長編脚本「ウルトラマン群」

ウルトラマン群

登場人物

磐梯 芝流(ばんだい しばる・29)…量産型ウルトラマンマルイチ変身者、防衛隊「みんなの地球を守り隊」副隊長、ウルトラマン養成所(NUC)特別講師

九条 泰旺(くじょう たいおう・23)…量産型ウルトラマンマルハチ変身者、「みんなの地球を守り隊」隊員
當 澤莉(あたり さわり・24)…量産型ウルトラマンマルジュウサン変身者、「みんなの地球を守り隊」隊員
齢 洲国(よわい すごく・21)…量産型ウルトラマンマルヒャクサンジュウ変身者、「みんなの地球を守り隊」隊員
二区牧 真希(32)…「みんなの地球を守り隊」隊長
萱間 悠(27)…「みんなの地球を守り隊」隊員
運河 類(うんがわ るい・35)…NUC新入生
運河 亜樹那(36)…運河の妻
運河 美羅湖(うんがわ みらこ・5)…運河の息子
牟田(むだ)…NUC学長
教官A…NUC教官
教官B  〃
教官C  〃
教官D  〃
教官E  〃
教官F  〃
生徒A
生徒B
怪獣災害被災者の会の方
カメラマン
施設内放送(声)
運転手
市民A
市民B
避難民A
避難民B
看護師
TVアナウンサー(声)
量産型ウルトラマンマルイチ
量産型ウルトラマンマルハチ
量産型ウルトラマンマルジュウサン
量産型ウルトラマンマルヒャクサンジュウ
ウルトラマンセイドウ…宇宙からの使者
怪獣JPN-160
怪獣JPN-165
怪獣JPN-1
怪獣JPN-9
作業用ウルトラマンA
作業用ウルトラマンB
作業用ウルトラマンC

〇市街地・大通り

空に二つの太陽。
空き地にビルを建設する作業用ウルトラマンA、B。
休日。運河類、亜樹那、美羅湖の家族連れ、アベック、お一人様など、それぞれ行き交う緩みきった表情の人々。
賑わう町。
突然、彼ら通行人のポッケやバッグの中から一斉に警報が鳴りだす。人々、一転して緊張感のある面持ちになり、各々、ポッケやバッグからスマホを取り出す。画面に表示された怪獣警報の文面と怪獣JPN-160の位置情報が示された地図。すぐに運河が怪獣と逆方向を指差し、周囲に聞こえる大声で叫ぶ。

運河「皆、あっち逃げろ!」

亜樹那、美羅湖を含む人々、一斉に同じ方向に、ぶつかること無くスムーズに逃げていく。作業用ウルトラマンらも人間に戻り逃げていく。
運河、怪獣がいる方向を見上げる。

亜樹那「(振り返って)パパ!」

運河、ハッとして亜樹那、美羅湖と一緒になって逃げていく。

〇森林地帯上空・輸送機内

コクピットに座って輸送機を操縦する二区牧。助手席でパソコンを操作する萱間。後部座席で二人ずつ向かい合って座る磐梯、九条、當、齢。
二区牧、萱間、磐梯は隊員服。九条、當、齢は人間ドックみたいな服。

萱間「渋谷区一帯の民間人、避難完了を確認しました」

磐梯「さすが都会の人は慣れてらっしゃるね」

當「あ、やっぱ地方とかはもっと慣れてない感じなんですか?」

磐梯「そうね。まあでも最近はそんなに、差は無くなってきてるかな」

九条「はぁーやっぱ磐梯さん経験が! 凄いですね! 経験が!」

齢、黙って俯いている。

二区牧「(操縦しながら)あんまり気ぃ抜けるとアレだよ、良くないですよ」

九条・當「すいませーん隊長」

磐梯、齢の様子に気付く。
二区牧、後部座席に目をやる。

〇市街地

JPN-160、地中から出現、人が全くいない町で暴れる。

〇避難所A

ファミレスのような内装。観葉植物、自販機、テレビなどが設置してある。運河一家を含む先ほどの避難民たちがテーブルに座り、テレビの中のJPN-160の中継映像を見ている。

美羅湖「最近多いね」

亜樹那「ね、困っちゃうね」

運河「……」

美羅湖「(テレビを見て)あ、ねえ、来たよ」

〇テレビ画面内・市街地

暴れるJPN-160の上空に輸送機が来る。

〇市街地上空・輸送機内

後部座席の磐梯、九条、當、齢、(念のため)パラシュートを背負っている。
齢はまだ俯いている。

磐梯「どした、緊張する?」

齢「え、いや、そんな、まあ、はい」

磐梯「俺自身最初そうだったからさ、まあ大丈夫だよ、慣れるよ洲国君も」

輸送機静止、後部座席奥のハッチが開く。

齢「……ハイ!」

二区牧「じゃあ、今日もよろしくお願いします」

磐梯・九条・當・齢「はい! 喜んで!」

〇市街地

上空で静止した、ハッチの開いた輸送機から磐梯、九条、當、齢が降下、次第に光り輝き、それぞれ量産型ウルトラマンマルイチ、マルハチ、マルジュウサン、マルヒャクサンジュウになって静かに地上に降り立つ。
輸送機、戦闘エリアから離脱。
JPN-160、ウルトラマンに気付いて振り向きかける。その顔面に二筋の光線が直撃。光線を打ち終わったマルハチ(十字)、マルヒャクサンジュウ(L字)の腕から煙が上がっている。間を置かずにマルイチは拳を発光させながら、マルジュウサンは光弾を連射しながらJPN-160に詰め寄る。JPN-160、次々と光弾が命中して怯む。マルイチ、そこにグーパンを打ち込む。JPN-160爆散。

〇避難所A

荷物をまとめてテレビの戦闘を見ていた避難民たち、画面の中の怪獣が爆散し、倒されたのを確認するや否や立ち上がってさっさと帰っていく。運河だけ、まだテレビを見つめている。

亜樹那「(ボソッと)せっかく三人で遊びに来れる最後の日だったのに」

運河「(テレビ見ながら)これからは俺がこういう事が起こらないようにしなきゃいけない」

亜樹那「やっぱりやめてもいいんだよ……?」

運河「(亜樹那を見て)今更何言ってんの(笑)」

〇市街地

量産型ウルトラマン四体、薄くなって消える。四体が立っていた所に磐梯、九条、當、齢が立っている。磐梯、ポッケからスマホを取り出す。

磐梯「お疲れ様でーす」

二区牧(声)「お疲れ様でした、回収向かいます」

磐梯「はいお願いしまーす失礼しまーす」

磐梯、通話切る。

當「いやーお疲れ様でした。流石でした」

磐梯「いやでもこんなもんでしょ。ていうか、これを『普通』にしないといけないよねやっぱ。プロとしては」

九条「いやじゃあやっぱその意識がやっぱすごいですよ」

磐梯「いやいや(笑)……あ、(齢に)お疲れ、良かったよ」

齢「あっありがとうございます(笑)」

磐梯「我々は隊長の作戦通り行動する事に集中すればいいからさ」

談笑し、弛緩した笑顔を見せるなどしてヘラヘラする四人。磐梯、一瞬真顔になって空を見上げる。磐梯が見上げた空、視界の端に輸送機が戻ってくる。
磐梯の顔。虚無感。

〇タイトル

〇ウルトラマン養成所・第九次入学式会場

会場入り口のドアが開いている。会場に並べられた四十個のパイプ椅子(真ん中に通路)とそれに座るスーツ姿の老若男女、養成所新入生ら。その中に運河もいる。皆神妙な面持ち。会場の左右に三人ずつ、新入生を監視するように立つ教官A~F。壇上にパソコンとNUC学長の牟田。背後のスクリーンに「NUC東京 九期生入学式」の文字。

牟田「えーそれではですね、これからの地球の未来を担っていく、九期生のみなさんのためにですね、今日は我がNUC特別講師の方に来ていただいてます。(会場外に)じゃあ、お願いします」

