「必要なことは型にはまること!」/強いセリフの裏側にある三田紀房の経験と人生【後編】
この記事は後編です。前編は下のリンクからお読み頂けます。
「必要なことは型にはまること!
成功はすべて型によってもたらされるのよ!」
ーーほかにも三田先生の実体験とリンクしたセリフをご紹介していただいてもよろしいでしょうか?
三田:
「これって、2つのセリフで一つのエピソードを話す感じでも良いんだっけ?」
ーーぼくはまだ編集スキルがないので、出来ればセリフひとつにつきエピソードを一つ紹介してもらえると…
三田:
「なるほど。じゃあ、それは編集を頑張って(笑)。」
ーー頑張ります…
三田:
「2月の『クロカン』そして6月の『インベスターZ』。
これらの2つのセリフはまさに、僕が『クロカン』でアンケートで一位を取るまでの道のりにマッチしていて、非常に感慨深いものがある。」
ーー『クロカン』は三田先生の初期の代表作品ですね
三田:
「『クロカン』はぼくにとって初めての長期連載作品。『高校野球の監督を主人公とした物語が描きたい』という僕の希望が実現できた作品だった。」
三田:
「しかも当初月刊連載だったものが週刊連載に変わるという幸運にも恵まれて、当時はかなり満足していたんだよね。」
ーーはい。『漫画ゴラク』で連載が始まったんですよね。
三田:
「でも、週刊連載に変わるタイミングで編集者が変わった。その編集者が『クロカンはとてもおもしろいので、漫画ゴラクで一番を目指しましょう』と言ってきたわけ。」
ーーなるほど。それで三田先生はどうしたんですか?
三田:
「いや、無理に決まってるじゃないって思った(笑)。その当時『ミナミの帝王』が『漫画ゴラク』で不動の1位だったからね。」
ーー弱気の三田先生、珍しいですね。
三田:「それほど『ミナミの帝王』は圧倒的だった。でも、その編集者は『三田さんならできます。やりましょう』と一点張り。そう言われ続けたら『この意気に答えるしかない』と思い始めて共に1位を目指しはじめた。」
ーー編集者の熱意に押されたんですね。それで1位になるために何をされたんですか?
三田:
「さっきも言ったとおり『ミナミの帝王』が圧倒的に1位だった。だから『ミナミの帝王』がヒットしている要因を『クロカン』に取り込めば順位が上がると思って、『ミナミの帝王』を読み込んで研究したんだよね。」
三田:
「『ミナミの帝王』から学んだことは3つあって、
一つは登場人物の顔を紙面上にデカく描くこと。
2つ目は、大きく顔が描かれているコマで決めゼリフを入れること。
3つ目がベタな「絵」を使った比喩を描くことだね。」
ーーなるほど!おもしろいです。それで、結果はどうだったんですか?
三田:「さっき話した『ミナミの帝王』のヒット要因を取り入れてみたら、無事に『クロカン』は読者アンケートで1位を獲得することが出来た。『クロカン』以降の作品を読めばきっと分かるけど、今でも『ミナミの帝王』で学んだことを意識して描いてるよ。」
ーー『ドラゴン桜2』『インベスターZ』まで繋がる三田作品の個性は『ミナミの帝王』から生まれたんですね。
三田:
「そう。でも、同じようなものをずっと出しても埋没してどんどん人気は落ちていくわけだから、試行錯誤をして今のスタイルになった。それでも、3つのヒットの法則は忠実に守り続けてる。」
三田:
「基礎や法則を中途半端に取り入れただけのマンガは、“弱くて”読者から覚えてもらえない。3つの型は徹底的に守りながら試行錯誤をする。チャレンジする一方で、基本的な型を守り続けることはぶらさない。この心がけのおかげで、その後もヒット作を生み出すことができたとぼくは思ってる。」
ーーなるほど。まさに「必要なことは型にはまること! 成功はすべて方によってもたらされる」ですね。
「うん、そして『クロカン』の黒木が言っている、『勝つとはてめえの手でつかみとるもんだ』というセリフ。編集者のサポートはもちろんあったけれど、最後は作者である自分の手で1位になる要因を掴んだってことで。」
ーーなるほど…この2つのセリフは『クロカン』を1位にするまでのエピソードに基づいているのですね…
三田:
「まあ、セリフ2つになっちゃったけど、うまい具合に編集してください(笑)」
ーー頑張ります。
必要なのは型。まずは真似ることから!
「幸せとは…金と健康だよ」
お金の心配が減っても、苦しかったのはなぜか
ーーぼくが最も衝撃を受けたのは9月のカレンダーに載っている『ドラゴン桜2』の「幸せとは…金と健康だよ」というセリフです。
ーー三田先生、本当に幸せは金と健康なんでしょうか?
