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語学習得に万人に有効で即効性のある特効薬なんてない。【東京大学文学部教授/阿部公彦】

☆様々な分野の「学びのプロ」に桜木建二が話を聞く!

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「4技能」という言葉に振り回されることなく、英語の総合力アップを目指せ!

独り歩きする「4技能」看板と業者の影

コロナ禍にのみ込まれて話題になることが減ったものの、大学受験改革に関する動きが先行き不透明になりつつあるな。

子どもたちや子を持つ親なら気を揉んでいることだろう。不安な気持ちは察するに余りある。

とりわけ英語試験の混迷の度は深い。

英語の力を「よむ・きく・かく・はなす」の4技能に分け、それぞれの習熟度をみる試験内容を取り入れようという動きが、昨年まであったのだ。
 
しかしこれは理念的にも運用上も無理筋だとして、いったん流れが止まることとなる。その後の方向性はまだ判然としない。

4技能という言葉を掲げて推進された国の英語政策に対して、論理立てて問題を指摘し続けてきたのが、東京大学文学部教授の阿部公彦さんだ。

これからの英語学習はどうあるべきか、阿部さんの言葉を聞こう。

阿部さん顔写真_クレジット不要

阿部公彦
1966年、神奈川県生まれ。英文学者。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了後、ケンブリッジ大学大学院博士号取得(PhD)。東京大学文学部英語英米文学科助手、帝京大学文学部助手、同専任講師を経て、2001年より東京大学大学院人文社会系研究科助教授、07年に同准教授、18年より同教授。おもな著書に、『文学を〈凝視する〉』(岩波書店)、『史上最悪の英語政策』(ひつじ書房)、『100分de名著 夏目漱石スペシャル』(NHK出版)などがある。

「4技能という言葉は昔からあったただの区分けなのに、ある時期から急に「すばらしいもの」として唱えられるようになりました。

 これは、試験を4つに分けてやる4技能型試験を導入し、入試改革の『売り』にしたかったから。

 英語教育の現場にいて現実を知っている人なら、「4技能」という言葉だけ連呼しても有効な改善策にはつながらないし、それで生徒の英語力が急に伸びるわけがないことはわかっているでしょう。

 結局は「4技能導入」を看板にして、4技能型テストをやっている民間業者に入試を委託することが目指されていただけと言わざるを得ません。

 そもそも4技能型と言っても、目新しいのはスピーキングのテストが入ることくらい。しかもこの肝心のスピーキングテストが問題だらけなのだから困ったものです」

 ーーなるほど、一般にはなんとなく新しく響く「4技能」という言葉を、外部試験導入の大義名分に使っていた面が強いわけだ。

 お金が絡んだことが優先されていると見えるようでは、混乱するのも無理はない。

単語力や基礎文法は4技能すべてに関わってくる

「もちろん日本の英語教育には改善の余地がたっぷりとあって、政策のいちばん根っこにある『英語の総合力を高めていきましょう』という目標はうなずけるものです。

 その際に、4技能という考えにこだわり過ぎると弊害が生じてしまうということ。

 たとえば英語の力を上げるにあたっては、まずは単語力や基本的な文法の知識がないと話になりません。

 それを知らなければ、英語の理解も運用も始まりませんから。

 じゃあ単語力や基本的な文法は、4技能のうちのどこに入るのか? すべてに関わってくるに決まっています。

 英語を4つの技能に分けて考えるのはあくまで便宜的なこと。実際の英語の運用ではさまざまな技能が連携しています。

 それなのに、まるで4つ別々の技能があるかのように杓子定規に4分割していたら、学習は停滞するでしょう。

 4技能という言葉が暴走してしまったのが、今回の混乱の要因です。いったん忘れ去って差し支えないと、私は考えます。

 そのうえで、英語の習得のためのもっと有効な方法を編み出していかなければいけないでしょう」

ーーならば、英語学習の具体的なポイントはどんなところにあるか、次章から阿部さんに教えてもらうぞ!

