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閉鎖的燃焼構想:細胞代謝および生理学のパラダイムシフト

Manoj KM. Murburn concept: A paradigm shift in cellular metabolism and physiology. Biomolecular Concepts. 2020;11(1):7-22. doi:10.1515/bmc-2020-0002

ギルバート・リンのAIH(Association Induction Hypothesis 結合誘導仮説?を調べる➡日本人研究者の存在を知る➡その研究者を調べる…で辿り着いた理論。

端的に、世間に嫌われる活性酸素こそ体内のあらゆる酵素反応の触媒作用を持つと主張する理論で、この理論により、生物にとって何故酸素が不可欠かが完全に説明されるという。また、プロトン 水素イオン駆動型の酸化的リン酸化モデルが根本的に見直され、新たな酸素駆動型モデルを提供し、即ちミトコンドリアのATP生成回路を根本的に再構築し、細胞呼吸の理論にパラダイムシフトを起こすという。

この論文の言う拡散性活性酸素種 Diffusible Reactive Oxygenの中には当然過酸化水素水が含まれており、そう考えればベシャンの微小発酵体 マイクロザイマス理論と辻褄が合う可能性があるという直観から注目する理論。


要約

ヘム-フラビン酵素学における20年間のエビデンスに基づく探求の結果、閉鎖的燃焼構想Murburn Conceptという新たな生物学的電子/部分移動のパラダイム構築に至った。Murburnとは"Mured burning 塀に閉じこもった燃焼"或いは"mild unrestricted burning 穏やかで制限のない燃焼"をそのまま略した用語である。この概念は異端的な生理的用量依存反応という長年の難問の説明の為に提唱され、また、薬物代謝および細胞呼吸に関する一般的な理解を再構築するように応用された。熱力学と反応化学の既知の原理に基づく単純な構想の集大成となる閉鎖的燃焼構想は、拡散性活性酸素種 Diffusible reactive species(DROS)や(フリー)ラジカルに触媒的/機能的役割を要請するものである。これまで、DROSは専ら、生命体系の維持に寄与しないカオスの毒性物質とされてきた。閉鎖的燃焼パラダイムは生物学的現象の幾つかに別の視点を提供する為、細胞代謝に関して従来の見解を持つ研究者は本閉鎖的燃焼構想に対する直接的な利益相反をもたらす。閉鎖的燃焼による生理体系は、多くの代謝上のタンパク構造 モチーフを包括的な生理学的転帰に統合する準備ができており、生物学的・医学的探究を再定義するものである。このアジェンダを発展させるべく、閉鎖的燃焼構想を概説し、一部の権威的な学術誌で未だに冗長な構想が提唱されていると指摘する。

哲学的プレリュードおよび閉鎖的燃焼構想の物語

Karl Popper(1902-1994)の通り、科学の進歩とは基本的に、経験的反証の実践に掛かっている。Popperは、有利な発見を幾つ得ようと仮説上の信念の正当化にはなり得ないと言った(その信念の棄却に必要となるのは、仮説に反するただ一つのデータだからだ!)。しかし、科学者を量産するのは「多重信念体系 Multiple belief system」に根差す人間社会である。社会に属す個人は複数の主観的信念を持ち、その関心領域も多様であることから、Michael Polanyi(1891-1976)は「主観主義的な正当化こそ社会的・科学的実践における現実的課題」だと主張していた。結果、長年信じられてきた誤信念への反証・反駁は骨の折れる困難な作業と化している。この現実は、Albert Szent-Gyorgyi(1893-1986)が俎上に載せたように、デュオニュソス派とアポロニアン派による時間的分布を生み出す。アポロニアン派の大多数は、体系的/段階的なプロセスを通じて現存するパラダイムを確立・拡大し、パラダイム的現状を維持する。ディオニュソス派はニュートン第一法則を支持し、有名なThomas Kuhn(1922-1996)の「パラダイム・シフト」を先導し、アポロニアン派が前者の新しいパラダイムをチェックし、検証後に方向転換することを期待する。しかし、Max Planck(1858-1947)の有名な引用:「新たな科学的真理は、反対派を説得して光明を見せることで勝利するのではなく、反対派がやがて死に、十分に理解した新世代が育成される為である」の通り、アポロニアン派は更に深入りして拡大解釈されたニュートン第三法則に依存し、ディオニュソス派(構想)を異端視し、不当なまでの過剰反応をする。細胞代謝と細胞生理学をより良く理解し説明する一助になる、基本的かつ普遍的メカニズムたる閉鎖的燃焼構想の提唱とは、ここで論じるパラダイムシフトに外ならない。この新構想は、十分に確立された科学的関心領域からすれば、途轍もなく不快であろう。しかし、大局的かつ長期的に見れば、数え切れない人命と計り知れない資源が、新構想によって救われるのだ。さらに、科学の真髄である単純な量的論理の共通性と伝達性を失うわけにはいかない。科学とは事実に基づく、経験的に検証可能な取り組みであり、自然現象を全体的に説明する最も最適な理論を見出すことである。歪曲した既得権益や認知的不協和を追求することにはほとんど価値がない。したがって、閉鎖的燃焼構想を支持する率直な方法は、
(i) 科学哲学によって保証された義務論的否定論的アプローチ
(ii)「少数の誤った既得権益」よりも「多数の正当な権利」の利益を保護するという功利主義的な結果によって正当化される。私は、このような道徳的かつ合理的な論理に基づいて、閉鎖的燃焼構想を提示する。