牟田、舞台端に移動。
磐梯、開いた扉の奥から入室。新入生ら、中央の通路を向いて盛大な拍手。磐梯、通路を通って壇上に立つ。

磐梯「えー皆さんこんにちは、ただいまご紹介に預かりました、特別講師の磐梯です」

〇みんなの地球を守り隊・司令室

デスクワークをする二区牧、萱間、齢、デスクワークをしている風を装う九条、當。

九条「あれ、今日磐梯さんて何か講演入ってましたっけ」

二区牧「ウルトラマン養成所」

萱間「スケジュール表に書いてありましたよ」

當「そうでしたっけ?……あー今年もそんな時期ですかー早いですねー……いやー、懐かしいなー」

九条「あもう? もう懐かしがっちゃう? 懐かしがっちゃう年になっちゃう?」

當「いやだってそれはそうですよだってあの、齢君? 今年でしょ養成所出たの?」

齢「ハイ、あの、先月に卒業、はい、しました」

當「ほらもうこんな若い子が入ってくるぐらいですよ」

九条「カァーッそっかぁー」

〇ウルトラマン養成所・第九次入学式会場

磐梯「えー皆さんにはですね、ウルトラマンに変身するという能力があるということで、これから怪獣駆除の貴重な戦力として、えー今学長が仰ったように地球の未来を担う存在になっていってもらう訳なんですが、今日はですね、世界で初めてウルトラマンになったこの僕からね、皆さんにこう、ウルトラマンであることに対する心構えっていうんですかね、そういったものを教えていきたいと思います。えー……」

磐梯、半端に片手を前に出してキョロキョロする。脇からスタッフが駆け足で小さなリモコンを持ってきて磐梯に渡す。

磐梯「あ、ありがとうございます」

スタッフ駆け足で引っ込む。

磐梯「えーまず事の発端ですね。皆さんご存知だと思いますが……」

磐梯、リモコンを操作。プロジェクターに「メディアを再生できません」の文字。

磐梯「あれ?」

スタッフ、駆け足で出てきて壇上のパソコンを操作。会場がしばし沈黙し、気まずい空気に包まれる。

磐梯「……毎年ここで喋るとパソコンの調子おかしくなるんですよね」

会場、弱い笑い。

磐梯「多分ここのパソコンに嫌われてるんですよね」

会場、普通の笑い。

〇みんなの地球を守り隊・司令室

九条「え、やっぱり齢君の時も入学式に磐梯さん来たんでしょ?」

齢「ハイ、来てました、講演」

九条「そっかそれでまだやってるんだもんなぁすげぇよなぁ」

當「私達の時ってどんな事喋ってましたっけ」

九条「……何だっけ」

〇ウルトラマン養成所・第九次入学式会場

スクリーンに映像が映る。

磐梯「あっ大丈夫そうですかね。(スタッフに)ありがとうございます」

スタッフ駆け足で引っ込む。

〇同・スクリーン内・山岳地帯

暴れる地底怪獣、JPN-1。

磐梯(声)「えーと何でしたっけ。あそうだ事の発端ですね、皆さんご存知だと思いますが今から、えっもうそんな前になるんだ、十二年前に世界各地に出現するようになった巨大生物、いわゆる怪獣、これですね」

〇同・スクリーン内・港

水面から半分顔を出しながら泳ぐ魚怪獣、JPN-9。

磐梯(声)「十二年前っていうと? 皆さんの中には……小学校低学年とか幼稚園ぐらいの人もいたかも知れない? あそっかぁ。へぇー……あ、で、怪獣が出るようになって、前々からのエネルギー問題とかも深刻なものになってきて……あいつら電気とか石油とかも食うからね」

〇同

磐梯「それでしばらく我々人類は逃げたり怯えたりっていう事しかできなかったんだけど、それから少しして、まず、ある革新的なエネルギーシステムが導入されたんですね。はいそれがこちら」

磐梯、リモコン操作。

〇同・スクリーン内・市街地→上空

空に二つの太陽。

磐梯(声)「えー人工太陽プラズマスパーク、これですね。えーまぁ簡単に言うと人工の太陽、というか我々人類にとって太陽光と同じ働きをする十万ルクスの光を発するエネルギーコアを地上百六十メートル、世界の三十か所に打ち上げて、我々が消費する電力における太陽光発電の割合を増やそうっていう、まあそういうものです。だからそう、今皆からしたら太陽って二つあるのが当たり前なんだろうけど私が子供の頃とかは一個だったんですね」

上空。プラズマスパークのアップ。

磐梯(声)「ね、地上から見ると同じようなものが二つあるように見えますけど実際には両者は地球からの距離も全く違ってるんですねー、はい。で、そのプラズマスパークなんですが、えー皆さんも当時連日のように報道されてたの覚えてるかも知れませんが、運用が始まってから、ある事実が明らかになったんですね」

〇同・スクリーン内

新聞記事の画像。見出し『PSに有害性か』

磐梯(声)「プラズマスパークの光にはですね、浴びると手からビームが出たり、皮膚が銀や赤に変色したり、身体が肥大化する症状が出るディファレーター光線というものが含まれていた事が発覚しました。いや、普通開発段階で気づけよって話なんですけど(笑)、何で気付かなかったかって言うと、最初は発症率が非常に低くて開発者た、開発者の方々は誰も発症しなかったんですね。で、実用化されて、たくさんの人が光を浴びるようになって初めて発覚したと」

〇同

磐梯「そして、その最初の被害者が私です。でも最終的には大した問題にはなりませんでした。私を含む被害者の全員がその、手からビームとか皮膚の変色とか身体の肥大化といった症状を自身の気力で抑え込んだり、またその逆に大幅に進行・促進させたりできるって事が分かったんです。で、そうなるとやっぱり人間って不思議なもんで、我々は誰に言われるでもなく怪獣と戦う道を選びました。自分に力があって、その力が何か人の役に立つってなったらやっぱりその力を役立てたいって思うようになるんだなって。思いましたね。皆さんもそうでしょ?」

新入生ら頷く。運河だけは動かず磐梯を見続ける。

〇みんなの地球を守り隊・司令室

九条「いやあ、でもあれだな、久しぶりにここに来てくれる子がいて嬉しいよでも」

當「まず半分くらいの子は養成所の段階で辞めちゃいますからね」

九条「ねー。でそういう子は免許が取れないから結局変身もできない。残った半分のさらに半分は卒業はできても入隊試験に中々受からなくて辞めちゃうからね。せっかく才能があって授業料も払ったのに。それで結局ウルトラマンの力を土木工事とか、そんなんに使ってたら意味ないもんな」

當「でもウルトラマンの力を持ってる人のうち、そういう、力仕事みたいな事やってる人の割合が年々増えてってるんですよね。でこういう、怪獣退治の仕事やってる人は減ってってるっていう」

九条「どうやったら皆この仕事やってくれんのかな、給料も結構良い方だと思うんだけどなー何でだろうなー」

當「皆死ぬのが怖いんですよ」

〇ウルトラマン養成所・第九次入学式会場

磐梯「でそうやって、私たち第一世代が怪獣と戦うようになって。いつの間にかウルトラマンって呼ばれるようになって。そしたらその、超能力を発症……発症って言い方もおかしいけどね。まあ発症する人の数も凄いペースで年々増えていって。で、皆さん、九期生がその一番新しい世代っていう事になる訳ですね。私が何でこんな話してるかって言うと、私も、皆さんと同じように初めは困惑もしましたし、混乱もしました。しかしこの力が自分に制御できるものだと気付いた時に、自分が役割を与えられた、選ばれた人間なんだって思う事が出来たんです。まあだからつまり、私たちか最初の世代から皆さんに至るまで、我々ウルトラマンにはこう、同じ魂が受け継がれていってるって言ったら良いのかな、だからこう、皆さんには、今、地球を守れるのは自分たちなんだっていう、自覚を持ってやってもらいたい。……(何回か小さく頷く)使命感を持ってやってもらいたい。そういう風に思います」