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英語に触れる環境を、毎日なんとかひねり出すんだ!

語学習得に焦りは禁物、特効薬はない

ーー結局は立ち消えとなりそうな「4技能」だが、これだけ大きな話題となった根本には、日本人の根強い英語コンプレックスがありそうだ。

「そうですね、以前から変わらず続く大きな流れとして日本には、『日本人は英語が苦手でしゃべれない』という神話がつねに存在してきましたからね。

 英語ができない……と悩む人は時代を問わずたくさんいて、いまも状況は変わらない。

 それで『この方法がいい』『あれが効果的』と、さまざまな方法が唱えられてきたわけです。

 でも、すこし考えてみればわかるはずです。

 語学習得(にかぎらずすべての学びは同じですが)に、万人に有効ですぐ効き目が表れる特効薬なんてあるはずありません。

 総じて焦りすぎ、ということが言えると思います」

ーーたしかに言われてみればその通り。では、「日本人は英語が苦手」という言説はどうか?
  これも思い込みだろうか、もしくは一端の事実が含まれる? 

「英語学習がなかなか進まない条件、それがいくつかあるのは事実だと思いますよ。

 語学というのは、それができないと何も進まないといった環境に追い込まれないかぎり、なかなか一生懸命習得しようとはならないもの。これは万人に共通の習性でしょう。

 ということは、です。英語を必要とする状態をつくり出せないことが、英語学習の進まない最大の要因となってしまう。

 日本で生活していると、日本語だけでこと足りる状況のほうが多いのはたしかですよね。

 英語を身につけようと思うなら、自分で英語を使わざるを得ない環境に意図的に身を置かないといけないわけです。

 英語話者ばかりに囲まれるだとか、自分が移動して英語圏へ行ってしばらく滞在するだとか。」

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ネット上の英語コンテンツをフル活用しよう

「ただし人はそれぞれ、語学の習得以外にもするべきことがいろいろあるので、なかなかそこまでできませんね。

 そこで次善の策としては、毎日時間を決めて英語に接する環境をつくり出すことが考えられます。

 インターネットを介すれば英語を聴けるコンテンツはいくらでも見つかりますよね。それらを有効に活用すればいい。

『ドラゴン桜2』の中では、生徒たちがツイッターで英語投稿していたり、ユーチューバーになって英語を話したりしているのですよね? 

 続けられるのであれば、それもいい方法だと思いますよ。

 それでも実際のところ、毎日英語を聴くというだけでも、続けられる人はなかなかいないですよね。

 結局のところ、必要性をあまり感じていないということになるでしょうね。

 必要ないことをむりやり勉強させるのはかなり難しいですから。

 たとえ将来、英語なんてまるで使わないのだとしても、外国語と出合うということ自体が有意義な体験ではあるので、ぜひやるべきだとは思います。

 ですから、なんとか根本の動機だけは、自分自身で見つけ出してもらえるといいですよね」

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英語と日本語では音のつくり方がまったく異なると心してかかれ!

英語は音の強弱のコンビネーションで表現する言葉

ーー英語と接する環境が足りていないということのほかに、もうひとつ困難がある。
  日本語を第一言語とする人にとって英語はなかなかすんなり頭に入ってこないもの、というのもまた事実のようなのだ。

