万年筆とインクで美濃和紙に。喫茶で綴る「便り」。
俳句と暮らす vol.27
岐阜・柳ヶ瀬近く、まちのサロンのような喫茶「星時」
築50年を超える雑居ビルをリノベーションしたアトリエビル「カンダマチノート」の2階に、隠れ家のような可愛い喫茶があります。
喫茶「星時」。
おいしいコーヒーと可愛いケーキをオーダーして、本を読みながらのんびり過ごすにはぴったりの素敵な空間です。
ライブや落語会、ヨガやタロットなど文化度の高いイベントも頻繁に開催されている「星時」さん。
老若男女たくさんの人が集っている、まちの休憩所のようでいて、文化サロンのような素敵な喫茶です。
そんな「星時」さんで、今年から“星時文具店”という新たな楽しみが始まると聞き、さっそく体験しに伺いました。
便箋に、万年筆とインクで文を綴る「tuzuru」
“星時文具店”として新たに始まったのが、便箋に万年筆とインクで文を綴る「tuzuru」。
落ち着いた空間でおいしいコーヒーを味わいながら、3色のインクと万年筆、つけペンが体験できるというものです。
体験料金は、1ドリンク付きで1,000円。
この体験料には、便箋2枚と封筒1枚が含まれ、つけペン・万年筆などの筆記具と、インクを3本貸していただけます。
インクの色もさまざま。
基本的には店主が選んで運んできてくれますが、タイミングによっては希望の色を借りることも可能だそうです。
おいしいケーキとコーヒーをいただきつつ…
まずはドリンクを選んで、「tuzuru」を体験したい旨を店主の樋口さんに伝えます。
今日はせっかくなので、星時さんのおいしい自家製ケーキも一緒にオーダーしました。
私が選んだのは、本日のケーキ「イチゴのクランブルタルト」と、オリジナルブレンドコーヒー。
星時さんでは、岐阜市の「yajima coffee」さんの豆を使った、星時オリジナルブレンドが味わえます。
「便箋にどんなことを書こうかな」「誰に出そうかな」と考えながら、まずは至福のおやつタイム。花びらが散りばめられイチゴのタルトは、思わず何枚もシャッターを切ってしまう可愛さで、とても美味しかったです。
菫色がかわいい、美濃和紙の便箋と封筒
「tuzuru」には、便箋2枚と封筒1枚がついてきます。
書いた便箋と封筒は、もちろんそのまま持ち帰ることができます。
受け取ったのは、手触りが気持ち良い、淡い菫色とグレーのバイカラーのレターセット。
こちらは、岐阜県美濃市の「Washi-nary」さんと、和紙の企画デザイン会社「WACCA」さんがコラボした、美濃和紙のレターセット「Washi Letter Set」です。
少し異なる色原料を2層に抄き合わせている、和紙ならではの風合い。
両面の色がわずかに透ける、杢のような深みと奥行きのあるリバーシブルカラーが特徴で、100%リサイクル和紙で作られています。
普通の和紙だと、万年筆などのインクが滲みがちだったり、繊維の引っ掛かりが邪魔をして少し書きにくいようなイメージがあったのですが、このレターセットはインクが滲みにくい特別なお仕立てで、つけペンや万年筆のようなペンでもすらすらと心地良く書けます。
何度も撫でたくなるような、あたたかい美濃和紙の風合いながら、万年筆やつけペンでの書き心地は抜群。
丁寧に筆を運びたくなる、岐阜らしいレターセットとの出会いでした。
お世話になった人に、ご報告の一報を
おいしいコーヒーをいただきながら、誰に何を書こうかな?と考えました。
いざ「手紙を書こう!」となると迷ってしまいますが、昨年秋に俳句の新人賞を受賞したことを、お世話になった人に報告しよう!と思い立ち、軽く挨拶や近況報告を兼ねて、受賞した俳句の連作を書き写しました。
手に取ったのは、クリアの軸がかわいいつけペン。
インクの色替えが容易なつけペンに、チャレンジしてみることにしました。
普段、万年筆は使っているけれど、つけペンは初めて。
店主の樋口さんの手ほどきのもとで、つけペンデビューです。
インク瓶の中にそっとペン先を入れて、まず一角目からゆっくりと書いていきます。
さっとインクにつけただけですが、思った以上に長く書くことができました。
インクがなくなったら、またつけて、書いて。つけて、書いて。を繰り返していきます。
作品は青色のインクで書きましたが、お手紙の本文は違う色のインクを使ってみました。
水の入ったコップにペン先を沈ませてささっと洗うとインクが落ちるので、ペーパーで軽く拭いてから違う色のインクをつけます。
1本でたくさんのインクを楽しめるのも、つけペンの楽しさのひとつ。
ひと文字、ひと文字、心を込めて便箋の上に置くように綴っていきます。
インクがなくなると、またそっとボトルに入れてつける丁寧な動作が挟まるので、ボールペンでさらさらと書くのとはまた少し違った心の豊かさが感じられて、「のんびり、ゆっくり、お手紙を書いている」という実感が滲んできます。
15句を書き終える頃には、とても満たされた気持ちに。
2枚の便箋をふんわりと折って、かわいい便箋にそっとおさめました。
決して上手な字ではないですが、ゆっくり、時間をかけて丁寧に書くことができたので、個人的には大満足。
できあがったお手紙はインクの濃淡が心地良くて、なんだかだんだん心がすっと晴れやかになるような気持ちになっていく、そんな体験でした。
2023年の「初便」を、つけペンとインクで
俳句の新年の季語の中に、「初便(はつだより)」というものがあります。
そもそも俳句は、春・夏・秋・冬に「新年」をプラスした5つの季節区分で季語が分類されています。
「初便」は、年が改まってから書いたり出したり受け取ったりする、最初の手紙・音信のことです。
今年はじめて書いたお手紙が、つけペンにインクをつけながら、美濃和紙に大切に綴った手紙になりました。
SNSやメールを使えば一瞬で要件が伝えられる便利な現代だからこそ、こうした一通の手紙の豊かさはひとしお。
出す方も受け取る方も、ちょっと嬉しくて暖かい、心通づるものになるんだなあと、改めて感じた、そんな今年の「初便」でした。
暮らしの一句
封筒のふくらみ撫でて初便 麻衣子