社員教育の効果測定を行うべき理由 ~その意外な「効果」とは?
こんにちは、ミテモの小林です。
みなさんは「社員教育の効果測定」に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
例えば、集合研修やeラーニングの受講後にアンケートや確認テストを実施したり、学習内容を元にしたアクションプランを立てて経過を観察したり……、といったように「効果測定」には、たくさんの手法があります。
しかし一方で社員教育の効果測定は、ただむやみにテストやアンケートを実施すればいい、というものではありません。本来これらの測定手法は、「何を測定したいか」という目的に応じて使い分けるべきものなのです。
実際お客さまからは、「効果測定って何をやればいいの?」「とりあえずアンケートはとったのだけど、次はどうすればいいの?」といったご相談を多くいただいております。そこで本日は、「社員教育の効果測定は何を測ればいいのか問題」について理論を踏まえて考えてみたいと思います。
カークパトリックの「効果測定の4つのレベル」
アメリカの教育研究者ドナルド・カークパトリックは、効果測定の目的を「Reaction(反応)」「Learning(学習)」「Behavior(行動)」「Results(結果)」の4つの段階に分けて説明しています。順に詳細を見ていきましょう。
1. Reaction (反応) のレベル
「反応」のレベルでは、受講者が集合研修やeラーニングを通して、どれほどの満足感を得たかを測定します。例えば、事後アンケートや講師へのインタビューなどで観測することができます。どれだけためになる内容でも、このレベルでの結果が悪い場合は、受講生の注意が教材に向いていないことがわかります。結果「受講率が上がらない」「最後まで視聴してもらえない」などの問題が出てくるのです。
2. Learning (学習) のレベル
次の「学習」のレベルでは、その学習機会を通して、どれだけ学習が行われたか、つまり何がどれくらいできるようになったかを測定します。これを測定するための取り組みとしては、事後テストやロールプレイ、スキルチェックなどがあります。すべての研修、eラーニングには、必ず学習目標がありますので、その目標が達成されたかを測るための指標といえます。
ここまでは、通常よく行われている効果測定の手法です。
3. Behavior (行動) のレベル
次の「行動」のレベルでは、「学んだことが現場で活かされているか」を測定します。
基本的に社員教育には、何かしらの「実施する目的」があります。例えば、新入社員にはまず「電話の取り次ぎ方を覚えてもらうため」に電話応対研修を実施しますし、「顧客対応の品質を上げるため」にはCS向上研修を実施します。そして社員教育の成果は、本質的にはこれらの「実施する目的」が達成できたか、つまり「学んだ内容が現場で活かされたか」で測定されるべきものと考えられます。
このように「学んだ内容が現場で役立てられること」を、研修転移と言います。「行動」のレベルでの測定は、まさにこの研修転移の度合いを確かめるものです。
「行動」レベルでの測定にあたっては、例えば、
・学習後にアクションプランを作成。一定期間を経て、上司と進捗状況を確認する
・行動目標を立て、行動観察を行う
・学習実施から数ヶ月後に、受講者へのインタビューやアンケートを行う
といった測定方法が一般的です。
もちろん「反応」や「学習」のレベルの評価も、「研修・eラーニングが適切だったか」を考える指標としては重要ですが、社員教育全体のレベルでは「行動」、そして次にご紹介する「結果」のレベルでの評価が重要と言えます。
4. Results (結果) のレベル
最後の「結果」のレベルでは、その学習が最終的に「ビジネス数値」としてどのように反映されたのかを測定します。これは前述の「行動」のレベルよりも、更に深ぼった本質的な効果測定と言えます。
例えば、先に挙げたCS向上研修の例であれば、「実施前後で顧客満足度が上がったかどうか」を数値で測ることで、「顧客満足度をあげる」というビジネスの結果が社員教育によって生じたかを判断することができます。また、この測定と併せて〈教育で得られた効果〉と〈教育にかかった費用〉を比較し、費用対効果を確認することも重要です。
ただ一点ここで注意いただきたいのは、「結果」のレベルでは、社員教育以外の効果も反映されてしまう可能性が高いということです。目標としていたビジネス数値について、変動があった理由が社員教育によるものなのかを正確に示すことは難しいのです。
「研修の効果測定」をすることで、「研修の効果」が生まれる?
さてここで、効果測定に関する、ある興味深い研究結果をご紹介します。
Sacks & Burke (2012) らの研究 (※) では、 上述した「行動」と「結果」のレベルでの効果測定を行っている企業では、研修転移が起こりやすいことが示唆されています。
つまり、効果測定を高いレベルで実施している企業のほうが、研修で学んだことが現場で活かされやすい、というのです。これには、二つの理由があると考えられています。
理由1:効果測定を通して良質な教育機会を生み出せている
効果測定は、社内教育の改善点を洗い出すためにとても有効な手法です。そして効果測定を「行動」「結果」のレベルで実施すると、「学習内容が現場で活かされているか、ビジネスに影響を与えているか」を軸に内容の改善を行うことが可能になります。こうした改善の取組を定期的に実施することで、より「現場で活きる学習」ができる仕組みがつくられ、結果として研修転移を増やすことに成功していると考えられます。
これが「反応」や「学習」のレベルで効果測定から社員教育の改善までを実施している場合、どうしても改善の対象は一つ一つの社員教育プログラムの中身が主になってしまいます。そのため「行動」「結果」で測定した場合と比較すると、研修転移を生み出しやすい改善が実施されにくい側面があるのです。
理由2:効果測定を行うことで、受講者は測定される項目を「学習の重要ポイント」だと意識するようになる
効果測定は、改善を回したり、効果を実証するという面でも非常に重要ですが、「何を測定するか」が受講者に影響を与えることも重要なポイントです。
みなさんは学校の授業で、先生に「ここ、テストに出ますよ!」とよく言われませんでしたか? そう言われて「ということは、ここは学んでおくべき重要なことなのだ」と思い、テストに出るという部分をじっくり勉強した経験をお持ちではないでしょうか。
つまり、「テストで何を測定するのか」は、言い換えればテストを行う側が「何を重視しているのか」を示すのと同じ意味を持ち、受講者へ「学んでほしいポイント」を言外に伝えているのです。余談ですが、このような「テストで実施された測定項目への学習が深まる効果」を、ウォッシュバック効果と言います。
そして社員教育の効果測定でも、これと同じことが起こります。
教育担当者が「研修で学んだことを現場で活かしているか(研修転移が起きているか)」を重要な項目に据えた効果測定を行うと、受講者は「学びを現場で活かすことが重要なのだ」というメッセージを受け取り、受講者自身が研修での学びを活かすようになる可能性が高くなる、というわけです。
いかがでしたか。
今回は、効果測定の「4つのレベル」と、効果測定を行うこと自体が持つメッセージについてご紹介しました。効果測定までを視野に入れた社内教育を計画するヒントになれば幸いです。
※ Sacks, A. M., & Burke, L. A. (2012). An investigation into the relationship between training evaluation and the transfer of training. International Journal of Training and Development,16(2), 118-127. doi:10.1111/j.1468-2419.2011.00397.x
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