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Chapter0. Author's Preface④

全て互いに整合性の取れた一連の実験の中から二つの実験を選ぼう。問題を単純な表現に還元することで、導き出した結論の正当性に疑いの余地が消失する為である。

最初の結論は以下の通り:蒸留水に溶解させた甘蔗糖溶液を、煮沸処理後に完全に密閉した花瓶の中に保存した場合、永久に不変なままである。 

第二の結論は、同じ溶液を、煮沸の有無に関わらず、密閉容器内で接触空気量を制限して放置すると、大方は無色の菌糸体の黴が出現し、経時的に溶液は完全に転化する。また、溶液のリトマス紙が赤く、つまり酸性になる。密閉容器内に残存した空気が転化に無関係だと証明する為、事前に少量のクレオソートか昇汞 塩化水銀IIを添加すると、溶液は酸性化せず、黴も出現せず、糖液の不変性も確認できる。

以上より、観察された現象は必然的に黴が原因である。しかし、菌糸体の黴は正真正銘の微小な植物であり、故に組織的生命体である。この黴が窒化されていること、また、クレオソート添加の糖液に成長した黴を投入すると、発生段階の場合以上に転化が急速に進行することを証明した。一方で、この黴は不溶性であり、ここで私は転化の原理に関して自問し、ジアスターゼ様の成分と、生成される酸に起因すると考えた。後に黴自身が保有する可溶性発酵素の分泌が主因だと証明した。そしてこの可溶性発酵素、ひいてはアルブミノイド物質の存在は、窒化した黴を苛性カリ 水酸化カリウムで加熱すると大量のアンモニアを放出する理由を説明するものであった。

だが、窒化した黴が甘蔗糖から誕生するのはあり得ない。甘蔗糖に窒素成分が存在しないのは証明済みである。この砂糖の他にも、蒸留水、ガラスの鉱物質以外の物質は存在せず、密閉したフラスコ内に残存する空気以外に窒素は存在しない。そして、(少量のクレオソートや昇汞の作用により)これらの物質が互いに結合し、合成によって黴の組成分を生成し得ないことは、実験それ自体が証明している。以上より、組織的生成物の誕生を説明し得るのは、古より伝わる空中胚種仮説の他にはなく、その起源と性質の発見に至るまで私に休む暇はなかった。 

苦心の末に、実験環境下で「空気で運搬された胚種は、糖液中に成長に適した培地を見出す」ことを確認した。その新生物が自身の成長過程で目前の材料を利用し、窒化物/非窒化物の合成に働く。

私の実験環境下ではガラスを除く鉱物質は存在せず、組織的生成物の収穫量は必然的に微量となり、転化、及びそれに続く変化は極めて遅くなる。

特定の塩やクレオソートを添加すると、培地が殺菌、或いは胚種への直接の作用によりその成長が抑制され、転化が阻害される。

しかし、特定の純粋ミネラル塩、更には亜ヒ酸には、組織的生成物の回収量を増加させ、転化と、付随する発酵現象を著しく加速させる効果がある。反応時間を延長させれば、先述の酸の正体が酢酸であること、ある場合には乳酸と、また全ての例でアルコールが生じる。しかし、この最後の生成量を決定するには、黴を数年間作用させる必要があった。斯くして私は、1857年に実施した研究が真の発酵現象であり、その発現にアルブミノイド物質は必要ではない所か、逆にこれらの物質より生成される物と立証するに至ったのだ。

その単純さの側面で、この実験は生理化学にとって、ピサの大聖堂の祭壇の前で長紐で吊るしたランプが緩慢に振動する様を観測したガリレオの実験と同類である。振り子が常に一定の拍を打ち、振動の持続時間が振幅と無関係だと振動数から読み取り、そしてホイヘンスは振り子の振動の法則を落下法則との関連で発見した。先のガリレオの実験から生まれる結果は有益ではなかったが、いつの日かホイヘンスのような天才が登場して実験を拡張し、その果実を実らせるに違いない。一方、1857年以降、実験の継続中に推論できたことを以下に列挙する。1857年の回顧録の主要かつ本質的な事実は以下の通りである。

(1) 近成分である甘蔗糖溶液は、予めクレオソート添加をすると、微量の空気との接触下であろうと自然変質を起こすことはない。
(2)甘蔗糖溶液に微量の空気を接触させると、黴の発生に応じて糖が変質し、転化が生じる。
(3)予めクレオソート添加した溶液では、黴は発生せず糖も変質しない。
(4)微量の空気との接触下で糖液に黴が発生した事実は、空中胚種仮説を証明するものであり、他の既存仮説では説明不可能である。

糖液を事前にクレオソート処理していようと、成長した黴は甘蔗糖を転化させる。即ち、クレオソートは黴の発生を妨害するが、発生後の作用は阻害しない。黴の不溶性は黴自身の組織性に起因し、転化への作用はジアスターゼ様の物質、つまり可溶性発酵素によるものである。

甘蔗糖の非-自然変質、及び酸とアルコール生成という現象全体が、黴と発酵素による発酵現象であることを証明している。

そして、これらの事実を更に慎重に検証した結果、従来の認識に反して発酵体の誕生にアルブミノイド物質は不要であり、また、可溶性発酵素はアルブミノイド物質の変質産物でもなく、黴がアルブミノイド物質と可溶性発酵素を、自身の発生段階における生理学的機能と周囲の栄養により同時に生成していることが判明した。

以上より導き出されることは、可溶性発酵素は、生成物と生産者の関係性により不溶物と繋がり、必然的に不溶性である有形の発酵体の存在なしに可溶性発酵素は存在しえない。

そして、可溶性発酵素と窒化アルブミノイド物質は、フラスコ内に残存する微量の空気中の窒素だけで生成される為、議論を呼んだ植物の窒化物質の合成には、空気中の遊離窒素が直接関与すると同時に証明された。

以来、黴の組成分および発酵素の合成は、必然的に黴組織内への挿入成長により生じることが明白となった為、全ての発酵生成物がその場で生成され、甘蔗糖の転化における可溶性発酵素と同様、分泌されるのは必然である。故に私は、「発酵」なる現象がその実、栄養同化/異化、異化生成物の排泄だと確信するに至ったのである。

この見解が、カニャールやシュワンの構想、厳密にはターパンや、特にデュマの構想に合致するのは疑いない。しかし、リービッヒ(Liebig)派を中心とする反対論者とは完全に見解が相違し、或る者は、酵母は生物ではなく分解中の窒化物だと言い、或る者は、酵母は栄養豊富な環境下では接触触媒反応なる超自然的原因の作用により活性化し、白金による過酸化水素水の分解と同様に砂糖を分解すると言った。

従って、空中胚種由来の黴に確認された事象がビール酵母やワインの澱に存在する発酵体でも真実だと証明せねばならない。即ち、これら発酵体の細胞が同じ条件下で甘蔗糖を転化させること、それがクレオソートを添加して尚、あらゆる変形現象が生じる前に確認される証明である。事実、酵母には可溶性発酵素が存在し、黴と同様に糖を転化させることが分かっている。

だがそれでも、カニャール・シュワン構想の反対論者には常に反論が可能であった。曰く、クレオソートが甘蔗糖の変質を抑制するとすれば、アルブミノイド物質を含む混合物の場合は同様の結果とはならない。糖液とビール酵母の混合物で甘蔗糖が転化するなら、アルブミノイド物質であるビール酵母がクレオソートに関係なく変質し続けている為だと。


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