磐梯、牟田の方を見る。

牟田「えーありがとうございました、特別講師の磐梯芝流さんでした」

新入生ら、思い出したように盛大な拍手。運河も少し間を空けて拍手。

〇みんなの地球を守り隊・司令室

九条「磐梯さんはアレだよね、そういう、この仕事に対する恐怖心みたいなの全然感じてない感じだよね。やっぱ自信あんのかな」

當「あるでしょう自信」

九条「やっぱ凄いな。スゲーな。あんぐらいになんないとやっぱダメだよな我々も」

當「齢君はダメだよ死んじゃ。これ以上人減ったら困るわ流石に」

齢「えっ、あっ……」

二区牧「(宥めるように)ほら若者にプレッシャーを与えるんじゃないよ(笑)」

當「あっごめんなさい(笑)」

九条「いやでも大事ですよやっぱり死なないっていうのは、大事ですから命は(笑)」

萱間「(自然に)九条さんレポートあとどれぐらいかかりますかね」

九条「あっもうちょっとですーすぐ書きます」

九条と當、パソコンに向かう。

九条「(パソコンに打ちながら)……これってやっぱ効果あるんですか」

萱間「ありますよ。こうやって毎回戦闘終了後に戦闘の感想と、反省点と、次回の目標書いてもらうだけでこっちとしてはやりやすさ大分違いますよ」

當「へー、磐梯さんもこれ書いてるんですか?」

萱間「いえ、今はお二人だけですね。あ、あと齢君と」

〇ウルトラマン養成所・廊下→玄関

廊下の中央を歩く磐梯とその斜め後ろに続く牟田。

磐梯「(前を見ながら)こんなんで良かったですか」

牟田「いやホントにいつもありがとうございますもうホントに来て頂けるだけで有り難いと言うか」

磐梯、振り返って牟田を見る。

磐梯「……いえ、いつもこういう時しか呼ばれないですから。では」

玄関まで来た二人。磐梯、養成所を出る。

〇同・運河個室(夕)

安いホテルのような内装と設備の部屋。天井近くの壁に小学校の教室にたいなスピーカー。部屋の中央に引っ越し用の段ボールが積まれている。運河、亜樹那と電話しながらベッドに腰掛ける。

亜樹那(声)「どんな感じなのそっちは? 大変じゃない?」

運河「んーまだ入学式しかしてないから何とも言えないけど(笑)、明日からだね色々訓練とかするのは多分」

亜樹那(声)「そっか……あ、美羅湖に代わるね、はい」

運河「……」

美羅湖(声)「……もしもし?」

運河「もしもし美羅湖?」

美羅湖(声)「うん、そっちどんな感じ? 大変?」

運河「まだ入学式しかしてないから何とも言えないけど」

美羅湖(声)「ふーん」

間。

亜樹那(声・遠くから)「ほら、パパにお仕事頑張ってねって」

美羅湖(声)「お仕事頑張ってね(棒読み)」

運河「……はい、うん、頑張りまーす」

電話、向こうから切れる。

〇(回想)運河宅・リビング

運河、美羅湖に跨って脇や脇腹を激しくくすぐりまくっている。亜樹那、少し離れた所にあるソファに座ってアンアンを読んでいる。

美羅湖「あひゃひゃひゃひゃひゃ(笑)」

亜樹那「上とか下の人に虐待されてると思われるからやめてよそれ」

美羅湖「あひゃひゃ死ぬ死ぬあひゃひゃ(笑)」

運河「これでしまいじゃああああ」

運河の振り上げた両手が美羅湖に向かっていく。美羅湖、運河の顔面に唾を吐きかける。

運河「うわっ」

運河、服の袖で顔を拭く。美羅湖、追い打ちをかけるように運河の股間を膝で蹴り上げる。

運河「あがぁーっ」

運河、美羅湖の上から崩れ落ちる。

運河「はぁはぁはぁ……」

美羅湖「……あはははは(笑)」

運河「あはははは(笑)」

寝転がったまま笑う運河と美羅湖。

(回想終わり)

〇ウルトラマン養成所・運河個室(夜→朝)

運河、ベッドで横になって目をカッ開いている。
朝。ベッドで寝ている運河。スピーカーから警報音みたいなけたたましいサイレン。運河飛び起きる。

運河「ウワッ!」

続いてスピーカーから磐梯の音声テープ。

磐梯(声)「六時半です。という事は起床時間です。という事は速やかに食堂に来て下さい。六時半です。という事は起床時間です。という事は速やかに食堂に来て下さい。六時半です。という事は……」

サイレンと磐梯の声が混ざり合って延々と鳴り続ける。運河、スピーカーの下に切り替え式のスイッチを発見。苦しみながらベッドから這い出てスイッチを押す。サイレンと音声の音量が跳ね上がる。運河、慌ててもう一度スイッチを押して元に戻す。さらに音量が跳ね上がる。

磐梯(声)「六時半です。という事は起床時間です。という事は速やかに食堂に来て下さい。六時半です……」

運河、結局スピーカーを放置して恐る恐る部屋を出る。部屋を出た途端スピーカーが切れる。運河、再度入室。またスピーカーが付いてサイレンと音声が流れる。運河、今度は慌てて退室。

〇同・食堂(朝)

運河歩いて入室。既に他の生徒は集合してあんまり美味しくなさそうな朝食を食べている。教官A~Fも端の方に集まって食べている。

運河「(小声で)すいません……」

運河、小走りで朝食を受け取りに行く。
一分後。運河を含む生徒ら、黙々と朝食を食べている。食べ終わった皿等を返却する教官A。

教官A「(食堂の従業員に)ごちそうさまでした……(振り返って・生徒に)この後、七時半から訓練です。正面入口に集合してて下さい」

〇同・グラウンド(朝)

間を開けて横一列に並んだ運河ら生徒。バインダーに挟んだ採点表と鉛筆を持ってその前に立つ教官A。

教官A「始め!」

生徒、次々にウルトラマンに変身、巨大化していく。その大きさはまちまちで、どれも四十メートルには遠く及ばない。教官A、それぞれの大きさを養成所宿舎の高さと比べてABCDの四段階評価で記入していく。
約一分半後。教官A、ウルトラマン全員分の大きさを記入し終わる。ウルトラマンらのカラータイマーが点滅し始めている。

教官A「やめ!」

ウルトラマンら一斉に変身解除。生徒ら、汗だくになってゼェゼェ言っている。教官A、腕時計をチラッと見る。

教官A「今、だいたい一分半です。君たちは卒業する頃には今のを三分間、四十メートルの大きさで持続できるようにないっていないといけない。そのためにはまず体を鍛える。それから精神を鍛える。あと守り隊で働くにあたって必要な教養もある。そのためにこの養成所が創立されたんです」

〇同外(朝)

数分後。養成所の周囲を走る運河ら生徒。先頭に教官A。養成所の敷地のまわりはどこまでも林になっている。

〇同・ホール

壇上に立つ怪獣災害被災者の会の方の話を聞く運河ら生徒。出口横に立つ教官B(ロングショット)。

怪獣災害被災者の会の方「(ゆっくりと)当時はまだウルトラマンも存在しておらず、怪獣に抗う術はありませんでした。タカシは絶望の中で死んでいったのです」

話の間、居眠りする運河。隣に座っていた若者に肘で突かれて起きる。立ったまま寝落ちしかけていた教官Bも連動したように意識が戻る。

〇同・トレーニングルーム

マシントレーニングで筋力を強化する運河ら生徒。それを監視する教官C。

〇同・和室

座禅をさせられる運河ら生徒。端で一緒になって座禅をする教官D。

〇同・シミュレーション室(夕)

VRヘッドを装着、モーションキャプチャーのスーツを着て、巨大化した際にビル等を壊さないように戦うための訓練をする運河ら生徒。部屋の隅でパソコンを見、画面上の、CGの市街地で動き回る四十メートルの生徒らの動きを確認する教官E。

〇同・多目的教室(夕)

テーブルマナー講習を受ける運河ら生徒。丸テーブルを囲んで、出てきたフレンチを恐る恐るつつく。その周りをバインダーに挟んだ採点表と鉛筆を持ってぐるぐる周る教官F。
運河、目の前に並んだカトラリーの中から迷いに迷って一番外側のフォークとナイフを持つ。教官F、すかさず採点表の運河の欄の「ナイフ・フォークの順番」の項目に「A」を記入。運河、鉛筆の音に気付いて教官Fを見る。目が合い、慌てて視線を外し料理に戻る。教官F、運河の欄の「お食事への集中」に「D」を記入。

〇同・運河個室(夜)

ベッドに倒れこむヘロヘロになった運河。段ボールは一切手付かずのまま。

〇みんなの地球を守り隊・司令室(昼→夕)