1990年代後半、私はイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のLowell Hager(米国科学アカデミー会員)の研究室で博士研究員として働いていた。低濃度のアジ化合物は、ヘムペルオキシダーゼ(HPO)が触媒する一電子酸化 one-electron oxidationsを数倍促進することがわかったのである。アジ化合物はヘムの活性部位に結合するリガンドであり、従って触媒活性の阻害剤であることが知られていた頃のことである。この単純な観察結果を論理的に説明することを追求した結果、いくつかのヘム酵素は、活性部位の外側、酵素の表面や周辺部、あるいはバルク層の内部環境中で触媒反応を起こすために、拡散性活性酸素種(DROS)を利用しているという考えに至った。この構想を翌数年間発表できなかったのは、酵素反応が活性部位の外側で媒介される場合にも、選択制(例:A/B/C/Dの混合物から基質Bを選択)と特異性(例:α/β/γ/ωの遺伝子座が利用可能な場合にβの位置で基質Bを攻撃)を以て作用する、等という理論を許容できる人物が殆どいなかった為である。(酵素を介した生体触媒反応には、Fisherの「鍵穴と鍵」理論や、Koshlandの「誘導適合」理論が提唱され、古典的なミカエリス/アイリングの「酵素+基質遷移状態複合体」に至った。拡散性活性酸素種を媒介する反応が如何にして基質間の選択を、分子の位相的/静電的特徴を同定しないまま可能とするかは疑問が残ることとなった。

しかしその後、複数のヘム酵素系から再現可能な観察と推論が提示されると、Lowhellは私の見解を快く支持してくれるようになり[1]、元々彼の研究室で始められたいくつかの研究に名前を貸してくれた[2-4]。ヘム酵素と拡散性活性酸素種(DROS)との相互作用に関する大きな認識の違いは2001年に発表されていたが[5]、閉鎖的燃焼構想の基礎は、2006年に私が行った2つの重要な発表にあった[6, 7]。LowhellがHPOに関する私の見解を認めてくれたため、上記研究は十分に引用された(200回以上)が、シトクロムP450系についてはそうはいかなかった。

酸化還元生物学の新パラダイムの本質を捉える言葉に「murburn」を選んだのは個人的な気分であり、2014年に造語した。インドのDMPK-2015(NIPER-Mohali)、米国のGRC-Drug Metabolism-2015(Holderness)、MECC-2015(Chicago)、ISSX-2015(Orlando)などの国際会議でのポスター発表[8]を経て、ミクロソーム分画異物代謝(mXM)における構想とその応用理論は、同業者とともにさらに吟味された。最終的に、閉鎖的燃焼構想(Murburn Concept)は、4つのオリジナルコミュニケーション[9-12]を通じて、2016年にヘム/フラビン酵素のメカニズム的説明として発表された。中核となる構想は、私のグループの後の論文で拡張され、図1とその凡例にメカニズム的なスナップショットが示されている。全体として、2019年末までに、閉鎖的燃焼構想は好気呼吸の説明にも使われるようになり、閉鎖的燃焼構想に関する約2ダース[2-5, 7-26]の査読付き論文が評判の高い学術誌に掲載され、その約半数がタイトル/抄録/本文で「murburn」という新しい用語を直接引用している[9-12, 20-26]。 さらに、別の招待論文が出版中であり[27]、閉鎖的燃焼構想に関する3つの重要な未発表論文も有名なプレプリント・ポータルサイトで閲覧可能である[28-30]。このレターでは、閉鎖的燃焼構想を擁護/提唱する。

閉鎖的燃焼構想の根拠と意義についての簡単な説明





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