本当に幸せは、"金と健康"なの?
三田:
「そうだと思ってる。もちろん幸せは主観的なものだから、『お金と健康が満たされていても私は幸せだとは思わない』という人がいても間違いじゃない。」
三田:
「けれど、お金と健康が揃っていれば、ご飯に困ったり病気で苦しむというような辛い思いをすることがグッと減るじゃない。沢山ある辛いことから自由になれて、幸せを追い求めることに集中できる。そんな風になれたら、それこそが幸せだと思わない?」
ーーなるほど…とても納得しました。ちなみに三田先生が「お金と健康が揃っていれば幸せになれる」と気付いたのはいつごろですか?
三田:
「それは、徹夜をせずにマンガを描けるようになってからかな…。ぼくがデビューした当時は『マンガ家は徹夜が当たり前』という考えが常識で、極端な表現をすれば『苦しむほど良いマンガになる』という思い込みがあった。だから皆ギリギリまで時間をかけてマンガを描いてた。」
ーー今でもそういうイメージがあります。「週刊連載中のある人気マンガ家は平均睡眠時間が1日3時間」だったり、「休日もネーム作りに費やすので結局休めない」といった、マンガ家さんの忙しいエピソードはよく耳にします。
三田:
「それは同時にアシスタントも忙しいということで、彼らも疲労困憊で大変な生活を送っていたの。人って疲れてると気が立って衝突してしまうでしょ? マンガ家になりたてのとき、どんな風にアシスタントと付き合っていけばいいか、先輩マンガ家からアドバイスをもらったことがあるんだよね」
ーーどんなアドバイスだったんですか?
三田:
「『作業机には山盛りのお菓子を置け』って。『みんな常に疲れているから作業机のお菓子がなくなったらイライラしだすぞ』ってね(笑)」
ーー山盛りのお菓子でアシスタントさんたちは満足していたんですか?
三田:
「全然。結局、徹夜ばかりで大変な職場だから離職率は高かった。それに、常にお菓子が置かれていたから残ってくれているアシスタントの子たちはドンドン太っていって。健康状態は最悪だった。」
ーーそんな環境で三田先生はどんな状態だったんですか?
三田:
「ぼくも非常に苦しかった。家業の整理がついて無事マンガ家になれて、やっとお金の心配がだいぶ無くなってきた。それでも、苦しかったね。お金に困っていたときも苦しかったけど、健康的な生活が送れないことは、借金があることと同じくらい苦しかった。」
ーーでも、今では三田先生の仕事場はアシスタントさんが働きやすいということで有名ですよね
三田:
「それは、デビューして14年ほど経ってから、作業場の仕組みを変えたことがきっかけ。ある日、マンガ家もサラリーマンのように9時〜5時で働けるんじゃないかと思って、その日にアシスタントの子たちに提案したの。早速定時制を始めてみると、夜中に仕事していたときより、効率的に作業が進んで定時までに制作が終わるようになった。」
三田:
「そしたらそれ以降徹夜もしなくなって、ぼくもアシスタントも健康的になっていった。結果的に、アシスタントの離職率もグッと減った。」
ーー徹夜を絶対しないという、根本的な問題解決によって働きやすい職場を実現したのですね。
三田:
「うん。今は作業場にお菓子は置いてなくて、食べたい人が自由に買いに行ってる(笑)」
ーーそうなんですね(笑)。
三田:
「お金と、健康。この2つが揃って初めて、気楽に生活ができるようになった。お金と健康が揃えば、幸せの基盤ができあがるってその時気付いたね。それ以外の問題は実はいくらでも立て直せるから。」
ーーなるほど。「幸せとは…金と健康だよ」…このセリフにはそんなエピソードが隠されていたんですね。
三田:
「どのセリフも取材や色んな経験や知識から紡ぎ出されているから、一概には一つのセリフと一つの経験が対応しているとは言えないけどね。まあ、井上くんもこれからドンドンお金稼ぐと思うけど、身体には気をつけて(笑)」
ーー大稼ぎできるかは分かりませんが、健康な体で稼げるように努力します!
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ーー最後に「時かねカレンダー」の発売に際して、読者のみなさんにコメントお願いします。
三田:
「「時は金なり」です。時間をうまく使ったものが多くの利益を得る。それは幸せになる方程式です。その日一日一日をなるべく多く稼げるように使いましょう。みんなでめくって稼ぎましょう。」
ーー三田先生、ありがとうございました!
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この記事で取り上げられたセリフが含まれた
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