その先にあるものは。
「ヒロイン石田だよ」それは母からのLINEだった。
(ヒロイン、石田?この場合のヒロインは、いわゆるヒーローと対になる「ヒロイン」ではなくて、おそらく「ヒーローインタビュー」の略称…ということは今日のヒーローは石田?)
バイト終わりで鈍っていたはずの頭の回転速度が一気に上昇した。一瞬のうちにこんなくだらないことを考えてしまうくらいには動揺していたのだ。
「ヒーローインタビュー」。それは選ばれた選手だけが受けることができる、言わばその試合の象徴だ。私たちはそれを見ることで、活躍した選手を一目で理解することができる。その舞台に石田が立っている。いや、石田だけではない。先発として5勝目を挙げたルーキーの上茶谷、先制ホームランなど監督のスタメン起用に応えた佐野。2人ともチームの勝利に貢献した素晴らしい選手だ。その中に、その間に石田がいる。この場所に立つのは今季初。前回ヒーローになったのは昨年の8月末だったと思うから…1年ぶりくらいだろうか。
照明が落とされた広い球場で、ヒーローになった彼らだけが光を浴びている。5割復帰!と興奮気味に話すインタビュアー。照れくさそうに、でも嬉しそうに笑う選手たち。小さなスマートフォンの画面から眺めたその空間は、私の目にもとても輝いて映った。
石田のリリーフとしてのヒーローインタビュー。私の胸には熱くこみ上げるものがあった。昨年のヒーローインタビューも中継ぎとしてのものだったが、それは今回とは意味合いが異なっていたと私は考える。昨年の配置転換は、先発としての成績が振るわなかったことに依るものが大きかった。今季は肘の張りの影響もあり、一軍登板は5月に入ってから。ラミレス監督は当初から中継ぎ登板を想定しての一軍昇格だった。ある意味彼にとって初めての「リリーフとしての昇格」と言えると思う。
先発と中継ぎ。試合の中でそれらは大切な役割を担う。近年のプロ野球では投手の役割分担がかなり重要視されているので、2つは全く別のものと捉えられることがほとんどだ。投球のペース配分はもちろん変わるだろうし、登板する場面も様々である。プロに入る投手は、アマチュア時代にエースナンバーを背負っているなど先発の軸として投げていた選手が多いが、その中でのリリーフへの配置転換。トップレベルの世界での新たな挑戦というのは、よりたくさんの経験を生み出すことだろう。
昨日のヒーローインタビューの中で石田はこう語った。
「任されたところで自分の持っている力を出すだけだと思っているので、今は中継ぎとして全力で頑張っています」
「今は」という言葉が持つ意味。先だってのラミレス監督の「一番いいタイミングで(石田を)先発に戻す」という発言。今とは違う、しかし過去とも違った新たな石田の姿が見られるのも、そう遠くないのかもしれない。