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Chapter4. 赤血球の構造②(了)
↓の続き
赤血球は解剖学元素として微小発酵体を保有する正真正銘の細胞である
赤血球被包が浸水で破壊しない証明法とは、被包の屈折率と、水と血液の混合液の屈折率との間に差分を持たせることである。その為に、全血か脱線維素血液をクレオソート添加可溶性澱粉の約15%溶液と等量混合させる。24時間後、疎水性の増した赤血球の細胞膜が明確に可視化される。この実験は家鴨の血液が最も顕著であった。その内の一羽の血液は三週間持続し、可溶性澱粉溶液と水で続け様に洗浄すると色素物質が全てが脱色され、無色の小嚢と化した赤血球が残留した。吸水した血球内部で核が揺れ動く様子や、時に無色の被包が核の周囲を被覆する様子が観察された。洗浄の後、ヨウ化物の染料で黄色に染色して漸く視認されるほど、この被包小嚢は時に青白くなる。カルミンのアンモニア溶液やピクロカルミン酸塩の溶液では染色しない。
家禽、鳩、蛙、犬、牛、海猽 の血液でも実験を繰り返した。全ての例で小嚢全体が見えるが、家禽の有核楕円型血球は注目に値する。長時間に渡る実験により、鳥の血球の核が微細な分子顆粒へと分解され、この顆粒は無色の膜内で確認された。円形型血球の空嚢内に核は確認されない。
これらの実験の公表後、J.ベシャンとE. バルタス 両教授は、浸水後の血液のまま無傷の細胞被包を染色する方法を報告した。
だがそれが全てではない。細胞膜のない細胞が存在しなければ、微小発酵体のない細胞もまた存在しない。血球も例外ではない。一方、前述した家鴨の実験では、被包小嚢の内部に分子顆粒に還元された核が存在していた。ところで、脱線維素血液に2倍体積量の35-40%アルコールを混合して沈殿する分子顆粒は、この血液中の破壊された血球に由来すると述べた。従って直接的実験により、これを疑問の余地のない事実にする必要がある。この実験により、特に興味深い観察結果が得られた。
血球内の分子顆粒の実在という問題解決の為、脱線維素血液から血球を分離し、木目細かな布の濾過でフィブリンの痕跡を全て除去し、その4倍体積量の飽和硫酸ソーダ液を添加した。
雄牛血球内の分子顆粒
フィルターに集積した血球を再度硫酸ソーダ液で洗浄し、35-40%アルコールで処理した。これで色素物質が溶解する筈だが、実際には可能な限り完全に脱色するまでアルコールで洗浄し、最後に水洗浄した。フィルター上には細胞膜の残骸が混ざった分子顆粒が残留し、脱線維素血液をアルコールで直接処理した場合に沈殿する分子顆粒と同じ外見と特質を備えていた。
家鴨と家禽には更なる特徴が確認された事実から、これらの血液で実験を繰り返すことにした。
家禽血球内の分子顆粒
脱線維素血液から飽和硫酸ソーダ液で分離した血球をフィルターに集積し、雄牛血液と同様に35-40%アルコールで脱色するまで処理する。アルコール洗浄の間、フィルター上の無色の残留物は雄牛と同様に一見して粉末状であった。だが水洗浄を続けると、粉末状の塊が粘質塊に変容した。大いに驚かされた私は実験を継続することにした。
別の家禽の脱線維素血液を2倍体積量の35-40%アルコールで処理した。粉末状の分子顆粒が通常通りに沈殿した。フィルター上に集積させた沈殿物を弱いアルコールで洗浄すると白色化し、粉末状のままであったが、加水した途端に楕円型血球の分子顆粒が粘性状態へと変質した。
粘質塊は過酸化水素水から酸素を放出したが、2:1000の塩酸に難溶解性であった。
家禽の赤血球微小発酵体分子顆粒を包膜するアルブミノイド雰囲気は水中で粘性を呈した結果から、雄牛のそれとは異なる物質で形成される事実が明らかである。家禽血液からホイッピング分離したフィブリンは塩酸の影響を殆ど受けないことは先述の通りである。同じ血液の粘質化した顆粒も同様の特質を持つ。
家鴨血球内の分子顆粒
家鴨の脱線維素血液から硫酸ソーダ液で分離した赤血球もフィルター上で35-45%アルコールで処理する。このアルコールによる長時間の洗浄を経ても分子顆粒に全く脱色は見られず、この顆粒の量は家禽血液のそれより遥かに多く、最後まで赤褐色を維持した。では脱線維素血液のアルコール処理で沈殿する顆粒はどうか?
家鴨の脱線維素血液を2倍体積量のアルコールで処理すると、羊より遥かに豊富な量が急速に沈殿する。この沈殿物は主に分子顆粒であり、アルコールや水の洗浄でも脱色せずに赤褐色を維持する。極希薄塩酸で処理すると着色溶液が得られる。
家禽と家鴨の血液は、遺憾ながら私の研究以上に完全な研究が必要である。実験結果は、有核楕円型血球に円形型との形態上の相違があるのみならず、血球間に更なる相違がある事実を証明している為である。この二つの事実、並びに雄牛の血液関連の事実は、今後の研究対象が血液だけでなく、解剖学元素の特質に並んでそのアルブミノイド成分や、特にヘモグロビンの特質にあることを証明している。
兎も角、一般に赤血球は完全な細胞を模した構成なだけでなく、馬鈴薯澱粉溶液に血液が滞留することで、被包の浸透特性に変化もないまま屈折率が変化する。
更に、赤血球自体が解剖学元素として分子顆粒を持ち、また円形型と楕円型があり、血球間でその分子顆粒に相違がある。血液の生理学はまた別の特殊事例の研究により、更なる収穫が得られよう。
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