デスクワークをする二区牧、萱間、齢、デスクワークをしている風を装う九条、當。デスクでうまい棒を食べる磐梯。

九条「そういえば磐梯さん」

磐梯「何」

九条「こないだの入学式のアレどうだったんですか」

磐梯「どうって別に、君らの時と一緒だよ」

萱間「生徒のウケの方は?」

磐梯「あそういう事聞く? あーそうだねぇ、やっぱり毎年薄くなってる感はあるかな、反応」

九条「いやそんな事ないですよ」

磐梯「そんな事あるだろ当事者がそうだっつってんだから(笑)。でもまあそりゃそうだよな毎年同じ話してたら毎年過去の話になってくもんな」

當「まあでも磐梯さんはこっちが本業ですしね。忙しいですから」

磐梯「お前ディスりたいのかフォローしたいのかどっちなんだよ(笑)」

當「何か今日機嫌悪いですか?」

磐梯「悪くない」

九条「もしアレだったらこっちは我々に任せて養成所に行く日を作ってもらっても大丈夫ですよ? 良いですよね? 二区牧さん」

二区牧「……(少ししてパソコンから顔を上げて)うん、ええ、構いませんよ」

磐梯「いやーでも人手足りない日とかあったら、特にホラ、悠君とか、情報処理とか、大変じゃない?」

萱間「(パソコン打ちながら)いや、特には、はい、大丈夫ですよ」

磐梯「……あ、そう」

五時。スピーカーからテープ音質の蛍の光が流れる。

九条「それじゃ、おつぁーした」

當「お疲れ様です」

磐梯「お疲れー」

二区牧「お疲れ様でした」

萱間「お疲れ様でーす」

九条、當、磐梯、手ぶらで席を立つ。二区牧、萱間は残ってデスクワークを続ける。磐梯のスマホが鳴る。磐梯、立ち止まって応答。
九条、當、退室。

磐梯「はいもしもし」

〇ウルトラマン養成所・グラウンド(夕)

スマホで通話しながら歩く牟田。その後ろに続くカメラマン。二人の背後に、横一列に並んだ、生徒らが変身した等身大のウルトラマンらが上方に向けて一斉にL字光線を撃っている。どれもヒョロヒョロだったり曲がっていたりする。バインダーに挟んだ採点表と鉛筆を持ってウルトラマンらの周りをウロウロする教官A。

牟田「あ、もしもし磐梯さんですか?」

〇みんなの地球を守り隊・司令室(夕)

磐梯「はい、どうしました?」

〇ウルトラマン養成所・グラウンド(夕)

牟田「あのですね、今年からちょっと来年度の新入生の募集に力を入れようと思ってまして、入学案内のパンフレットを、新しいの作ってるんですよ」

磐梯(声)「あそうなんですか」

牟田「それでですね、あの、磐梯さんがうちの生徒を指導してるっていうテイの写真が欲しいなって思ってましてですね、もしよろしければ大丈夫そうな日を教えていただけたら……」

〇みんなの地球を守り隊・司令室(夕)

磐梯「……」

〇ウルトラマン養成所・グラウンド(夕)

一分後。牟田、立ち止まってスマホを肩と耳で挟んで通話しながら手帳にメモしている。

牟田「では五日の十三時に。はい、お待ちしてまーすはーい失礼しまーす」

牟田、通話切る。牟田とカメラマンの背後に飛び交い続けている、等身大のウルトラマンらが放つグニャグニャのビーム。

牟田「あーよかった日にち決まって。(カメラマンに)あ、五日大丈夫ですよね?」

カメラマン「はい。あと、もう一枚いいですか」

牟田「あ、ごめんごめん」

牟田、ウルトラマンらの方を向く。

グニャグニャのL字光線を撃つウルトラマンら。それを眺める牟田。それを撮るカメラマン。

教官A「撃ち方やめ! 変身解除!」

ウルトラマンら、L字光線を止め変身解除する。ゼェゼェ言う運河。

運河「ダメだぁ、これは……」

〇ウルトラマン養成所外

磐梯歩いて来る。養成所の道路を挟んだ向かいで作業用ウルトラマンCが建物の取り壊し作業をしている。玄関で磐梯を待っている牟田とカメラマン。

牟田「あっどうも! お待ちしてましたー」

磐梯「すいませんちょっと、道路が混んでまして……」

牟田「あーここ来るまでの道この時間帯混むんですよね結構。私も最初の頃それで結構遅れそうになったりして(笑)……いや、最初って言うか、はい」

間。

牟田「あっ駐車場代お支払いしますよ」

磐梯「いえあの、タクシーで来たんで」

牟田「あっ……あそうですか」

間。

磐梯「え?」

牟田「いえじゃああの、すぐ済ましちゃいましょう。お忙しいでしょうし」

磐梯「……」

三十秒後。磐梯と牟田、入り口に立つ。カメラマン、二人の写真を数枚撮る。

カメラマン「お疲れ様でーす」

磐梯「どれ、見して」

カメラマン、磐梯にカメラの画像を見せる。

磐梯「あーどれだろうなあ。これパンフレットに載るんでしょ? んー……これだな、一番写り良いの。これにして」

磐梯が選んだ写真。磐梯の写りは良いが牟田が目を瞑っている。

カメラマン「分かりました。じゃあこれで」

牟田「すみませんわざわざこれだけのために」

磐梯「うん、であの、それなんだけどさ、私ちょっとちゃんとこっちで教えてみようかなって」

牟田「え! 良いんですか、ていうか大丈夫なんですか」

磐梯「いやそんなしょっちゅうは来れないと思いますけど。やっぱまともな講演が毎年の入学式だけってのはちょっとまずいんじゃないかなと思って。大丈夫ですよ。最近は若い子たちも頑張ってますし。私がずっとあそこにいる事はないですよ」

牟田「そうですか、いや有り難い事ですけど」

一分後。別れ際。

牟田「じゃああの、入って頂ける時間だけ教えて頂ければ、こっちの講義のスケジュールとすり合わせて最終的な日程をお送りしますんで。(カメラマンに)あ、教えるから空けといて」

カメラマン「ああはい……」

牟田「(磐梯に・間を置かず)お願いします」

磐梯「はい、じゃあまた。あの、タクシー待たせてるんで。すいません」

牟田「あ待たせてたんですか!?」

〇同・ホール

壇上に立つ磐梯。ホールの一番後ろに立ち磐梯を撮るカメラマン。

磐梯「えーという訳で今日は私がやりたいと思います。よろしくー」

膝に手を置き背筋を伸ばし、異常に良い姿勢で着席している生徒ら。運河も一応姿勢を良くしている。運河の目の前に座る生徒A、B。

生徒A「磐梯さんが直々に教えてくれるなんてすげぇっすよね」

生徒B「ちゃんと変身できる人が教えてくれる訳ですからね。興奮しますね」

磐梯「えーじゃあまあ……日頃仕事でね、戦ってる私ですから、何か質問とかあったら」

生徒B「……えっノープラン?」

生徒A「マジっすか……」

少し間があって運河、挙手。

磐梯「はいじゃあそこの方」

運河「……ビームが真っ直ぐに飛んでかないんです」

磐梯「あーこういうやつ?」

磐梯、十字光線のポーズ。

運河「いえ、こういうやつです」

運河、L字光線のポーズ。

磐梯「ああ、こういうやつか(L字光線のポーズ)……えっとね、L字光線はこう、何て言うか右手の、どちらかと言うと肘側よりも手先側の方にエネルギーを集中させて、こう、できるだけ広く拡散させるように……」

運河、L字光線のポーズのまま腕に力を入れる。ちょっとだけビームが出て、生徒A、Bの間をかすめる。

生徒A・B「熱ッ」

運河「あっごめんなさい撃ったつもりなかったんですけど本当にごめんなさい大丈夫ですか」

生徒A「大丈夫ですよ(笑・目が笑っていない)」

生徒B「気にしないでください(笑・目が笑っていない)」

磐梯「……外出ようか、外」

〇同・グラウンド

横一列に並んだ運河ら生徒。その前に立つ磐梯。離れた場所に立つカメラマン。磐梯変身。マルイチ、空に十字光線発射。生徒らと違い太く真っ直ぐに空に飛んでいく。生徒ら拍手。

マルイチ「じゃあ皆さん、等身大で変身どうぞ」

生徒ら、マルイチに話しかけられて困惑。

生徒A「え今喋ったんですか?」

生徒B「喋りましたね、何か変身、とかワードが聞こえた気がしたんですけど」

生徒A「あですよね? どうします変身した方がいいんですかね」

生徒B「そうですね変身した方がいい感じがします」

生徒A・B変身、巨大化。他の生徒も続いて変身、巨大化していく。マルイチと生徒らが変身したウルトラマンの身長差は歴然である。困ったようなマルイチ。変身解除。

磐梯「(大声)等身大でいいから! 縮んで!」

ウルトラマンら、等身大に縮んでいく。

磐梯「テレパシーのやり方教えてないのか……」

縮み終わったウルトラマンら。

磐梯「えー、構えて!」

ウルトラマンら、右足を前に出し、腕をL字に組んで上方に向ける。

磐梯「はい、撃って!」

ウルトラマンら、一斉に光線発射。そのまま撃ち続ける。どれもヒョロヒョロだったり曲がっていたりする。磐梯、端の生徒から一人一人、手の位置を動かして調整したり助言したりしていく。

