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美しい稲妻│詩

真水の中に
黒墨の塊をいくつも投げ込んだような
恐ろしく暗い雷雲が空を塞いでいく

閃光が目に映る景色を白に塗り替え
無数の稲妻が邪魔するものの無い虚空を
縦横無尽に這いまわる

玄関先の小さな地面は
雹が混じる大粒の散弾に無数の穴をあけ
やたらめったら泥を撒き散らす

バチバチバチバチ
声も掻き消す雨の爆ぜる音
バリバリバリバリ
胃の中にまで響き渡る雷鳴
稲妻は巨大な手を広げ
飛ぶ鳥もない無音の空を切り裂いていく

玄関の戸をわずかに開けて
僕は瞬きせずに目を凝らしていた

いつ現れるかわからない
恐ろしくも美しい稲妻を待っていた

叢雲の下へ這い伸びる光の軌跡を
イオン化して緑や紫に変わる空の色を
雷光の後を追って響く雷鳴の圧を

外に人の姿は無く
鳴り止まない轟音は
僕らの暮らしそのものを掻き消して
雪の日のような静寂をもたらしてくれる

何もかも覆い尽くして
戸の隙間から覗く少年の
目と耳と心を射止める美しい稲妻よ

同じ刻に、同じ空を、同じ心で
見上げているひとを教えておくれ

この光景を
美しいと言うひとを

2024/6/2

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