クズ男と過ごした4年間
noteを開設したものの、どういう投稿が受け入れられるのか分からず、書いては消しを繰り返していた。でも今日、書いてみたいことができた。
ついさっき、私の長い恋が正式に終結した。
初めての彼氏、というとその前に2、3か月だけ付き合った人が怒りそうだしそれは本当に申し訳なく思っているけど、私の中では生まれて初めて、恋人を味わわせてくれた人がいる。
その人は、客観的に見ればいわゆる典型的なクズ男で、浮気はもちろん、基本的にお金は出さないし、私がバイトを探して応募して履歴書を代筆して乗る電車の時刻を伝えても、当日やっぱだるいと言って行かないような人だ。ケンカして六本木に置き去りにされたこともあった。タバコと空き缶のポイ捨ては何度注意してもやめないし。
でも、誰がなんと言おうと、忘れらんねえよばかり聴いていた私にとっては救世主で、感謝してもしきれない。とんでもなくだらしないけれど、物事を公平に見ていて、うわべだけのいい人よりもよっぽど信頼できる人間だった。
これまで自分の人生は何も報われてこなかったけど、強いて言うなら、人に好かれたこの最高な一瞬は生きていてよかったと思える。これが人生の幸せの天井というには少々あっけないけど、これで少しは私も成仏できるかもしれないなというくらい、ハッピーでラッキーだった。
その人に新しい彼女ができたらしい。
たしか、付き合って1年半くらいまではうまくいっていたと思う。クズでも最初はちゃんと恋人らしいことをしてくれた。でもそのうち、私に飽きたのかうざくなったのかわからないけど、彼氏がそっけなくなっていった。(四季ごとに彼氏の写真集を作って送り付けるのがよくないと周囲からは言われたが、彼氏自身は「それはキモくて面白い」と言っていたので、多分違うところに原因がある。)
2年目の聖なるクリスマスの夜、私は彼氏の家を追い出された。彼氏が好きなからあげやオムライスを作って、サンタ帽も二人分買って、盛大にクリスマスパーティーをするつもりだったんだけど、彼氏は終始無口でゲーム画面から目を離さなかった。「なんでそんななの?」と詰め寄ったところ、うざそうに「もう帰って。」と玄関まで押し出された。クリスマスの夜に一人とぼとぼ夜道を帰るなんて逆に面白かった。…いや、普通に切なかった。
その日から連絡がつかなくなった。
LINEの返信がないことは日常茶飯事だったが、本格的に何ヶ月も返信が来なくなった。私はもぬけの殻になりながらも、どうにかよりを戻そうと、彼氏が食いついてくるような面白い話を考えては釣りLINEを送った。続きが聞きたければ返信せよ、みたいな。芸人だった私にとっては、なんでも笑ってくれる最高なゲラ彼氏だった。だから笑わせ続ければ繋ぎとめることができるかもしれないと必死に考えた。
3か月くらい、タイミングを見てはLINEで仕掛けて、徐々に返信が来るようになった。(めちゃくちゃうざかっただろうなと思う。)そして、向こうが体調崩したとか、クレジットカードの登録方法がわからないとか、そんな連絡をきっかけにまた会うようになった。その中で、もう私に対して気がないことを確認して別れ話もしたが、私は初めて手に入れた味方の喪失が受け入れられず、心の整理がつくまで待ってほしいと頼み、別れた後もご飯に付き合ってもらったりしていた。
つまりざっくり言えば、約2年付き合って、約2年私が一方的に引きずり続けたという話。
いい女はクリスマスの時点ですっぱり別れて次を探しに行くんだろうけど、私は一番かっこ悪い形で地縛霊のようになっていた。重すぎる自分をどうすることもできないお手上げ感。"元彼"という言葉も言い慣れなかったし、言いたくなかっただけなのかもしれないが、ずっと彼氏と言っていた。心理学の試験勉強で習ったローレンツを思い出して、最初に見た人間を親鳥だと学習するヒヨコに同情したりもした。親鳥(運命の人)だと思ったら、去っていった。
