産業革命を石炭を起点にする間違い
イギリスの産業革命の要件
最先端工業地域フランドル地方が近くにあった
インドの植民地化とキャラコ(綿織物)の流入
水車動力源の発明
ベルギー、スウェーデンから来た冶金技術
フランドル地方(今のベルギー周辺)は中世最大の毛織物の産地で、そのため羊毛を大量に消費していた。碌な作物が育たないイングランドは草地が多い為、そこで羊を飼って羊毛をフランドル地方に輸出していた。フランドル地方から工業技術が流入する立地に有ったわけだ。そのうちイングランドにおいても自力で毛織物を作る様になるが、この傾向は宗教革命により加速される。ベルギーからプロテスタントが逃げ出して技術が拡散した。イングランドもその恩恵を受けた。
それからインドの植民地化があげられる。安価な綿織物の流入により毛織物の産業が大打撃を受ける。綿織物に対抗できる価格で供給しないといけなくなったからだ。しかし毛織物産業はギルドにより新規参入が制限されていた。イングランドは自国の産業を守る為にキャラコの輸入を制限したが実は木綿自体の輸入は禁止していなかった。そのため毛織物ではなく綿織物産業への新規参入者が発生し、より安価で製造することを求める様になる。ここに機械化がやってくる。つまり紡績機や織機の発明が起点であり蒸気機関ではない。
その機械動力源としては水車動力が利用された。つまり綿織物は水車により安価で供給されるようになり、そのうちインドのキャラコより安価で製造されるようになる。その綿織物は逆にインドに輸出された。
これがインドの植民地化による要件になる。大量生産により消費出来ない分も売りさばける消費地を抱えたことが大きい。この消費地の獲得が大量生産による投資メリットを最大化した訳だ。
そして機械を作るのに必須な冶金技術。
要するに石炭は最後の条件。
イングランドは中世における乱開発により中世末期には森林率が10%を切っており(同レベルの乱開発をしたドイツでさえ30%、イングランドより高緯度にあるデンマークで20%)、燃料になる森がそもそもなかった。そのためイングランドに豊富にある石炭を燃料として使う様になる。しかし石炭を掘り進めると水が溜まるので水を吸い出すポンプが必要になる。このポンプは熱エネルギーを運動エネルギーに変換するものである。運動エネルギーの中でも回転エネルギーに変換できるようになって蒸気機関になるが、そもそも産業革命とはまだ無関係。ここで何故回転エネルギーかと言えば当然、水車を置き換えられるから。水車は位置エネルギーを回転エネルギーに変換する装置だ。水車や風車がまともに作れないと産業革命は起こりえない。
ここで一番、勘違いしてはいけないのは、イングランドに森が無い理由は気候ではなく乱開発しただけ。イングランドより高緯度かつ寒いスウェーデンの森林率は70%を超えていた。スカンジナビアは寒すぎるが山ばかりなので森を開拓しても農地が作れないから乱開発が起きなかったので近世に入って居も膨大な森林資源が存在していた。実はスウェーデンはこの森林資源と良質な鉄鉱石を背景に製鉄にかんしては一歩抜きん出居た。第一次産業革命に必要な材料はスウェーデンに依存していた。第二次産業革命於いても良質な鉄鋼はスウェーデン産の鉄鉱石に依存しており最終的にイギリスの足枷になる。
そもそも中世の機械化は水車動力によって行われた。風に恵まれた地域では風車を利用したケースもある。しかし、水車動力には欠点があり、要するに川が無いところに工場が建てられない点にある。そのため水車に変わる動力が求められた。
要するに産業革命初期に「水車に変わる動力源が求められた」のが正解で解答がたまたま蒸気機関だっただけである。蒸気機関は産業革命の必須要件にならない。それには国が、水車が供給できるエネルギー以上の生産力を必要としていないと発明も起きない。そのため水車で十分な段階では水車のまま留まった。中国は宋の時代には石炭を使って居たとされているにもかかわらず。エネルギーは人力で十分だった。そのため石炭は燃料にのみ使われた。
さらに蒸気機関は熱エネルギーを運動エネルギーに変換する機関になる。ベースになる学問がニュートンにより整理されていたのも大きいだろう。ニュートンの時代はヨーロッパの魔女狩りの最盛期だったが科学が魔女狩りの影響を受けなかったイギリスは特異点にいたのだ。
蒸気機関より先に内燃機関や電気モーターが出来ていれば内燃機関や電気モーターが革命の始まりになっただろう。もっとも内燃機関は蒸気機関より遙かに高い技術力が必要だが。
石炭が重要な位置を占めるのはこれら軽工業ではなく、第二次産業革命の重工業になる。鉄鋼の量産に木炭を使うと禿山だらけになってしまうため石炭が必須になったからだ。
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