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竹林整備から始まる“優しい循環”
花、暮らし、私 vol.10
昔、知人から教えてもらった興味深い話があります。
『120年に一度、竹は花を咲かせる』
…竹に、花?
たしかに、植物であるのだから花が咲いてもおかしくない。
というよりも、よく考えると花が咲くのが自然なはずなのに、なぜだか全くイメージが湧かない…。
それもそのはず。
色々と調べてみると、竹は無性植物であることがわかりました。
一つの竹の地下茎からタケノコを生やし、その生息地を広げて竹林を形成します。竹林の中に無数に生えている竹も、実はクローンで同じ個体で竹林ができあがっているのだとか。
一本の竹の寿命は10〜20年ほどですが、一個体の竹林の寿命は竹の種類により60〜120年と言われています。人の寿命より長く生きる為、観察の継続がむずかしく未だ不明な事も多いそう。日本古来の竹と言われ、日本の竹林の半数以上を占めるという真竹(マダケ)は寿命120年の長寿さんです。
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でも、自力でどんどんと増えていく事ができるのに、なぜ花を咲かせるのか?
その理由についてはまだ解明されていないようですが、個体の寿命である60〜120年ごとに一度、花を咲かせ実をつけると言われています。そして、実を落としたその後には一斉に枯れてしまうのだとか。
竹林に一斉に花を咲かせ、新しい種を残し、その命の役目を終える。いくら自力で繁栄し続けることができても、次の世代へとバトンを渡していく。なんだか生命の神秘のようなものを感じますね。
この話を聞いてから、身近な存在だけれど知らない事ばかりの竹に興味を持ったのを今でもはっきり覚えています。
いつか見てみたいなぁ。竹の花。
身近な植物である竹の歴史
もともと日本では建材や竹細工など、竹の利用が盛んに行われていたはずですが、今では普段の生活で見ることも少なくなってきました。
戦後、高度経済成長期に、時代の流れとこの竹の寿命の周期も相まって、その利用機会は激減してしまいました。一斉に枯死してしまった事により、不足した竹材の代わりに安価な輸入製品やプラスチックに取って代わられ、その役割を奪われてしまったという背景があるようです。
とはいえ、今でも清浄な植物として神事に使用され、お正月のおめでたい席でも欠かせない竹。
今日はそんな身近だけれどあまり知らない、竹にまつわるお話を、もう少し踏み込んでしていきたいと思います。
今、竹の力が見直されている!
繁殖力の高さ、成長スピードからも「サスティナブルな資源」であると言える竹。
硬さとしなやかさを併せ持ち、建材としても重宝される他、優れた抗菌・消臭効果もあり、土壌改良や医療用ガーゼ、衣類に化粧品に…と、最近では竹の可能性が再注目され始めています。
ただ、その利用量はまだまだ限定的であり、しかも日本国内の竹を原料としている物ばかりではありません。全国に無数にある竹林を活用しきれていないのが現状です。
さらには、その竹林を管理する方が高齢でいなくなり、「放置竹林」という言葉を聞いたり目にする事が多くなってしまいました。
「放置竹林」「竹害」…いったい何が問題なの?
手入れをする人がいなくなり放置された竹は、その繁殖力からどんどんと増えます。もともと自生していた他の樹木の日当たりを奪い、雑木林は「竹やぶ」に変わっていきます。根が浅い竹の地下茎が増える事により地盤が弱くなる為、地滑りが起きやすく、土砂災害の危険性が警鐘されています。鬱蒼と茂る竹林は光も入りにくく、人も寄り付かないため、犯罪の温床にもなってしまうそうです。
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この流れを止めるために、昨年愛知県で立ち上がった
あるプロジェクトが急スピードで広がっているのをご存知でしょうか?
今、一番ホットな竹林循環プロジェクト
その名も
[おおぶ竹林循環プロジェクトBUNKAI]
https://bunkai-project.studio.site/
現在では放置竹林となり荒廃してしまった地元の竹林を、大人も子供も遊んで学べる地域の憩いの場にすべく、竹林整備を進め、竹材を使ったサスティナブルなプロダクトづくり、森育につながる交流の場づくりをされています。
発起人はBUNKAI代表の箕浦 希奈さん。
グラフィックデザイナーでもある彼女は実は昨年の7月までドイツに住んでいました。
まだ数年はビザがあったにも関わらず、一時帰国時にこの放置竹林の問題に出会った彼女は意を決して帰国し、このプロジェクトを立ち上げました。
2021年秋に活動をスタートしたかと思えば、独自でクラウドファンディングに挑戦!多くの方の共感や応援を受けて見事に目標を達成しました。
そして必要な機材を揃え、地域の竹林整備を開始。伐採した竹は、燃焼させた竹炭にして販売をスタートしています。
この間、わずか4ヶ月…!
そのスピード感に驚きです。
そしてこの竹林には、いま多くの人が集まっています。
聞けば皆さん、有志で集まった人たち。
一体どんな人が集まって、何をしているのか?