このまま一生引きずったらどうしようと思っていたけど、悲しいことに自分もちゃんと終焉に向かいはじめた。先人が言うように、本当に時は解決してくれるもので、仕事の忙しさの中でほんの少しずつ少しずつ、彼氏の存在が遠くなっていった。極めつきは、公務員を辞めてお笑いに戻る決断だった。今度こそ本気でお笑い頑張らなきゃいけないですよと脳内に緊急事態宣言が出されたみたいな感じになり、それどころじゃなくなっていった。
だからもうここ数か月会っていなかったし、LINEもしていなかった。やっと自立できたと思った矢先のこの連絡だった。
改めて言われるとなんかうるるとさららって感じで、涙はこみ上げてくるけどどこか晴れやかな、変な感情になった。今の10代はぴちょんくん知らないだろうなとか考える余裕もあった。
LINEには、まず「もう最近は会ってないやん!笑」と嫌味な返しをしてから、今までめーちゃくちゃありがとう!と送った。やっぱり、感謝が溢れてくる。
こんな時こそ文を書くんじゃないかと思って、noteを開いた。
私は、元彼のおかげでいろんなことが変わった。
まず、ご飯を食べる意味がわかった。いや、逆だな。意味なんてなくて、ご飯を一緒に食べるとなんかおいしい、楽しい、うれしい、それだけでいいということがわかった。ご飯にちゃんと時間とお金を割きたいと思うようになった。可愛い食器まで欲しくなった。
一緒に食べる喜びを知っただけではない。時間の使い方に対する考えも大きく影響を受けた。いきなり胡散臭くなるけど、いわゆる「メキシコの漁師の話」みたいなこと。元彼は、クズらしく、今を楽しく過ごしたい派で、私は今苦労してでも将来ぶち上げたい派。元彼になんでもっと頑張らないのかと言ったら、「俺は田舎の工場で働いて、まあ給料低くても、家族と飯食って友達とパチンコ打てたら最高に幸せやから。君がそうじゃない生き方ならそれでいいし、俺にその価値観を押し付けんといて、俺は押し付けてないよ。」と言われてまじでぐうの音も出なかった。
それまでの私は、人間もおしりからコンセントが伸びて充電できれば寝食にかける無駄な時間がなくなっていいのになと思っていた。(今もまだ思ってはいる。)大食いだから勘違いされるけど、お腹が空くから食べているだけ。一秒でも長く仕事や勉強をするために、落ち着いてご飯を楽しむ余裕がない感じ。
元彼の生活は堕落しすぎてるにしても、彼の言う”今楽しい”って、もしかしてすごく大事なことなんじゃないかと思った。その時々の楽しいことを全部犠牲にしてきて、常に誰かと戦って、できあがったのは、ご飯すら楽しめない、他人にも効率や勝ちを要求する心の寂しい人間じゃないかと。そんなすぐには考え方は変わらないけど、これでいいのかと考え直すようになった。その時の自分を大事にすると、ただご飯を食べる、生活をするだけでも心が"大丈夫"になっていくのを感じるようになった。大きな変化だった。世界に色がつくとはこういうことかもしれない。
それから細かいことで言えば、人間の皮膚が好きになった。他人に触れるのが苦手で避けてきたから、とても新鮮だった。皮膚って他には存在しない感触で、すごいと思った。「ニンゲンだ〜!」と言いながらよく元彼の腕をすべすべしていた。「一人の方がラクで幸せだよ〜」と既婚者の友達たちによく言われるんだけど、触れていい人間がそばにいる方が安心して生活できるんじゃないかな。
また運よく彼氏ができた時には、今回の反省点を改善して、できるだけ軽く長く一緒に生活を楽しみたいなと思う。
この歳になると、もう何人も付き合ってきていて、まあそういう恋愛もあるねとか、前の前の彼氏とか忘れちゃったーみたいな感じの友達が多い。だからこの話も、なんというか、はっきり言ってしょうもないというか、読む人によってはだからなんやねんって感じかなと思うんだけど、まあせっかくだし残しておこうかな。本当に立ち直ったからこそ書けたから。
元彼には健やかに、幸せに、生き延びてほしい。
その日暮らしはやっぱり心配なので。
ってことで改めて婚活がんばります!!