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学び方を学べ!ドラゴン桜公式マガジン 2019年3月18日(月) 【Vol.097 取材記事・コラム版】

月曜日7時・木曜日0時の週2回配信

こんにちは!担当編集まほぴです。

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1.【連載】
たらればさん、教えてください!
古典が好きになる話

【メルマガ第六回】

「ちはやぶる 神代もきかず龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」在原業平朝臣

(龍田川を紅葉が流れゆき、(まるで真紅に染めた上等な唐衣のように)川面を美しく真っ赤に染めていて、これほどの景色ははるか昔、神々の御代でさえもきっとなかったことでしょう)

「業平」と言えば美男子一般の代名詞として使われ、「昔男」と言えば在原業平を指す、という時代が、日本語の歴史の中には長く存在します。
 わたしの知るかぎり、こういう存在は業平のほかには長嶋茂雄氏の「ミスター」だけです。
 なんとなくいきなり話がドリフトした気がしますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。少し仕事が立て込んでいるたらればです。春ですね。

■容姿端麗、和歌の才能があり、血筋は超一流・在原業平

 今回は日本文学史上に燦然と輝くザ・イケメン、在原業平(825~880年)です。小野小町と違って生没年がはっきりわかっているのは、彼が天皇の血を引く高貴な生まれだからです。
 業平の父親は平城天皇の第一皇子である阿保親王であり、母親は桓武天皇の皇女・伊都内親王ですから、世が世なら天皇即位も狙える血筋でした(もちろん史実では「薬子の変」により阿保親王は皇統から外れており、業平の一族は臣籍降下しているわけですが)。

『日本三大実録』という歴史書には、業平について「体貌閑麗にして放縦拘らず、ほぼ才学なくしてよく和歌を作る」(姿かたちは麗しいが節操を欠いており、(当時の律令官僚に必要だった)学問は足りないが和歌の才能はすばらしい)と記しています。
「才学」というのはいわゆる漢文の読み書き、漢詩を詠む能力のことなのですが、節操を欠いてしかも(官僚の実務能力を示す)才学がないにもかかわらず、史実の業平は蔵人頭(現在でいうところの官房長官や首席補佐官といった役職)にまで出世しています。

 つまり在原業平は、容姿が美しいのはもちろんのこと、和歌が上手で血筋は超一流、「出世に興味なんかないしそのための勉強にも興味ないね」という振る舞いをしながらも、しっかり出世の階段を駆け上がった人物だったわけです。
 なんというか、少し腹が立ってきました。

■多方面へ影響を与える業平の業績

 閑話休題。
 そんな在原業平は、随筆家の白州正子に手放しでべた褒めされています。
「業平という存在は、美男の典型であるだけでなく、日本の美の創始者と名付けても過言ではないと思う。すべては彼の歌の力にある。」(『古典の細道』「昔男ありけり」より)と、まさに激賞。
 それもそのはずで、例えば業平の
「唐衣 きつつなれにしつましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」
 という歌に着想を得た尾形光琳は国宝「燕子花図」を描き(上記和歌のそれぞれの文頭を獲ると「か」「き」「つ」「ば」「た」になる)、
「名にしおはば いざこととはむ都鳥 わが思う人はありやなしやと」
 という歌に着想を得た観世元雅(世阿弥の長男)は能の名作「隅田川」を作り、
「春日野の 若紫のすりごろも しのぶの乱れかぎり知られず」
 という歌と『伊勢物語』「初冠」における一連のエピソードの影響を受けて、紫式部は『源氏物語』での「光源氏による幼い紫の上連れ去り事件」を書いた……というくらい、業平の業績は日本文化に根強く、多方面へ影響を与えているわけです。

 このほかにも有名な歌がいくつもあって(「月やあらぬ 春や昔の春ならむ…」とか「世の中にたえて桜のなかりせば…」とか)、いやもう本当に名作乱れうち、同時代の有名歌人を集めた「六歌仙」の中でもその実力は(小野小町と並んで)双璧と呼べるのですが、そんななかでも小倉百人一首には表題の「ちはやぶる…」が選ばれており、こちらももちろんしっかりと名歌なわけです。
 ではこの一首にはどんな背景があるのか。

■手が届くほどの距離に居ながらも、決して手の届かない相手

 この「ちはやぶる…」は、実際に龍田川(奈良県生駒郡周辺を流れる、実在する川。いまも川沿いは紅葉の名所として知られ、一説にはこの見事な紅葉が「竜田揚げ」という名称の元になっているそう)を目の前にして詠まれたわけではありません。
 業平のかつての恋人であり(『伊勢物語』で、すべてを投げうって一緒に都から駆け落ちしようとしたエピソードが描かれる相手)、歌の成立時点では清和天皇の妻となっている(つまりもうどうあっても業平の手が届かない存在となった)藤原高子に頼まれて、龍田川が描かれた屏風に付けるための歌として詠まれたものです。

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