磐梯「これ左腕をもうちょっとこう……直角になるように……あーそうそう!」

磐梯「エネルギーがここからこう流れて手の方に行く訳だから、ここをもっと開いてエネルギーが通りやすいように……そうそうそんな感じ」

運河を指導する磐梯。

磐梯「脚開いて。脚。踏ん張れないから……ほら、ビームの出が全然違うの分かるでしょ? 今自分で感じたでしょ? この感覚忘れなければ大丈夫よ。な」

運河「ありがとうございます」

磐梯が指導した生徒はそれぞれビームが太く真っ直ぐになっている。未指導の生徒との差は歴然である。生徒全員を指導し終えた磐梯。生徒ら全員の撃つ太く真っ直ぐなビームを満足そうに眺める。その光景を撮るカメラマン。
数分後。変身解除した生徒ら。再びその前に立つ磐梯。

磐梯「皆、自分でも分かるぐらい凄く良くなったと思います。あとは巨大化しても今と同じコントロールができるように意識してやっていって下さい。今度は……巨大化の訓練をやろうかな。はい、じゃあ、お疲れ様でした」

生徒一同「ありがとうございました」

養成所校舎に戻っていく生徒らとカメラマン。磐梯、運河を呼び止める。

磐梯「あ、ちょっと」

運河「はい」

磐梯「ありがとね手、挙げてくれて」

運河「いえ、そんな」

磐梯「私も何やったらいいか迷ってて当日皆を見てから決めようと思ってたから、助かったわ」

運河「……僕は、入学式で見た特別講師のあなたと、昔からテレビでよく見る、怪獣と戦う、凄いあなたとが一致しませんでした。でも今分かりました。磐梯さんは凄い特別講師です」

磐梯「どうも。ありがとう」

磐梯のポケットからスマホの振動音(マナーモード)。スマホを取り出す。『二区牧さん』の表示。応答。
磐梯「はいもしもし」

二区牧(声)「御岳山南東の麓で怪獣を確認しました。お迎えを出しますが出来るだけ現地に向かっていて下さい」

磐梯「分かりましたすぐ行きます」

磐梯、通話を切る。

磐梯「(運河に)……でもこっちもやんなきゃなんだよね(笑)」

運河「ええ、頑張って下さい」

磐梯駆け出す。

〇御岳山・山麓

山林を燃やす怪獣JPN-165。

〇みんなの地球を守り隊・司令室

スクリーンに映し出された山麓のJPN-165。
立っている二区牧、萱間。座っている九条、當、齢。

萱間「ご覧の通り典型的な二足歩行型で、飛び道具は今の所口からの熱線のみ確認されています。なんですけど……」

二区牧「えー磐梯さんが今、別件でいらっしゃらないので、到着までの間、何とか我々だけで足止めをしなきゃです。基本通り九条君、齢君は遠距離から、當さんは近接戦闘、なんですけど、そこに持ち込むまでのプロセスに囲い込みフォーメーションを使って下さい。それととりあえず民家に近づけないっていう事を最優先に、深追いをしないようにしてください」

施設内放送(声)「あと一分で輸送機のご用意が完了します。守り隊の皆様は移動をお願いします」

二区牧「……それでは、よろしくお願いします」

一同「お願いします」

〇タクシー車内

御岳山の方面に向かうタクシー車内。
スマホでJPN-165の中継映像を見る磐梯。スマホ画面の上部右端から二区牧らの乗る輸送機がフレームインする。

磐梯「もっと出せますかスピード」

運転手、バックミラーで磐梯の顔を見る。

運転手「怪獣駆除に行かれるんですよね?」

磐梯「そうです。ホントに途中までで大丈夫なんで」

運転手「……分かりましたぁ」

タクシーの速度が上がる。磐梯、祈るように目を閉じる。

〇御岳山・山麓上空・輸送機内(夕)

コクピットに座って輸送機を操縦する二区牧。助手席でパソコンを操作する萱間。後部座席で待機する九条、當、齢。一同緊張。

齢「大丈夫ですかね、磐梯さんいなくて」

九条「だぁいじょぶだって、俺達ウルトラマンなんんだからさ」

當「ああ、じゃあ齢君ダメそうだったらすぐ下がっていいからね。民家の防衛だけお願い」

齢「ハイ」

二区牧、険しい表情。

萱間「あと五分で到着です」

二区牧「(後部座席に)各自、降下準備お願いします」

〇タクシー車内(夕)

国道を走るタクシー車内。反対車線は渋滞になっている。こちら側はガラガラ。それでも腕時計をチラチラ見てソワソワする磐梯。上空に守り隊のヘリ。

磐梯「ここで降ろして下さい」

〇国道(夕)

路上で停車しているタクシー。

磐梯「お釣り大丈夫です」

タクシーから降りる磐梯。

磐梯「ごめんなさい、早く逃げて」

タクシー発車。磐梯、空を見上げる。
先程より高度が下がっているヘリからヒモが垂れてくる。反対車線の車から降りた市民がヒモに群がっていく。磐梯がヒモの足場に足を掛けると市民は磐梯に気付き立ち止まる。

市民A「磐梯さーん! 頑張って下さーい!」

市民B「いつも見てまーす!」

市民の声援。磐梯、微笑んで市民を見下ろしながらヘリの中に吸い込まれていく。

〇御岳山・山麓(夕)

二区牧(声)「今日もよろしくお願いします!」

九条・當・齢(声)「はい! 喜んで!」

進行するJPN-165。その進路上遠くに降り立つ量産型ウルトラマンマルハチ、マルジュウサン、マルヒャクサンジュウ。

〇避難所B(夕)

御岳山から程近い避難所。避難民が続々と入ってくる。既に来ている避難民は中継のテレビを見ている。

避難民A「あれあの強い人いなくない?」

避難民B「やばいじゃん。どうすんの?」

〇御岳山・山麓(夕)

量産型ウルトラマンらに構わず進行するJPN-165。マルヒャクサンジュウ、L字光線発射。胸部に直撃。
JPN-165、一度遅くなるがすぐに元の進行速度に戻る。
量産型三人、横並びで同時に光線発射(マルヒャクサンジュウのみL字。他の二人は十字)。
JPN-165、進行しながら口からの熱線で薙ぎ払って相殺。
マルハチとマルヒャクサンジュウが撃ちながら左右に分裂、量産型三人が回り込んで三方向からJPN-165を取り囲むような形態になる。
JPN-165、光線を浴びながらもマルジュウサンに一気に接近、胴体を引っ搔く。
量産型三人の光線が止まる。倒れるマルジュウサン。JPN-165、その上に熱線を浴びせる。
マルジュウサン変身解除。気絶し倒れている當。

×   ×   ×

輸送機内の二区牧と萱間。

萱間「生体反応は……生きてます」

二区牧「……」

×   ×   ×

JPN-165、マルハチとマルヒャクサンジュウの方に振り返る。
マルハチとマルヒャクサンジュウ、JPN-165に光線発射。
JPN-165、光線を物ともせずマルハチに接近、引っ搔こうとする。
マルハチ、JPN-165の爪を躱し、もう片方の手で腹パン、怯ませた隙に後ろに下がって距離を取ろうとする。
JPN-165、マルハチが後ろに飛んだ瞬間に熱線発射。マルハチに直撃。マルヒャクサンジュウも巻き添えを食らい、二人吹っ飛ぶ。
倒れたマルハチとマルヒャクサンジュウにじりじりと近づくJPN-165。
突如上空から飛来する赤い光の球体。土煙を上げて勢い良く着地。ウルトラマンセイドウの姿になる。

×   ×   ×

輸送機内の二区牧と萱間。

萱間「何だアレは!?」

二区牧「警戒して!」

×   ×   ×

山麓。JPN-165、向きを変えてセイドウに走り寄って爪で引っ搔こうとする。
セイドウ、振りかざしたJPN-165の手首を掴む。セイドウのもう片方の手がJPN-165のもう片方の手首を掴んで握りしめる。
JPN-165、至近距離で熱線を吐く。
セイドウ、ほどいた両手でバリアを発生させ防御、熱線を受け続けながらJPN-165の口にバリアを押し付けて爆発させる。即座に前を向いたまま後ろに飛んで下がり、同時に十字光線発射。直撃。着地してもまだ撃ち続ける。JPN-165爆散。
一部始終を見ていたマルハチとマルヒャクサンジュウの方を振り返り、掌から光弾発射。マルヒャクサンジュウに直撃、吹っ飛ぶ。セイドウ、追い打ちで十字光線発射。吹っ飛んでいる最中のマルヒャクサンジュウに直撃、変身解除。
セイドウ、マルハチを見る。後ずさるマルハチ。
セイドウの背後に降り立つマルイチ。上空に輸送機の他に磐梯が乗ってきたヘリが飛んでいる。

