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鬱と故郷と『Night in the Woods』

 もう1周は遊びたい。

 久しぶりに起動したら、ストーリーも終盤に差し掛かろうかという段のセーブが残っていました。
 このゲームをSteamのライブラリに加えたのはもう何年も前で、その際遊んだ名残がこれ。有体に言えば途中で投げちゃったわけです。あれから色々なことがあったいま現在、「一度は投げたゲームだけど、いま遊ばないなら死ぬまで遊ばないだろう」という勘が働き、長き積み期間を経てプレイすることになりました。

  媒体を問わず、こういうネガティブな雰囲気の作品は、精神的なセットアップが完了しているタイミングで賞味したいという気持ちがあります。
 今の自分のカスみたいな身の上も、このゲームをより印象深いものに昇華させるスパイスに出来るなら、ちょっとはマシなものになれるだろう。そう思ってこそのリトライでしたが、想定以上にぶっ刺さりまして。

 本記事には本作のネタバレが含まれるので、ご留意ください。


◆プレイ状況

 改めて遊びなおしたところ、エンディングまで9時間弱。購入当時のクリア未達まで含めると18時間くらい。

白昼夢


徐々に色褪せていくくらいなら

 田舎町の描写に関しては、もう白眉と言わざるを得ない。
 久しぶりに会う目上の人はすっかり歳を重ねていて、同年代の連中は話してみればちょっと訳ありか単なる帰省中。幼い頃の記憶にある建物は取り壊されていたり『都会っぽい』店に入れ替わっていたり。豊かな自然の中にある澄んだ空気に漂う閉塞感は、人肌の確かな温もりも宿しながら、しかし確実にこの町を翳している。
 都会の風に晒された後なら分かる。「居心地の良さ」と「居心地の悪さ」が意外な収まりのよさで同居した、あの奇妙な感じ。
 風土や制度が違っても、根底に絶えず流れるゆるい絶望感みたいなのはどこでも同じなんだと感じました。これはもしかしたらローカライズの功績なのかもしれない。

 田舎あるあるが丁寧にふんだんに描き尽くされた物語の舞台『ポッサム・スプリング』は、田舎から都会へと巣立った人間に対して鋭すぎるほどのリアリティを伴って迫ってきます。
 逆にそういった経験がない人にはピンと来ないだろうし、「よくわからないし退屈なゲーム」というレビューが投稿されるのも自然だと思う。開発はそこに関しては切り捨てていたとしてもおかしくないとさえ思う。
 夜の娯楽って酒飲むか車飛ばすかスポッチャ行くかの御三家みたいなところありますし、帰省しても暇なんですよね。
 ……そういう話ではない?

 先述した『居心地の「良さ」と「悪さ」』に関して。
 後者の正体は焦燥です。自分を蚊帳の外にして世界が進んでゆく感覚。それに追いつきたい、置いて行かれたくないという心の動き。
 だけど、望んでいないのに田舎にいる人というのは相応の理由があるわけで、病気とか家族とか金銭とか、それは本当に人それぞれだけど、いずれも一朝一夕には解決しない根深い問題たち。
 逸る理想と現前するリアルとのギャップがもたらす不安を、心身を痛めて田舎へ舞い戻って来た私はいま身を以て体験しているわけだけど、イキりとか痛々しさとかではなく、マジで「自分は終わってる」と思う夜もある。

 人間のように日々死んでゆく、どこにでもある田舎町。故に、故郷の憂鬱を知る人たちには現実顔負けの解像度で迫る。そこで懸命に生きている住民の描かれ方もまた生々しく、隙が無い。
 この辺りが本作を名作にしていることは疑いようもないでしょう。


私たちに錦は飾れない

 就職活動を終えて東京へと向かう頃、ようやく一人前の人間になれたような感覚がありました。
 高校の頃は学校に馴染めず、這う這うの体で進学した大学でも色々あってメンタルを崩し、そんな紆余曲折を経ながら何とか金銭的に自立する段階へと到達。この頃から「自分は周囲に生かされている」感覚が強くあり、親や学校の恩師に対して恥じ入るところがない人間になりたいという気持ちを一丁前に抱いていたわけです。
 別に大した職ではなく、とりわけデカい人間になることを別に望まれているわけないんだけど。まあ、バカ踊りですよね。

 初々しい決意を固めた日も最早数年前、今は帰郷して静養中。
 親族も友人も温かく迎えてくれていますが、それ故にここが居場所じゃないような気もする。自分という存在がナチュラルじゃないような違和感。

 これは完全に妄想だけど(もしかしたら自分が読み漏らしたり、まだ拾っていないテキストでこういう話があるかもしれないが)、ポッサム・スプリングに帰還するメイもそうだったんじゃないかって重ねてしまうんですよね。
 生まれ育った土地を出て、それっぽい身分を得る。儀礼を経て、それでようやく自分が『まともな人間』になれたと思っていたのに、それが勘違いであったと気付いてしまう。
 この情けなさったらもう相当なアレなわけで……。

 この手のゲームは諸々遊んでいるけど、ここまでクリティカルな体験をすることはそうそう無いんじゃないかと思います。


あとがき

 終わり方が急展開すぎない?という意見について。
 カルトが暗躍してやべえ!みたいなところからほぼほぼ一本道で、違和感はあったけど楽しめた。
 個人的に不満なのはやっぱりテンポの悪さで、特に夢の中のアクションパートは周回していると本当に面倒くさい。でもそれだけかも。

 何より印象的だったのは、作中において問題らしい問題が何も解決していないことです。
 少なくともメイたちの考え方には影響があるだろうけど、家族に仕事に金銭に、まだまだ問題はごまんとある。ポッサム・スプリングの未来は変わるはずもない。本作で描かれたのは、摩耗してゆく小さな世界におけるほんの十数日で、自分の立ち位置が少しマシになっただけの一幕。

 でも、だからこその『Night in the Woods』なんだとも思う。
 この鬱屈を切り払うような奇跡を紡げるのなら、そもそもこんな作品は生まれていないでしょうから。

遊ぶ度に好きなテキストが見つかりそう

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