Chapter0. Author's Preface⑤
私は、可溶性/不溶性アルブミノイド物質も含めた全ての近成分は、高度な錯体であろうと甘蔗糖と同条件下で不変であり、一切の組織的生成物は出現しない証明で以て回答した。但し甘蔗糖の存在下でこれら近成分の中に転化可溶性発酵素が存在しないのは、クレオソートが二重の発酵体の反応を抑制しない為である。
この事実に関して、最近発表された2つの実験に大きな感銘を受けた。一つは乳汁に関するものである。デュマ以外の化学者は乳汁を乳化剤(emulsion)、つまり近成分の純粋混合物と考えていた。さて、前世紀(18世紀)のマッケルの発言の通り、乳汁は血液と同様、抽出後の自然変質により凝固すると認識されている。これが、クレオソート処理した近成分の混合物は不変という事実の検証機会に繋がった。搾乳中の牛乳をクレオソート処理し、沸騰したクレオソート水で洗浄した3つの容器に入れて分類した。一つは微量に空気と接触させて放置し、二つ目は完全に密閉して放置、三つ目は炭酸ガスで空気を抜いた。愕然としたのは、牛乳が変質し、クレオソート未処理の場合にほぼ匹敵する速度で酸敗凝固したことである。そして最も驚愕すべきは、完全な凝固の直後、凝固塊のあらゆる部位にバクテリアの群生があったことである。
第二は白亜~発酵実験における炭酸石灰の代用品であり、私もまた培地を中性に保つ用途で使用していた~に関する実験である。さて、ある日、馬鈴薯澱粉の酸敗防止の為に白亜を添加し、40~45℃(104~113℉)のオーブンに入れて放置した。オーブンに入れる前と同じ粘度の澱粉がある筈が、意に反して液化していたのだ。「空中胚種だ」と呟いた。クレオソート水で澱粉を煮沸し、同じ白亜を添加する実験を繰り返した。またも液化した!実験を繰り返す中で更に驚愕したのは、白亜を人工的な純粋炭酸石灰に代替した時である。今度は、クレオソート処理した澱粉は液化せず、この状態のまま10年間維持された。
この2つの実験は、黴の甘蔗糖の転化を観測した実験と同類であり、その単純性において等しく根本的となる実験だが、それ以上に私を当惑させた。この件の論文をモンペリエの学術協会(1863)に提出し、手紙でデュマに伝達(氏には出版を推薦された)したのは、別の研究を終えて実験条件を変更・統制した後のことであった。手紙の中で私は「石灰質の土壌と乳汁には"既成生命体 ”が存在する」と記した。
ここで更に3つの実験を紹介する。基本に劣らず、初め3点を検証するものである:
(1). 空中胚種起源の黴が甘蔗糖を発酵させた件にて、糖液中に酢酸の生成を確認したが、ビール酵母でも酢酸が生成されないのは何故か?実際には、酢酸と相同の酸が極微量ながら生成されていることを証明する。
(2). ビール酵母は黴と同様に甘蔗糖を転化させる。そこで私はビール酵母が生成する可溶性発酵素の分離を試みた。ビール酵母は必要量を容易に入手可能である。その直接的な分離法について述べよう。ビール酵母を純化し、洗浄して乾燥させたものを、適量の甘蔗糖の粉末で処理した。二つの混合物が液化し、糖が完全に溶解してから液化生成物をフィルターで濾過すると、この操作が十分量で実施される場合、発酵の兆候が顕現する前に大量の透明な液体が滲出する。濾過された液体をアルコールで処理すると、(発芽大麦を浸透させるとジアスターゼが沈殿するように)多くの白色沈殿物が得られ、この内の水溶性の部分が目的の可溶性発酵素である。疑問の余地なく、この可溶性発酵素は酵母細胞が含有する成分の一部である。当初はこれをザイマス と呼び、後にザイトザイマス に改名した。
(3). 酵母細胞は生体組織である以上、不溶性であり、生命抵抗力を備え、内部で異化を受けたものだけが排泄される筈である。さて、事実、純粋酵母を蒸留水で丹念に洗浄すると、初めは何も残さず、微量のザイトザイマスとリン酸が得られるのみである。しかし、次期に大量に生成される時間が訪れ、その後徐々に減少し、凡そ92%が喪失するまで、水分で外被を膨張させながら形態を維持している。
この観察は、ショサ(Chossat)が実施した有名な犬の飢餓実験の酵母版だと示唆された。純水に浸された酵母は栄養を奪われ、飢餓に陥れば自滅を強いられる。純粋酵母をクレオソート化蒸留水に浸し、空気との接触を遮断すれば、長期間に渡り純粋炭酸を放出し、アルコールや酢酸等を生成し、砂糖に富む環境であれば生成しない筈の副産物も同時に生成する。こうして莫大な量を消費しながらも、その外被の形態を長期間に渡り維持し、内容物をほぼ完全に枯渇させながら甘蔗糖を最後まで転化させるのである。斯くして私は、酵母はクレオソート処理して尚、乳汁と同様、自身が変質すると証明したのである。
サポートで生き長らえます。。。!!