SNSでこの様子を見て気になっていた私も、BUNKAIプロジェクトが整備する竹林に行ってみました!
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ある晴れた月曜の朝。
この日集まったのは、総勢15名の有志たち。
長年竹林整備に携わられている方や、畑をやられている方、デザイナーやクリエイター、親子連れに造園業の方…代表の箕浦さんがデザイナーということもあって、多種多様な人たちが集まっていました!
その中にはSNSで活動を知って手伝いに駆けつけてくれた方も、私のように竹林整備が初めての人もたくさんいます。
この日のBUNKAIの竹林整備は、伐採した竹の燃焼から始まりました。
専用の無煙炭化器に、前日までに伐採された枯れ竹を投入していきます。すると…
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ものの数分でものすごい火柱が!!!
SNSでその様子を拝見してはいたものの、間近で見ると大迫力!せっせと竹を投入してもすごい勢いで燃えていくのです。
青竹は水分を多く含み、万が一火の粉が飛んだとしても周囲に燃え移ることがないんだとか。安全確保はしっかり行っていますのでご安心を。
※煙が出ず、短時間で炭化できる専用機器を使用しています。消防にも毎回申請を出し、指導をいただいて安全確保を念入りにされています。
一大イベントのような燃焼はあっという間に終了。専用の蓋を閉めて鎮火します。
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熱が冷めれば…土壌改良、消臭、調湿効果の高い「ポーラス竹炭」の出来上がり!
ポーラス竹炭についてはこちらの記事もご参照ください
https://note.com/bunkai_project/n/nf6025e3b0e81
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竹林と日常と
さて、ここからが竹林整備の本番です。
全員で手分けをして、枯れた竹を刈る→運ぶ→整理して並べていく。を繰り返し、少しずつ人が入れる部分が増えていきます。竹炭にする材料の枯れ竹も溜まっていく様子を見ながら、
「あぁ、これがBUNKAIか」と、妙に納得。
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目の前にそびえる膨大なあれやこれに、ときおり目を向けたくなくなって何もできなくなる…って、私たちの日常でもたくさんありますよね。
そんな時は、一歩引いた目で全体を見てみる。そして小さな一つずつに分けてみる。まず目の前の一つを片付けてみると、次の一つも意外とサクサク進んで行ったりする。
分解して、消化して、新たな何かを生み出していく。
土の中の微生物が、目の前のものを分解して新たな命を支えるように。
このBUNKAIの竹林でも、邪魔者だった枯れ竹は竹炭に。畑にまけば、土の健康状態をよくしてくれる頼もしい味方に。青竹は竹踏み(知らない世代も多い!?)にしたり、器として使ったり。冬に刈った竹を使って竹垣を作る計画もあるそうで、裏手にある小学校や公民館からの景観もよくなります。
分解して、新たな未来に繋がって行きます。
さて、午前中から始まった本日の竹林整備は、お昼頃に終了。
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竹林の中で動き回った身体は気持ちのいい汗をかいて、ものすごくはつらつとした気分に!
運動不足の解消にもなり、何より、「働いた」という清々しい感覚が湧き起こりました。
普段のお仕事ももちろん誰かの役に立っているはずで、やりがいも充実感もあるのですが、それとは少しちがう、心と身体の満足感を味わうことができたのです。
BUNKAIと未来
放置竹林を分解していって、その先にあるのはただの美しい竹林ではありませんでした。
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農業の未来や食の安全、プラスチック削減、CO2削減、サスティナブル、ウェルネス…
本気で未来を考えている大人たちが、業界を超えてここで出会い、その出会いのパワーが新しい何かを生み出している。
環境にも人にも優しい循環がここから始まるんだという感覚が、私の芯の方から沸き起こるのを感じました。
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「竹林整備未経験」の状態から始めたというBUNKAIプロジェクト。
その割にテキパキとなんだかものすごいスピードで進んでいった感が…
それもそのはず、東海地区で長年竹林整備をしている団体の元に修行に行き、基礎的な技術を学びながら、竹林だけではなく農業の畑を見学したり、食育に関わる人とのコミュニケーションもとり、本当にたくさんの人に知識や経験を教えてもらいながら進んできたのだそうです。
その学びの下支えがあってこそ、初めて参加する人でも安全に、無理なく、そして楽しく作業ができるのだと思いました。
彼女のそのひたむきさに、こちらがパワーを貰えるから、もっと関わりたいと思う人が増えていくのだな、と感じます。
こうして多くの人を明るく前向きな気持ちに巻き込んでいくBUNKAIプロジェクト。少しでも気になった方はぜひ参加してみてください!
おおぶ竹林循環プロジェクトBUNKAI
HP https://bunkai-project.studio.site/
instagram https://www.instagram.com/bunkai_project/
note https://note.com/bunkai_project
竹林整備やイベントの日程・活動報告は主にinstagramでされています。また、プロジェクトの経緯や思い、竹の有用性をまとめたnote記事もとても興味深く学びになりました。
このプロジェクトがどんどん広がっていって、全国の放置竹林の在り方が変わりますように!
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