〇避難所B(夕)

御岳山から程近い避難所。避難民が続々と入ってくる。既に来ている避難民は中継のテレビを見ている。

避難民A「来た! 来た!!」

避難民B「え、あっちのウルトラマンって味方じゃないの? 何?」

〇御岳山・山麓(夕)

輸送機内の二区牧と萱間。

二区牧「磐梯さんお願い……!」

×   ×   ×

山麓。セイドウ、振り返ってマルイチに向かっていく。マルハチのカラータイマーが点滅し始める。

マルイチ「(マルハチに)シュワシュワッ!」

マルハチ「!」

マルハチ、自ら変身解除。山林を走る九条。

九条「二人を探せって、言ったんですよね……?」

九条、ボロボロで木にもたれて座っている當を発見。

九条「あっちゃん!」

當「……齢君の方には?」

九条「いや、まだ……」

當「ここから全部見てた。こっちはこの通り死んでないから、あっちを見てきて下さい」
九条「……」

九条、マルヒャクサンジュウが変身解除した地点に向かう。走る九条から見えるマルイチとセイドウの戦闘。互いに撃って殴って蹴っては回避、防御する互角の戦い。
セイドウのカラータイマーが点滅、飛び立って逃走。拍子抜けしたマルイチ。

〇避難所B(夕)

呆然と中継を眺める避難民。

〇御岳山・山麓(夕)

九条、山林の中で横たわった齢を発見。

九条「齢君!」

齢(全身映さず)を見て驚愕する九条。

九条「これは……」

〇みんなの地球を守り隊附属病院・病室(夜)

部屋の出口近くにトイレのドア。その奥、二つのベッドに二人の患者が眠っている。片方の患者の方を向いてその間に立っている、報告書を持った磐梯と萱間。磐梯と萱間が見つめている患者、身体のあちこちに包帯を巻きガーゼを貼り、点滴も打たれている當。部屋の出口付近で医療機器をワゴンに片づけている看護師。

磐梯「でどうなの」

萱間「當さんは……まあ簡単に言うと全身複数個所の骨折と打撲と火傷、あと胸部から腹部にまたがる切創……ですよね?」

看護師「(片付けながら)はいそうです」

萱間「で、まあ酷いケガですが……治ったら」

磐梯「治ったら戦えんのな?」

萱間「治ったら戦えます」

磐梯「マズいな」

萱間「マズいですね、何がマズいんですか」

磐梯「治ったら戦えるって言われたら治ってなくても戦うからなあの人多分絶対」

萱間「そうですよね。まあでもウルトラマン効果で治りは早いでしょうから、それまで怪獣とか……出てこなければ大丈夫でしょうけど」

看護師、ワゴンを押して退出。

萱間「あ、ありがとうございました……(磐梯に)それより問題は……」

磐梯と萱間、逆のベッドに向き直る。傷一つ無い齢が眠っている。

磐梯「どういうことなのこれは」

萱間「見ての通り外傷らしい外傷……っていうか、ケガが一切無いんですね」

磐梯「でも確かにあのウルトラマンもどきの光線が当たったんだよね? っていうか私も映像見たし」

萱間「ねー。おかしいですよね」

磐梯「でもその代わり(報告書を見る)……本当なの?」

萱間「本当です。齢君からディファレーター光線の反応が全く無くなってます。意識が戻ったら光を浴びてもらって試してみますけどこのままだと多分変身できないです」

磐梯「どういうことなん……」

萱間「そこに書いてある以上の事は何も分かんないですけど、予想っていうか想像っていうか憶測っていうか、で言うなら、多分あのウルトラマンもどきの光線にそういう、成分が入ってたのかなっていう」

磐梯「成分て?」

萱間「だからその、ディファレーター光線の効能を消して変身できなくさせる成分」

磐梯「でもそれだったらほら、また光浴びたら元に戻るんじゃないの」

萱間「いやもしそうだったらですけどね、分かんないですよ、分かんないですけど……」

〇みんなの地球を守り隊・司令室(夜)

電気の付いていない、暗い室内。二区牧、一人腕を組んで真顔でスクリーンを見つめている。スクリーンに映るマルイチとセイドウの戦闘。手に書類を持った九条入室。

九条「あざまーす」

九条、入り口ですぐ立ち止まる。間。

九条「……大変ですね」

二区牧「……私はここで、あの光の巨人が何者なのか考えて、その対応を決めるってことしかできないですから。本当に大変なのは私の言う事に従って実際に動く方だよ」

九条「他にやれる人がいないんですから。當と齢君の分も自分らがやるしかないですよ」

二区牧「皆には本当に申し訳ないと思ってます。これから先も」

九条「隊長……」

九条、壁のスイッチを押して部屋の電気を付ける。

九条「何で電気付けないんすか、目ぇ悪くなりますよ」

二区牧「いや、何か、かっこいいじゃん」

〇同・司令室前廊下(夜)

歩く磐梯と萱間。

〇同・司令室(夜)

磐梯と萱間入室。電気消えている。二区牧と九条、それぞれ腕を組んでスクリーンを見つめている。

萱間「何で電気付けてないんですか」

九条「かっこいいでしょ、その方が。あ、あとこれ、今日の分のレポート」

萱間「そんなの読んでる場合じゃないでしょ」

九条「え」

萱間「あ」

二区牧、當、クスクスする。九条、ニヤニヤする。萱間、照れる。

磐梯「何、レポートって」

〇みんなの地球を守り隊附属病院・病室(夜)

ベッドの上で目を閉じている齢。

〇みんなの地球を守り隊・司令室(夜)

暗い室内でテーブルを囲む磐梯、二区牧、九条、萱間。

萱間「先の戦いを見るに、磐梯さん……ウルトラマンマルイチとあの光の巨人の戦闘能力はほぼ同等と思われます。どうも活動時
間もそうらしく、出現から三分経たずに姿を消しました。つまり、次戦う時先に磐梯さんが変身したら確実に負けます」

磐梯「確実にって(笑)……ちょっ、ちょっと失礼じゃない? ねぇ(笑)?」

九条「じゃあどうやってヤツをおびき出すかですね、磐梯さんが出る前に」

二区牧「そーなのよ、でアイツが何の目的で量産型ウルトラマンを攻撃したのかなんだけど、その辺で土木工事とかやってた作業用ウルトラマンは襲われてないって所を見ると、やっぱ我々が怪獣駆除してるから目ぇ付けられてると思うの」

九条「何ですかそれ」

萱間「勝手ですねーそれ。神様気取りか」

二区牧「だからやっぱ、アイツをおびき出すのに量産型ウルトラマンが一人必要だと思うのね。それで、磐梯さんは主戦力でアレだから……」

九条「僕ですね分かります分かってますやりますやりますよ」

二区牧「じゃあ九条くんが変身して、光の巨人をおびき出して、で、おびき出した所に磐梯さん変身して頂いて、で叩いて頂くと。こういう手はずになります。ていうことでよろしいですかね」

九条・萱間「いいです」

二区牧「じゃああの、詳しい段取りは明日資料にしてお配りしますんで、よろしくお願いします。そしたら今日はとりあえず通常の業務に戻ってください」

磐梯以外、散り散りになってパソコンを操作し始める。磐梯、少しフリーズした後、遅れてパソコンの電源を入れる。

〇みんなの地球を守り隊附属病院・病室(朝)