「英語と日本語では、言語としての構造がいろいろと異なりますから、馴染むのに時間がかかるのはたしかです。とくに音声面での違いは大きい。

 まあそれは違う言葉なのですからあたりまえですし、『こんなに違うのか、おもしろい!』という観点から英語と付き合おうとするしかないでしょう」

ーー日本語が母語の私たちに英語を習得しろだなんて……、その時点ですでに不利に決まっているじゃないか!と憤っていてもしかたがない。

 違いをおもしろがる度量を持つべきなのだな。

 日本語の話者が英語を習得しようとするときには、音声の違いが大きな壁になってしまうと、阿部さんは教えてくれたぞ。

「英語は音声のつくり方が、日本語と根本的に異なるんですよ。

 英語は音の強弱を使ったストレスアクセントによって言葉を表現しています。

 強い音がくるところと、こないところのコンビネーションを使って流れを生み出していき、音の違いを弁別します。

 対して日本語は、音の高さと低さを組み合わせることで表現をしている。
 
 それで同じ響きなのに『橋』と『箸』を区別できるのです。」

毎日聴いて、英語特有の音声リズムを叩き込もう

「また英語は、音の強弱で言葉にリズムをつけています。

 これは音楽で考えるとわかりやすいですよね。

 ビートの利いたロックやポップス、ダンスミュージックが英語の歌詞と相性がいいのは、言葉の特性から考えてもよく理解できます。連続感が大事なのです。

 では日本語にはリズムはないのか。そんなことはありません。

 俳句や短歌、ことわざなんかもそうですが七五調とか八六調に整えるとたいへん聴きやすかったりするように、音節の数の調整でリズムを刻みます。

 文章を読んでいても、文の長短で効果が生み出されることが多いです。

 日本語にも、なんとなくリズムがいいと思える言い回しは確実にありますね。

 この感覚、日本語話者じゃないとなかなかピンとこないもののようです。

 日本語を勉強する人は、そうしたリズム感も含めて学ぶわけです。音節の数のバランスに脳が自然に反応できるようにと。

 英語を学ぶ人も、同じことをしなければならない。

 英語特有の音声の刻み方を理解して、独特のリズムに慣れようとする練習が必要になるのです」

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英語のリズムを身体に刻んで馴染ませてしまえ!

