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「環境の変化に合わせて、学びを拡大していく」広尾学園 変革の軌跡/副校長・金子暁さん (後編)

☆様々な分野の「学びのプロ」に桜木建二が話を聞く!

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海外大学進学者数、中学受験者数のトップを誇る超人気校の広尾学園。一時は廃校の危機に追い込まれていたという同校が、どのように現在の姿になったのか。改革を牽引してきた金子暁副校長に聞いた。


▼前編はこちら



目ざすはリッツ・カールトン!?来校者には最上のおもてなしを。

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――共学化した2007年には生徒数が微増だったのが、翌2008年、2009年には急増したようだが、その理由はなんだったのか?

「私立学校にとって、塾の先生の意見はとても強いのが実情です。塾の先生から『共学化したけど、今後どうなるかはまだ分からないから、あまりおすすめしません』と言われてしまったら、生徒数も増えない。

受験生や保護者に、リーチできる機会は塾の先生の意見か説明会くらいしかないので、説明会も変革し始めました。

当時、リッツ・カールトンが話題になっていたので、『目標はリッツ・カールトン。教員みたいな対応はやめましょう』と教員に周知しました」

――学校がリッツ・カールトンを目指すとは、どういうことだ?

「『質の高いサービスは、質の高い教育と矛盾しない』という思いです。従来型の説明会は、理事長・校長・教員が一方的に1時間延々と喋るようなスタイルでした。

聞いていると、いい話だなとは感じるものの、時代に合っているとは思えません。また、聞き手にとっても一方的な話では記憶に残りづらいでしょう。

もっと普段の学校の様子を伝えるにはどのようにしたらいいかを考え、聞いている方がイメージしやすいように、普段の学校風景の映像を撮り、編集をしてどんどん見せるようにしていきました。

さらに、説明会時には、教員はインカムをつけ、現場に即した対応をできるように徹底しました。そうすることで、資料が足りない、椅子が足りない、などの事態にもすぐ様対応できます。

仏頂面の教員から何かをされても不快でしょうから、『満面の笑顔で対応する』ことも心がけました」

――なるほど。一流ホテルに行ったようなサービスを受けられる説明会なんて、経験したことがない人がほとんどだろうから、印象に残るな。

「また、生徒達が主体となって、受験生へ普段の様子を伝える授業体験会も行いだしました。この取り組みによって、生徒も活躍できるし、生徒が楽しんでいる様子を撮影し、説明会で流すと受験生や保護者の方も普段の様子がイメージしやすいし、プラスの循環が生まれました。

取り組み後は、教員からも生徒からも多くの気づきが寄せられるようになりました。どうやったらもっとよくできるか、保護者や受験生に楽しんでもらえるか。実際に自分たちがサービスする側にまわることによって、そうしたことに当事者として思いを巡らせることになります。

『サービス』という言葉を使うと、どうしてそんなにへりくだるのか? と教員は考えがちです。ですが、サービスとは下手に出るようなことを意味するのでは決してありません。

『ホスピタリティ』と言い換えるとわかりやすいかもしれませんね。気持ちよく過ごしてもらうことは、気持ちのいい授業を提供することとなんら矛盾しないという思いです。

そうした取り組みから、説明会に来てくれた保護者や受験生の方々が口コミで『良さそうな学校だ』と広めてくれ、徐々に受験者が増えていきました」

進学校の後追いに疑問の声。医進・サイエンスコースの新設

――変革の第1期だけでも、ものすごい変化が生まれたように感じる。さらに変革第2期には何が行われたんだ?

「順調に生徒数は増えていきましたが、進学校の後追いするだけで本当にいいのか? という疑問が教員たちの間から浮かびあがってきました。そこから生まれたのが、医進・サイエンスコースです。

医進・サイエンスコースは、単純に理系に特化した受験や医学部進学を目指すといったことではなく、サイエンスの本質を極めようというコースです。

『まだ答えが出ていないこと』をテーマにして、研究を深めていきます。生徒たちは学会の一般枠で発表することを目指しています」

――まるで大学で行われているような取り組みだな。

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「学校や教員が、『生徒ができるのはこれくらいだろう』と枠を決めてしまうことが、生徒の可能性を潰してしまうことになると思っています。

ありがたいことに、他校やメディアから『人気校になるために、先生方は何をしたのですか?』と聞かれることもあるのですが、教員はそんなに大きな役割を果たしていないとも思うのです。

もちろん、どういった取り組みをしていこうなどの、最初の大枠は考えましたけれど、あとは教員が特別な何かをしたというよりも、生徒自身の気づきによってどんどん変わっていったように感じます」

