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吟遊詩人のごった煮

 混乱の元になっているので(いつもの)少しまとめてみた。これらの単語が近代ヨーロッパに於いて混乱したのが混乱の元になっている。英語のサイトを見たがやはり混乱していて嘘の説明がまかりとおっている。それにくわえて音楽家が大嘘をばらまくから混沌としている。

  • bard(バード) ケルト社会における階級。音楽の演奏や歌唱を担当する。階級は低い。ルネサンスごろまで存在した。近世イギリスに於いて詩人を差す単語として再利用されている。RPGやファンタジーの吟遊詩人の原形。

  • fili(フィリ) ケルト社会におけるエリート階級。詩人カーストの最上位。実態は占い師。17-18世紀頃まで残っていたらしいが、その後bardと混用されるようになる。

  • troubadour(トゥルバトール) 南仏のオック語圏に於ける詩人。愛と騎士道が主なテーマで、11世紀頃から13世紀頃に活動していた。トゥルバトールの大半は貴族階級で吟遊(旅をしながら歌を吟じる)しないので吟遊詩人と呼ぶのはそもそもおかしい。アキテーヌ公ギヨーム九世が最初のトゥルバトールと言われている。英語のtroubadourは16世紀に出てくる単語で、その時代からジョングルールと混同している。

  • trouvère(トルヴェール) 北フランスのオイル語圏における詩人。トゥルバトールの影響で生まれた。貴族出身が多く、大貴族をパトロンにして活動していた。アーサー王伝説を魔改造したのもトルヴェール。

  • jongleur(ジョングルール) 南仏における吟遊詩人で12世紀頃に西ヨーロッパ全体に広がった賤民。ジャグラーと読むと曲芸師を差す。

  • minnesänger(ミンネジンガー) ドイツに於ける詩人。12-14世紀頃に活動していた。ミンネ(愛)の詩を書く詩人だからミンネジンガー。トゥルバトールの影響を受けている。騎士階級出身が多い。

  • spielmann(シュピーラー) ドイツに於ける吟遊詩人。道化師とも訳される賤民

  • goliards(ゴリアール) 中世末期に現れた。遍歴学生とも言う。大学に所属したまま卒業する気がなく遍歴芸人紛いの行為をしていた連中。中世大学では学生は聖職扱いなので、聖職でありながら賤民と言う謎の存在。最後には大学や教会の取り締まりの対象になった。

 要するに、ここには明確な断裂が存在する。しかしトゥルバトールとジョングルールの定義の方が近世から近代ヨーロッパにかけてごちゃごちゃになってしまったため非常に分かりにくい。トゥルバトールがアルビジョワ十字軍以降衰退したのもあるのだろう。日本で例えると歌人と琵琶法師を一緒くたにしてしまった感じ。

 アーサー王伝説においても円卓の騎士の一人サー・ディナダンがマーク王批判の詩を作詩し、吟遊詩人に唄わせているシーンが存在している。この部分がよく分からなかったが、そう言う時代背景があると分かれば理解出来る。吟遊詩人は道化師と同じ扱いで国王に対する批判を行っても免責されたらしい。そのため騎士の一人が君主を批判する詩を書き吟遊詩人に唄わせることによって政治批判を行うと言うフランスの様相をそのまま書いたと思われる。

 したがって実際にいたのは歌を唄う遍歴道化師なのだろう。

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