英語のことわざや詩、演説に触れてリズムを体得する

ーー日本語と英語では音声の出し方、聞き取り方に違いがある。そこを理解し、慣れていく必要がある。
  それが英語習得のひとつのポイントだと阿部さんは教えてくれた。

「強い音と弱い音をどう組み合わせてリズムをつくるかによって、聞こえやすい英語・聞きづらい英語は分かれます。

 英語話者の人は身体的にそれがわかるわけですね。これはノレる話し方だとか、どうも間が悪いな、と。

 たとえば英語ではしゃべっていると、強勢と強勢の間がだいたい一定のペースになる。それが英語の呼吸なのです。

 だから、話を展開するときにも、いろんな例を並列させて、タンタンタンとならべるといったしゃべり方になったりする。

 そうした微妙な感覚は小さいころからの体験で身体に染み付いていくもの。

 そういう体験を経ていない英語学習者は、意図的にリズムがいい英語に触れたり口ずさんだりするのがいいでしょう。

 たとえば英語の決め台詞やことわざ、名句などに多く触れておけば、どんなふうに言葉をならべると耳に響き、心に残る言い方になるかが体感でわかるでしょう。

 古典ももちろんいいけど、人気ドラマやアニメだって、よく練られたセリフが出てくるはずです。

 かつては受験勉強の中に英語のことわざや名文句を覚えるということもあったと思いますが、「そんなもの実用性がない」と言われて最近はあまり流行らないようです。

 たしかに、ことわざを丸暗記することで人生の選択の役に立つとか、会話で使えるといったことはあまりないでしょう。そういう意味での「実用性」は低い。

 しかし、英語のリズム感や語りの作法を身につければ、英語的な感覚が身につく。より深い部分、芯の部分を鍛えることができます。

 これは英語圏の子供たちが教養として身につけているものでもある。

 目先の「実用」にとらわれることのない、芯の部分を意識した語学教育が必要です。

 英語の童謡や簡単な詩を読むだけでも、リズムを実感するには効果的です。子守歌でもいい。

 もし韻文がハードルが高いなら、簡単な英語の演説や、ドラマの名場面に触れてみるというのもいいでしょう。

 しばらく耳を傾けていると、リズムの心地よさにきっと気づくと思いますよ。

 いい演説は必ずいいリズムを刻んでいて、それによって高揚感が醸成されているものです。」


SNSで「バズっている」投稿も一見の価値あり

「英語で投稿されたSNSの文章を探してみるのだっていい。

 波及効果のある、いわゆる『バズっている』投稿というのは、きっとリズム感のいい言葉が使われています。

 言葉の響きの効果の絶大さと重要性に気づくきっかけになるのでは」

 なるほどどうやら生きた英語をたくさん摂取して、言葉としての躍動感に触れるのが、学習としては効果的ということのよう。

「そうですね、どんな言語も実際に使われているときは、ひとつの『運動』としてあるのだと思います。

 言葉はつねに動いているものとして人に体験される。

 ですから英語を習得するということは、すなわち英語特有の時間の流れ方を学ぶのだということを、意識しておくといいでしょうね」

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英語を学び始めるならまずは「聴く」を徹底することだ!

興味を持って聴くことでインプット効率が上がる

ーー言語は「運動」である。英語の持っている「時間の流れ方」を知り身につけるのが英語習得への道だと阿部さんは教えてくれた。
  では小・中学生が英語を学び始めるときには、どんな方法が最適だろうか。気をつけるべき点はあるかどうか。

「まずはとにかく英語にたくさん触れることでしょうね。

 意識的につくらないかぎり、なかなか英語に触れる機会はやってきませんから。

 英語に『触れる』というのは、英語をインプットすること。

 つまり、読んだり聴いたりをたくさんすることです。このふたつだと『読む』のほうが高度な技術。

 低学年のうちはなかなか取り組めないかもしれないので、まずはとくに『聴く』のほう、音声で英語に触れる工夫をしたいところです。

 ポイントは、聴く量をきちんと確保することです。1日何分と決めて、毎日聴く習慣をつけます」

ーー聴く内容についてはどうだろうか、英語であれば何でもいい?

「いろんな種類の英語に触れるのが望ましいですが、大事なのは興味を持って聴くこと。

 人間の耳はよくできていて、興味のない音はシャットアウトしてしまいますから。

 そういう意味では、英語の子ども番組やアニメなんかが入口になりやすいでしょうか。もしくは実際に英語を使いながら、作業をするとか体を使うといったことも考えられます。」

続けるコツは家族みんなで取り組むこと

「内容のバリエーションも欲しいところで、その点で有効なのはニュースです。

 報じられる事柄は多岐にわたるし、内容が映像で追えるので頭に残りやすいですよね。

 ただ、ニュースの原稿を読む音声は、それなりにかしこまっているところがあるし、一方的な伝達ですね。

 人と話すときの呼吸とか、やりとりのモードというものもあるので、そのあたりを知るにはドラマや映画がいい。ニュースの中でも、インタビューなどはいいかもしれません。

 いまは英語圏のドラマがインターネットでいくらでも観られますから、興味や難易度に見合ったものを探してみましょう。

 高校生以上くらいなら、各界の人が演説するプログラム『TED』も興味深く聴けるんじゃないでしょうか。」

漫画コマ_7月10日配信で使用DRZ2_33_17

「パフォーマンスは洗練されているし、英語ではこうして人前で話すスタイルがあるんだなと知ることもできます。

 子どもは親の生活やカルチャーに否応無く影響を受けるものですから、日常的に英語に触れるという習慣は、親も含めた家族ぐるみのものとしていくと、長く続けられるかもしれませんね」

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阿部公彦さんの著書が10月12日に発売!


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ライター・山内宏泰 
主な著書に、『親が知っておきたい 学びの本質の教科書 教科別編』(朝日学生新聞社)、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。

☆この連載はLINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)でも配信されています。LINEアプリ(news.line.me/about)をインストールして「朝日こども新聞」を検索!

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