ベッドで眠る當と齢。當、目を覚ます。

當「……あ痛っ」

當、隣のベッドの齢を見る。傷らしい傷の無い齢をしばし不思議そうに眺める。数秒経ってして我に返りナースコールを押す。
数十秒後。看護師入室。

看護師「どうしました……あ、起きたんですね」

當「はい……あの、私……」

看護師「當さん危なかったんですよ本当に。ウルトラマンじゃなかったら死んでましたよ多分」

當「……! あの巨人はどうしました⁉」

看護師「(齢を見つめていたが視線を當に戻して)磐梯さんが追っ払いました。でも倒してはないです。正体もまだ不明だそうです」

當、ベッドから起き上がる。

看護師「何してんすか」

當「今これ以上戦力が低下したらいけない、戻らないと……」

看護師「とりあえず検査とかまだする事あるからそこ居てくださいよ。飯も食ってないでしょう。はいこれ」

看護師、体温計を當の脇に差す。

看護師「ホラ齢さんも起きてくださいバラバラにやるの、面倒臭いからホラ」

看護師、肩をバンバン叩いて齢を起こす。

當「えっ、あの」

齢起きる。

齢「(眠そうに)んー……もうちょっといいじゃないですか……」

當「え?……え?」

十分後。ベッドの上で並んで病院食を食べる當と齢。當、食べながら時折横目で齢を見る。齢、俯いて食べるので視線に気付かない。磐梯入室。

磐梯「お邪魔しまーす」

當「あっ」

當、齢、敬礼。

當「あ痛っ」

磐梯「あーいいっていって(敬礼をやめさせる手振り)、いつもそんなんしてないじゃん(笑)あの齢君、この人いつもこんな事してないからね?(笑)」

齢「あそうなんですか?(笑・元気ない)」

當「いや何か久しぶりな気がして(笑)……」

磐梯「でどう、調子は。今朝意識戻ったんでしょ?」

當「はいもう、何ともないです、もうあの、すぐに戦線復帰してあの巨人を倒しますんでホント」

磐梯「あマジで? じゃあすぐ本部に戻りなさい」

磐梯敬礼。

當「はッ」

當敬礼。

當「あ痛っ」

磐梯「ほら無理でしょ、ちゃんと治るまで寝てなさいって」

當「ハイ……申し訳ないで、申し訳ありません」

磐梯「うん。それから齢君」

齢「(少し怯えて)はい」

磐梯「それ、食べたら、ちょっと来て」

齢「……はい」

〇同外(朝)

磐梯と齢。すぐ後ろに病棟。空に二つの太陽。

齢「あの……何ですか」

磐梯「ちょっと変身してみてくれる」

齢「えでも」

磐梯「いいから。よろしくお願いします」

齢「……はい喜んで」

齢、変身する手振り。何も起こらない。

磐梯「ダメか……」

齢「あの僕、どうなってるんでしょうか」

磐梯「実は……」

〇同・病室(朝)

窓から外の磐梯と齢が話すのを見る當。

〇ウルトラマン養成所・トレーニングルーム

黙々と筋トレする運河ら生徒。見守る教官C。全員のポッケから一斉に通知音。全員スマホを取り出す。

〇幼稚園・教室

折り紙を折る美羅湖ら園児。うわの空の教諭。

園児「ねぇ昨日見た? ニュース」

美羅湖「ああまだ倒されてないんだよねあの……」

園児「ダークウルトラマンでしょダークウルトラマン」

美羅湖「あーそうそう」

美羅湖ら園児と教諭、全員のポッケから一斉に通知音。全員スマホを取り出す。

〇運河宅・リビング

スマホでゲームをする亜樹那。通知音と共に画面が切り替わる。
画面『お知らせ 本日十四時以降、以下の場所に立ち入らないようお願いいたします。ご協力ありがとうございます。 みんなの地球を守り隊 広報』
文面の下に地図の画像が貼られている。

〇ウルトラマン養成所・トレーニングルーム

お知らせを読む生徒、教官。

運河「まだ終わりじゃない……」

〇幼稚園・教室

お知らせを読む園児、教諭。

園児「ねえこれどういうこと?」

美羅湖「もう一回戦うんだよ、守り隊とダークウルトラマンが」

園児「でも昨日負けてたじゃん。今日勝てるかな」

美羅湖「分かんない」

美羅湖のスマホ画面の地図。平原。

〇平原

周りに人気が全く無い平原。隊員服の九条。

九条「ホントに来んのかな……」

二区牧から通信。

二区牧(声)「じゃあ作戦を始めます。いいですか」

九条「(インカムに)はい、お願いします」

二区牧(声)「では、よろしくお願いします」

九条「はい、喜んで」

九条変身。平原に立つマルハチ、キョロキョロする。

〇みんなの地球を守り隊附属病院・病室

ベッドで上体を起こし俯く當と齢。会話は無い。齢、急に立って退出しようとする。

當「どこ行くの」

齢「私はトイレに行きます」

齢退室。當、室内のトイレのドアを見て訝しそうにして、スマホを取り出し守り隊の通知画面を見てベッドを立つ。

〇平原

ボーっと突っ立っているマルハチ。

萱間(声)「六時の方向から熱源反応!」

マルハチが振り返った先からビームが飛んでくる。マルハチ、ギリギリで回避。

〇林・輸送機

地上で停止している輸送機。運転席に二区牧、助手席に萱間、後部座席に磐梯。

二区牧「来た!」

〇平原

ビームが発射された先。遠くから飛来するセイドウ。マルハチ身構える。
セイドウ、空中で飛び蹴りの体勢に移行、マルハチと距離を詰める。
マルハチ、セイドウに十字光線発射。
セイドウ、蹴りで光線を相殺。そのままマルハチを蹴り倒し、仁王立ちで着地。
マルハチ、すぐ起き上がって殴りかかる。
セイドウ、殴ってきたマルハチの手首を掴んで引っ張り、その勢いでもう片方の手で腹パン、両肩を掴んで放り投げる。
マルハチ、うつ伏せにまた倒れる。タイマー点滅。
セイドウ、マルハチに背を向けて周りをキョロキョロ見渡す。セイドウのタイマー点滅。セイドウ、突如激昂し振り向いてマルハチに近付き、両手で頭を掴んで立たせる。
マルハチの頭からセイドウの両腕にエネルギーが流れていく。セイドウのタイマーが青に戻る。

萱間(声)「あんな事が!」

二区牧(声)「あんなの反則でしょうが、おい九条君戻れ、戻っていいから! 戻れない!? ねぇ!」

マルハチのエネルギーを吸い続けるセイドウ。その両腕に直撃するマルジュウサンの光弾。セイドウ、マルハチから手を離し、光弾が飛んできた方を見る。満身創痍、最初からタイマーが点滅したマルジュウサンが立っている。

萱間(声)「ホントに来ちゃった……」

ヨロヨロしながらマルジュウサンに駆け寄るマルハチ。二人、セイドウに十字光線発射。
セイドウ、片手で払いのけるがその手が焼けただれる。焼けただれた手をじっと見つめるセイドウ。再度タイマー点滅。また急に激昂しマルハチとマルジュウサンに十字光線発射。
マルハチとマルジュウサン、光線が直撃する前に薄くなって消える。二人が消えた後に通過する光線。
セイドウ、光線が通過した下の方を見る。視線の先にうつ伏せに倒れる九条と當。
セイドウ、二人に近付き踏み潰そうとするが、急に空を見上げてバク転。直後、セイドウが立っていた所にビームが着弾。上空からマルイチが落下してくる。そのさらに上空に輸送機。マルイチを投下すると同時に離脱していく。
マルイチ、落下しながら、額から何か掴むような動作の後、指先から細いビームを発射、九条と當の覆うドーム状の結界を作る。
セイドウ、上空に光弾を三発発射、自分も飛び上がる。
マルイチ、三発の光弾のうち最初の二発を避け、後の一発を腕で弾く。弾いた瞬間、大きな爆発が起こる。爆発の中から飛んできたセイドウが現れマルイチの腹を蹴る。
墜落するマルイチと素早く降り立つセイドウ。
マルイチ起き上がる。両者の格闘戦。取っ組み合いになり、セイドウ、マルイチに頭突き。怯むマルイチ。セイドウ、すかさずマルイチの腹に膝蹴り、地面に叩きつける。マルイチ仰向けに倒れる。
セイドウ、見下ろして立ち至近距離から十字光線発射。
マルイチ変身解除。九条と當を覆っていたバリアも消える。仰向けに倒れている磐梯。磐梯を見下ろすセイドウ。タイマーの点滅が早くなる。タイマーを見、磐梯にトドメを指すのを諦め飛び立つ。

