれた写真。餃子を初めてだんなに作ったら、やたら喜んでくれた。一眼レフで写真まで撮るほど。
同棲時代のだんなの部屋は狭くって、玄関即台所だった。(玄関と言っても靴が二足置ける程度の上がりかまちだけど)
コンロから一歩後ずさると玄関の段差に落っこちる。
それでも不満なく幸せに暮らしていたから、恋ってすごいな。

餃子を焼くたび、玄関に片足落ちた時の落下感を思い出す。記憶っておかしい。

***

両面をカリカリに焼いて、さぁ出来上がり!
餃子の日はほんとに餃子しか作らない。お味噌汁もサラダも何もなし。大皿にどかっと餃子。あとごはん。それでおしまい。ちょっと見てくれが悪いなぁと罪悪感がある。でもだんなも子供らもこれがいいみたい。

「これ、ちのが作ったやつ!」
長男が自分の作ったやつを見つけるたび、嬉しそうな声をあげる。家族みんなにそれを見せつける。作り方をとーちゃんに細かく説明する。
その間に次男は黙々とバクバク手掴みで食べていく。

皮はパリパリ。噛むと肉汁がじゅわっと出て、ニンニクと生姜の香り。いくつでもいける。

「かーちゃん、あっちゃんがっ! もう8個も食べちゃったっ!」
第二弾の餃子を焼きつつ、長男の報告を聞く。キミはしゃべってないで食べないと、全部食べられちゃうよ。まぁまだ次を焼いているからいいけど。


作るのにかかった時間や労力が、あっという間に胃袋に飲み込まれていく。残るはベタベタの手と服と口の周りを持った次男だけ。

それでも気持ちのいい達成感がある。
作りながら喚起される細々とした思い出が、私の餃子作りを支えてくれる。
とるに足らない、ちっぽけな思い出の数々。でも気に入っている思い出たち。
それを餃子の具みたいに何でも混ぜて、ギュッてまとめてみた。餃子の包容力を信じて。

そして今日の餃子もまた、新しい思い出になる。



ヒトミさんのこの企画に参加しました。

餃子作りの方に話がいってしまい、思い出の一皿からずれてしまいました。一つの思い出ではなく、いくつもが積み重なっているのも変かも。応募規定からずれていたらすみません…。

ヒトミさんのnoteからいつも元気や深いあたたかさをいただいています。
本当にありがとうございます。

いちまいごはんでこれからもたくさんの人が幸せを感じますように。



  



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