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11.Postface:著者後書②

前回⇩の続き


確かに、刮目すべき多くの研究報告の一方で、病気の発症とその伝染性を司る原因ほど曖昧模糊とした概念もない。だが病気に罹ることで苦悩するのは我々自身であり、この苦痛は残酷な現実だとは言えよう。その所以は、病気の原因は常に我々の内に宿る為である。外的要因は、生体組織を構成する組織的物質に宿る個別の粒子~即ち微小発酵体~が生きる内部環境に物質的変化を起こすことによってのみ病気の発症に寄与する。またこれら外的要因による変化の結果に付随して多変数に依存した連続的変化が生じ、これはまさに微小発酵体の生理学的・化学的性質に関連する。

最近の科学研究では「瘴気 ミアズマの中に存在する、微小発酵体やバクテリアに類似の生きた顕微的生物が動物の血液や組織で増殖し、疾患に至る」との主張が流行している。私は賛同しない。全ての現象には原因が存在し、瘴気の組織的粒子の存在までは容認するが、その粒子が生体内で増殖するとは信じない。現在に至るまで証明に達した人物は存在せず、また多くの実験が完全に否定している。例えば、炭疽病の病原性が発酵現象であること、炭疽病を患う個体が同種の別個体へ血液を介して伝染させることにも基本的に同意する二人の著者が、観察結果を説明するとなると意見が一致しない。ダヴァイン Davaine曰く、炭疽病の血液の病原性はバクテリアの一種に起因し、氏はこれにBactéridieと命名した。サンソン Sanson曰く、この病原性は血液の特殊な腐敗変質に宿り、バクテリアは無関係である。氏曰く、時にバクテリアは血液に存在せず、一切の組織的存在も見当たらない。剰え氏はバクテリアが動物か植物、果ては生命体かすらも疑いを抱いている。そしてこの点は正確ながら、腐敗変質したアルブミノイド物質は、バクテリアやBactéridieが存在しようと感受性個体にすら炭疽病を伝染させることはないと指摘する。バクテリアもアルブミノイド物質の腐敗産物もまた炭疽病を伝染させぬとすれば、これは何を意味するだろうか?

この矛盾を説明しよう。

ダヴァインがこの問題に関して極めて重要な実験を実施している。氏は、植物の柔組織に、B.Termo或いはその類似の菌が存在する植物性の腐敗物質を移植した。曰く、オプンティア サボテンとアロエではバクテリアは元の形態を維持しつつ繁殖した。このバクテリアを別のアロエに移植すると、2~4条に分岐したフィラメント構造が形成された。この長いフィラメントを別のアロエへ移植しても微細な塵状の粒子が生成されるのみであった。最後に、最初に移植を受けたオプンティアとアロエにこの長いフィラメント状のバクテリアを移植すると、元のB. Termoが再現された。これらの事実に否定の余地はないだろう。ダヴァインの権威がそれを保証するが、その解釈には疑問が残る。

一方、複数種の植物を無傷の状態で凍結させ、凍結部分を検査した所、その植物の特異的性質に応じて多様な細菌叢が常に発見された。一方、隣接する健康な部分には常態微小発酵体を除き、バクテリアの痕跡はなかった。これは即ち、バクテリアは移植せずとも植物内部より発生することを意味する。バクテリアが人体の消化管全長に渡って発生し、正常に存在し続ける如くである。従ってダヴァインの実験では、植物の損傷と、この創傷部位への特定のバクテリアとそのバクテリアを飽和させる溶液の注入が病変と培地の変化を招き、移植を受けた植物の常態微小発酵体が各々の能力に応じて進化を遂げる一方、移植したバクテリアは増殖などしていなかったと説明できよう。

動物も然りである。生体内へ移植された生物の増殖ではなく、その存在自体および存在を飽和する溶液が周辺環境を変質させることで常態微小発酵体の病的進化を招き、バクテリア形態の発生如何が決定される。病気とは単に常態微小発酵体の新たな存在様式が招くものではない。その後の発熱とは、微小発酵体の新たな機能様式と、病的微小発酵体を生理的状態へ回帰させつつ異常発酵・異化現象の産物に対処する生体の努力の結果に外ならない

議論の余地のない実験的事実に基づくこの理論は特に、炭疽に侵された羊の血液を犬や鳥に移植しようと、ダヴァインの実証通りに炭疽症状を誘発しない理由を説明する。しかし、犬と鳥、羊の血液の純粋化学物質に相違はあるのだろうか?これら動物の血液は同じアルブミノイド物質、同じ塩類、同じ脂肪分を含み、条件を変更すれば微小発酵体もバクテリアへ進化を遂げる。実験が示す通り、唯一の相違点は血液の組織学元素と、その感受性の不均一性に外ならない。従って犬や鳥に移植されたバクテリアが期待通りに増殖しないとすれば、確実にそれは化学的環境が不十分な為ではない。また、移植行為が炭疽病を発症させないとすれば、これら動物の微小発酵体が、病原性物質を受け入れる環境下でも病的進化を遂げぬ為である。


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