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主役は子供。「ひろしま平和ノート」 『はだしのゲン』の教材削除について考えたこと。目的と手段を取り違えてはいけない。 Vol.40

「お兄ちゃん助けて!」

弟が叫ぶ。
父と姉も家の下敷きになった。
「痛いよー 早く出してくれーっ」
助け出そうとしても、あまりの重さにガレキはびくともしない。

やがて倒れた家に火がついた。
勢いよく迫ってくる火の手。

「熱いよ!熱いよ!お兄ちゃん助けて!
お兄ちゃんだけ逃げるなんてずるいよ!」

そして父
「…早く逃げろ!…もう助からない…!」

「いやだ!あんたと離れたくない!かわいい子供を見殺しにはできない!」と母。
「兄ちゃん熱いよー!苦しいよお母さん!」

「しっかり生きろ!負けるな!!」
父の最期の言葉になった。

やがて火の手が3人をつつむ
目の前で父が、姉が、弟が燃えていく。

「うふふ…とうちゃんが燃える。英子が燃える。 進次が燃える。はははは 燃える…
燃える… みんな燃える…はははは…」

母が笑う 。笑い続ける。
あまりにも悲惨な、あまりにも壮絶な光景を見て、母は気が狂ってしまった。


マンガ「はだしのゲン」の一場面。

マンガ「はだしのゲン」は、作者の中沢啓治さんが被爆した体験をもとに、戦後のきびしい環境のなかを生き抜く、主人公「ゲン」の姿を描いた作品です。

広島市では10年前、平和教育の教材に「はだしのゲン」が採用されました。
しかし、2023年に教材から削除。他の教材に差し替えることになったのです。

私はこの報道を聞いた時になぜあんなに素晴らしい、平和を問う作品が削除されるのだろうと思いました。世の中の意見も多くが同様の意見だったと思います。

しかし、『NHK「クローズアップ現代」はだしのゲンはなぜ消えた?』
を見て私の意見は変わりました。

わたしの考えは、
「はだしのゲン」を教材に使うのは、平和について考えるための手段であって目的ではない。です。

平和教材「ひろしま平和ノート」は、広島市教育委員会が独自に作ったもの。
小学校から高校まで、広島市立のすべての学校で平和教育を進めようと、10年前に導入されました。
この平和ノートの小学校3年生で扱われてきたのが「はだしのゲン」。

私が冒頭に書いた、ゲンが家族を失う場面。この場面も教材に採用されていて、ゲンの気持ちを想像することで、戦争によって引きさかれる家族について子供たちは考えます。

自分の命。父の命。姉の命。弟の命。
親を思う子の気持ち。
子を思う親の気持ち。

「命の重さって何だろう?」

戦争について考えさせられる、これ以上にないエピソードになっています。
削除される理由がわかりません。

「はだしのゲン」を巡っては過去にも論争が起きてきました。
10年前、松江市では、ほぼすべての小中学校が図書室での閲覧を制限。その後、撤回するなど混乱が生じました。

今回の議論で指摘はありませんでしたが、この教材を用いて平和について考える時間は、
年間に3時間なのです。

「はだしのゲン」が削除された理由は不透明なのですが、原因の1つとして時代背景が違う、「今の時代にあわない」ということが上げられます。

「補足して説明すれば使用できる」との意見もありますが、説明することに時間を奪われるよりも、子供たちが平和について考ることのほうが重要です。

繰り返しますが、年に3時間しかない貴重な時間です。

ではどうするべきか?
ヒントは番組の最後にありました。

番組の最後に沖縄の平和教育について取り上げています。
平和教育の授業を担当しているかたのコメントです。

『沖縄戦を学ぶっていうのは、自分の生き方をよくしていくとか、政治への向き合い方をよりよいものにしていくとか、より賢くなっていくためにやるものだと思ってるんですね。子どもが意欲的になって自分から手を伸ばして、それを取りに行くっていう場面を作るかっていうのが私たちの仕事だと思っています。』

子どもたちが自分から歴史を学び、そして語り、平和を作っていく土台作りがもっとも大切です。

広島県や沖縄県は過去の戦争経験から、他の地方にくらべると平和をについて考える機会は多いと察します。

「はだしのゲン」を教材に使用するかを議論するよりも、全国どの学校においても、平和に関する授業を1時間でも設けようという議論をする方が、大切なのではないでしょうか。

そのなかで、「はだしのゲン」という平和について考えさせられる、マンガがあると紹介すればいいのです。

いつの時代にも争いは絶えません。

『いつの世でも人握りの権力者のために戦争で死んでいくのは名もない 弱い国民だ……。』

「はだしのゲン」最終回の一部分です。

蛇足ですがこれを書いているうちに思いついたことがあります。

平和教育もいずれは VR (バーチャルリアリティ:仮想現実)でリアルな疑似体験をすることで、より平和に関する考えが深まるのではと感じました。
家族が家の下敷きになりやがて業火につつまれる…それを疑似体験…
考えただけで恐ろしい…

少しでも世界が平和でありますように。

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