〇空

輸送機内。操縦する二区牧。

二区牧「(インカムに)救護三人の回収、急いで」

萱間「(パソコン見て)待って下さいアイツ、横に飛んでます!」

二区牧「えっ上にじゃなくて?」

萱間「はい横です」

二区牧「じゃあ帰るんじゃなくて移動してる……?」

萱間「何だ目的は……養成所の方向⁉ じゃあ……」

×   ×   ×

別の空。輸送機と別の空。飛行するセイドウ、飛びながら縮む。タイマーの点滅が遅くなる。

〇ウルトラマン養成所・食堂

鳴り響く警報。

牟田(声)「人型怪獣JPN-166が当施設方面に向かっています。速やかに避難してください。えー繰り返します……」

逃げ惑う運河ら生徒、教官ら。

〇同上空

養成所の真上に到達したセイドウ、飛び蹴りの体勢で養成所に突っ込んでいく。

〇同・食堂

天井を突き破って運河の目の前にセイドウの足が現れる。

〇同外

養成所に片足を突っ込んで着地して立っているセイドウ。足を施設から雑に引き抜く。
運河、施設から飛ばされて地面にうつ伏せに叩きつけられる。死んだフリをしながら目だけ動かして生存者を探す。目の前のガレキから飛び出た腕が動く。
運河、死んだフリをしたままゆっくり動いてガレキをどかそうとするが寝たままで力が入らず全く動かない。チラッとセイドウを見る。セイドウ、向こうを向いて施設の反対側を破壊している。運河、思い切ってバッと立ち上がり、ガレキをどかして生徒Aを助ける。

運河「大丈夫すか」

生徒A「目が、目が見えないんです」

運河「じゃあここでジッとしてて下さい」

セイドウ、運河に気付いて振り返り、早歩きで近付いてくる。運河、静かに気合を入れて変身、巨大化。活動時間延長のために縮んだセイドウと全力で変身したウンガワは共に二十五メートル程度。
セイドウ、早歩きから小走りに切り替えてウンガワに詰め寄り左手で殴る。
ウンガワ、両手で受け止める。セイドウ、右手で殴る。ウンガワ、モロに食らうが踏みとどまり蹴りを入れる。セイドウ、ウンガワの脚を掴んで放り投げる。ウンガワ仰向けに倒れる。

×   ×   ×

逃げたり施設内の怪我人を運び出したりしている生徒、教官ら。怪我人はすべて生徒。

教官A「(ケータイに)被害は甚大です、確認できただけでも四十名近くが負傷、はい、まだ施設を破壊してます、で生徒の一人が変身して戦ってます」

片腕を吊るした生徒B、遠くの生徒Aに気付く。

生徒B「あれ見てください、山田君ですよ」

教官B「運河君が助けたのか……こっちに運ばないと」

教官C「私も行きます」

教官B・C、駆け出す。

生徒B「我々も戦わないといけないですよこれ」

教官D「しかし君その怪我、分かってんの」

教官E「手を怪我してる君では有効な攻撃ができないし脚を怪我してる生徒は移動ができない」

生徒B「でもですねぇ」

教官F「心苦しいがここは運河君に追い払ってもらうのを期待するしかない」

〇運河宅・リビング

鏡を見ながら顔に何か塗っている亜樹那。テレビのワイドショーがつけっぱになっている。玄関が開く音。

亜樹那「あ、おかえ……」

幼稚園の鞄を肩にかけて立ったまま、テレビ画面をジッと見つめる美羅湖。

TVアナウンサー(声)「昨日、東京都青梅市の御岳山山麓に出現、その後姿を消した人型怪獣、JPN-166が先程、再び出現、八王子市のウルトラマン養成所本部を襲撃しています。負傷者などの詳しい情報は分かっていません」

亜樹那、初めてニュースの内容をちゃんと見てから慌ててテレビを消す。美羅湖、亜樹那の手からリモコンを取ってまたテレビをつけ画面をジッと見る。

亜樹那「美羅湖?」

〇ウルトラマン養成所外

ウンガワとセイドウの戦闘が続く。仰向けに倒れているウンガワにセイドウが跨って顔面をタコ殴りにする。一心不乱に殴っていたが、よく見るとウンガワは首を左右にブンブン振ってパンチを半分くらいは避けているのに気づく。
セイドウ、我に返りウンガワの頭を左手で押さえつけて思いっきり殴ろうと左手を高く振り上げる。
ウンガワ、セイドウの左手が振り下ろされる瞬間に光弾発射。セイドウの顔面に直撃、顔を押さえて苦しむ。
ウンガワ、続けてセイドウの股間を膝蹴りする。悲鳴を上げるセイドウ。ウンガワ、セイドウを押しのけて脱出、立ち上がって距離を取る。

×   ×   ×

生徒B「やっぱりあの人必死ですよ、何か我々も……」

教官B・C、生徒Aを運んでくる。

生徒B「山ちゃん大丈夫ですか!」

生徒A「大丈夫です、でも目が見えない」

生徒B「それ大丈夫じゃないですよ」

生徒A「でも手足は動くんですよ、逆に言えば手足しか動かない」

生徒B「そうかだったら」

×   ×   ×

セイドウもヨロヨロと立ち上がる。対峙する両者。共に息が荒い。
ウンガワのタイマー点滅。セイドウ十字光線、ウンガワL字光線発射。二つの光線がぶつかる。ウンガワが押され、光線の境目がウンガワの目の前まで迫る。
その時。
大きさがバラバラの生徒が変身したウルトラマンら。右腕と左腕をそれぞれ負傷した者が一緒になって一つの十字光線を撃ったり、目を負傷した者が片腕を負傷した者の補助を受けて光線を撃ったり、両脚を負傷した者が両手を負傷した者に肩車されて光線を撃ったりしている。
生徒らの光線がウンガワの光線に加わって押していく。セイドウ押し負けて爆発。輸送機飛来。

×   ×   ×

輸送機内。コクピットの二区牧、助手席の萱間、後部座席の磐梯、九条、當。後部座席の三人はボロボロ。萱間、磐梯に測定器をかざしている。

九条「何とかなったんですね、良かった」

磐梯「それで君は齢君の挙動がおかしいと?」

當「はい、多分関係ないと思うんですけど」

萱間「あれ、磐梯さん普通にディファレーター光線出てますよ」

磐梯「じゃあ」

萱間「まだ変身できますよ、僕の仮説は間違ってましたね」

磐梯「でもじゃあ齢君はどうして……」

當「あれ、見てください」

機内の画面。セイドウが爆発した地点にボロボロの齢が倒れている。

二区牧「……あそこに降ります」

×   ×   ×

ウンガワと生徒ら、変身解除して倒れている齢に近付く。輸送機着陸、二区牧、萱間、磐梯、九条、當が降り、生徒らに続いて齢に近付く。

運河「……誰ですかこの人」

磐梯「うちの隊員です。でも外側だけで中身は違うかもしれない」

齢、目を覚まし起き上がる。

磐梯「君、誰なの」

齢「私はウルトラマン、宇宙から来た平和の使者です。でした」

磐梯「その体他人(ひと)のでしょ。うちの部下返して欲しいんですけど」

齢「ある星に長い間留まるにはその星の生命体に乗り移る必要がある。それに、この地球人の体を借りたのはあなたと話すことがある、いやあったからです。そのためにはあなたと同じ言葉を話す地球人に乗り移る必要がある、いやあった」

磐梯「じゃあ要件は何だったんですか、聞きますよ」

齢「あなた方地球人は我々と同じ力を持つにはまだあまりにも若すぎる、相応しくない、私はそう思って、それを実力と言葉で伝えるためにここに来ました。しかし、あなた方と戦い、そして負けた時に、あなた方は生きるためにその力を使い、戦っているということが分かりました。そして、それはかつての我々の姿でもあると気付いたのです。でもいつか、あなた方がその力を自分たちのためだけでなく、この星やこの宇宙のために使う日が来る事を願っています。では、彼を返します」

齢の頭上からモヤモヤしたものが抜けていく。

當「……齢君?」

齢「あの、これは……」

二区牧「覚えていないんですね」

九条「アイツは結局何がしたかったんですか」

萱間「やっぱり、自分と同じ存在に自分と同じ考えまで強要しようとしたんですよ」

磐梯「我々が、精神を伴ってあの人と同じ次元に行くのにはまだ途方もない時間がかかる。もし行くとしたらだが」

萱間「やるんですか? 自分たちが生きる事でいっぱいいっぱいの私達が。地球とか宇宙のためになんて」

磐梯、運河ら生徒を見る。互いをいたわり、ねぎらっている。

磐梯「難しいだろうけど、無理ではない。と思う」

彼らの頭上に光る二つの太陽。

(終)

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