できる生徒とできない生徒でペアを組むことによって起こる化学反応

――俺は、これからの時代、教育者が果たすべく役割は「『ティーチング』から『コーチング』へ」と言っているが、広尾学園ではまさにそれが行われているようだな。インターナショナルクラスの取り組みも独自だと耳にしたぞ。

「インターナショナルコースを創設したのは2007年ですが、その当時はよくあるインターナショナルスクールのような内容を行っていました。

2010年にSG(スタンダードグループ)とAG(アドバンストグループ)という二つのグループを創設しました。SGの生徒は、入学時にはほとんど英語力が0で、これから学びたいと思っている子ども達です。一方で、AGの生徒は、帰国子女など、既に英語力がネイティブ並にある子ども達。

英語に関しての実力が全く違うSGとAGを同じクラスに半々の割合で入れ、ペアを組むことにより、お互い刺激を受けるんです。

ホームルームや連絡事項も英語で行われますので、SGの生徒は最初は当然先生がなんといったのかが理解できない。わからないことをペアのAG生徒に教えてもらうのです。

SGの生徒は、英語力ではAGの生徒に敵いませんが、受験勉強を経て入学しているので、他教科の力はAGの生徒に負けていない。自分が得意な他の科目についてはAG生徒に教えてあげたりと、好循環が生まれます。

また、AGの生徒の英語力に追いつこうとものすごく頑張っているSG生徒を横目にすると、AG生徒も既に英語ができるからといっても、のほほんとしていられない。どちらにとってもいい影響が生まれているように感じます」

――まさに切磋琢磨だな。人は誰かに教えようとする時には、どうやったらうまく伝わるだろうかと、ものすごく頭を使って考える。そうした意味においても、このペア制度は効果的なように思える。
 医進サイエンスコース・インターナショナルコースの他に、本科があるわけだが、別のコースに入り直すのも可能なのか?

「高校進学時に、全てのコースの生徒が、どのコースに行くかの選択が可能です。

最初は『英語力を鍛えたい』と思って、インターナショナルコースに入学した生徒が、中学3年間学んでいる中で、サイエンスに興味を持つ場合もありますし、サイエンスを選択した生徒が高校では本科に移行する場合もあります。

入学時の頃の思いが、3年間の間に変わっていくことはごく自然なことだと思っているので、このように高校進学時には自由に変えられるようにしているのです」

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生徒にどれだけチャンスを経験させられるか。多彩なキャリアプログラムを用意

――大きな変革を感じた第2期までの経緯だが、第3期では何を改革したんだ?

「変革第3期では、『脱旧来型学校教育』を掲げ、教育活動の高度化と学校の枠を超えた、世界とのつながりを強く意識してきました。

 今までの社会は『いい大学に入り、いい就職先に就職する』ことが社会的な成功とされていました。しかし現在はその価値観も変わりつつあります。

 いい大学に入ることを否定するわけではありませんが、生徒によっては、いい大学に入ることが必ずしも彼らの幸せに直結しない場合もある。

大学名や企業名よりも、自分が興味のある分野の仕事に携われたほうが、長い人生の中では幸せなのではないかと思ったのです。

高3の時に、自分のやりたい方向を見つけたとしても、その進路に行くには間に合わない場合があります。ですから、中1の頃から「本物との出会い」をテーマに、各専門分野の第一人者をお招きしてお話を伺えるような機会をつくっています」

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――中1の頃からこうした機会を得ることで、世の中には様々な分野・職業があることを体感できそうだな。

「学校の教員から『こんな職業があるよ』と聞かされるのと、外部の専門家から直接聞くのでは、生徒に残る印象が違うように感じます。

変化が激しいこの時代においては、教員の計算通りに成長するのではなく、できる限り多くのチャンスを経験させてあげることが学校のミッションだと思っています」

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――最後に、第3改革までを経て人気校となった広尾学園だが、今後目指すべく姿を教えてくれ。

「最終形態・目標というものはなく、時が経つごとに次の課題は常に存在し続けます。私たち自身も変わらないほうが楽だから、どうしても従来通りのやり方をしたくなってしまいますが、環境は常に変わり続けます。

変わり続ける環境の中で生きていくためには、大人も子どもも関係なく、『学びを拡大していくこと』しかないと思っています」

金子(グラウンド)

金子暁
1958年、福島県いわき市生まれ。広尾学園中学高校副校長。筑波大学人文学類(日本史専攻)を卒業後、順心女子学園に勤務。生徒急減期の体験を経て、2007年の校名変更と共学化に合わせた広報戦略を担当。キャリア教育、ICT活用を推進し、新設された教務開発部の統括責任者となり、2017年から副校長として教育改革に取り組む。


取材・文/代 麻理子(@daimarikooo

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