切っ掛けは、1950年代のソ連の科学者オリガ・レペシンスカヤと、夫婦が発見したliving substance(「生きた物質」※ガストン・ネサンのソマチッドsomatidsと同一と思われる)による細胞新生説を調べていた時だった。ソ連の科学はルイセンコ学説を筆頭に一般に似非科学呼ばわりされているが、そんな当時のソ連の中でも異端扱いされた人物がいたことを知った。ゲオルグ・ボシャン (キリル文字表記:Бошьян, Геворг Мнацаканович;ローマ字表記: Bosh’yan ;1908-1997)なる人物である。
草野信男. 細胞発生についてのレペシンスカヤの説. 生物科学. 1951;3(4):183-184.
なんじゃそりゃ!?である(パブロフも気になるが)。ADHDを発揮して一気にレペシンスカヤへの関心を失った私はボシャンに釘付けになった。その後ソビエト医学を掘下げて国立国会図書館を虱潰しに調べていたら「現代のソヴィエト医学」なんてドンピシャの書籍に記載があった。
現代のソヴェト医学. 蒼樹社; 1953. Accessed June 21, 2024. https://dl.ndl.go.jp/pid/1372196/1/157
なんとかカタカナからロシア語の綴りを推測してWikipediaを発見するに至った。
どうせ現代医学はセンメルベイス反射をするか、最新科学が人類史上最高と信じて止まない現代人は1950年代の廃れた研究など見向きもしないだろう。ということでこの知の宝庫は私の独占状態だ。残念ながらボシャンの顔写真が見つからないのだが、ソビエトの研究論文は米国の軍事研究アーカイブに英訳されて保存されていることが多いことをワクチニアウイルスの形質転換について調べていた時に知った私はボシャンの英訳を調べることにした。そしたらなんと例のスパイ組織のアーカイブに行き着いてしまったのである。
Bosh’yan GM. ON THE NATURE OF VIRUSES AND MICROBES. CIA; 1950:3. Accessed June 21, 2024. https://www.cia.gov/readingroom/document/cia-rdp80-00809a000600320372-3
「ウイルスと微生物の本質について」
●微生物 :病原性細菌のこと。
●免疫血清:20世紀初頭に北里柴三郎/E.ベーリングが開発した感染症治療用の製剤。動物に病原体を注射して抗体を作らせ、できた抗体を精製して製剤にしたもの。現代の抗体薬品の原型。
●(バクテリオ)ファージ:細菌に感染するウイルス。19世紀後半にインドのガンジス川でコレラ菌を溶菌する存在として発見される。その後の研究で各細菌単位で特異的に溶菌するファージの存在が次々発見され、人体に悪影響もなく病原体だけを特異的に殺菌する作用から感染症治療に応用されるようになる。20世紀初頭のロシアで感染症治療に使用されるが、1950年代に突如として中断し、以降はロックフェラー研究所が秘密の研究を始めることになる。
●濾過性形態:現代の定義では細菌とウイルスの違いは、自身だけで分裂・増殖能を持つか(※細菌は分裂可能、ウイルスは細胞内でしか増殖できない)だが、当時の定義では単純な大きさの違いのみ。その振るい分けをする為に細菌だけを濾せる網目のフィルターで分離し、そのフィルターすらも通過する極小の病原体をウイルス(濾過される病原体=濾過性病原体)と呼んで区別していた。
従来の理解では、免疫血清(≒動物の抗体)を投与すると、感染症患者の体内にいる微生物に結合し、微生物の毒性が中和されて治療効果が得られる、というもの。しかしここでは、微生物は免疫血清で中和されるのではなく、一度濾過性のウイルスやファージに変態をする。そして微生物を溶菌するはずのバクテリオファージもまた同じく、微生物を濾過性のウイルスやファージに変態させるだけだと言っている。この変態後のウイルス/ファージ自体に病原性はないが、これらは容易に生物体内のタンパク質と結合する。この方法によってのみ免疫は得られる…らしい。
●食作用 :別名「貪食細胞」と呼ばれる免疫細胞ことマクロファージによる病原体の捕食・消化現象。
●細網内皮系 :肺、脾臓、肝臓、リンパ節、胸腺…等、各臓器や身体部位に散在する、免疫細胞が集積している部分。主に老廃物や免疫複合体 の処理をしている。免疫細胞が全て同一機能と考えられていた時代による古い名称で、現在は「単核貪食細胞系」と呼ぶのが通例。
抗生物質に期待される効能は細菌の細胞壁の破壊であり、そのことで細菌は形態を維持できなくなり、自ら崩壊する…とされている。その殺菌効果を狙って現代の感染症治療に常用されている。だがその抗生物質もまた微生物をウイルス/ファージ形態にするだけ…らしい。そして生物にとって頼みの綱であるマクロファージの食作用もまた同じ作用でしかない…らしい。
●living substance:オリガ・レペシンスカヤ夫妻が発見した生命の最小単位となる極小生物。恐らくガストン・ネサンのソマチッドと同一の生命体だと思われる。夫妻はこの生物が凝集反応によって細胞核構造、ひいては細胞新生を観測し、細胞生理学の定説である細胞分裂以外の代替経路による独自の細胞発生説を提唱した。※文献により「生きた物質」と訳されるが、固有名詞の為そのまま訳出。
どうやら抗原抗体反応について述べており、生体が抗体反応を起こす場所には常にliving substance(=ソマチッド)が存在、換言すれば全ての抗体反応はソマチッドに対して行われる、と言っているようだ。
通常の感染現象の経過を指しているのだろう。