グッド・バイ、跨線橋〜「今までありがとうと言いたかった」疋野輝紀さん
2023年11月26日(日)、三鷹跨線橋のたもとで、「親子で楽しむ鉄道イベント 〜みたか跨線橋ありがとう」が開かれました。
主催したのは疋野(ひきの)輝紀さん。三鷹市の下連雀で地域活動を積極的に行っているひとりです。イベントを企画した思いについて、疋野さんにお話を聞きました。
【疋野さんのお話】
僕はもともと、(NPO法人みたか市民協働ネットワークが主催している)三鷹「まち活」塾の第5期卒業生です。三鷹の街が好きで、「まち活」の卒業生と、ボランティアの地域活動を積極的に行ってきました。
仕事は、経営コンサルタント、中小企業診断士です。ちょうど企業勤めから独立して間もないタイミングで跨線橋撤去の話を聞いたんです。
市民に愛されてきた橋ですし、クラウドファンディングで残すという話も出ていました。でも改修して維持するには大変なコストもかかるというということも見えてきて…。その中で「跨線橋の撤去には反対だけど、しょうがないよな」というムードが市民の中に広がっていったんですよね。
そういうムードに対して、「それでいいのか」っていうモヤモヤした思いがずっとありました。そのモヤモヤが何かって考えた時に、跨線橋に対して「ありがとう」っていう気持ちを表明できていないからなんじゃないか、って思ったんですよね。
僕には小さな息子がいて、彼が夢中になる場所が跨線橋の上でした。電車好きなんです。プラレールも大好き。
だから跨線橋がなくなるっていう話が出てから今まで、「もしかしたらできることもあったはずなのに、何もできずにごめんね」という思いもありました。個人的には撤去にめちゃめちゃ反対なのに、何もしないと、それって賛成していることと同じだよな、って思ったんです。
で、あらためて自分を振り返った時、会社員からフリーになったことで時間は融通がききます。「まち活」とか地域活動をしていたから、地域イベントをやろうと思えば、どう動けばいいかはわかる。
何より跨線橋は息子が大好きだった場所で、橋の上に行くと同じような親子連れがたくさんいるんです。僕ら(彼ら)が好きな共通項もわかっている。時間もノウハウもあるのに、なんで躊躇う必要があるのかな。そう思ったら走り始めていました。
跨線橋にはいろんな人が来ます。昼には親子連れやご近所の人が、休みには電車好きの方々や太宰治のファンの方々が。夜に通りかかると、一人でひっそりと泣いていたり、少人数で語らったりしている姿も見かけます。いろいろな人の思い出が詰まっているんですよね。そういう全てを受け止めてきた跨線橋に、感謝の気持ちを表したかったんです。
跨線橋に集まる子どもたちはプラレールが好きだから、イベントにはプラレールを持ってこようというのは最初に決めました。だったら、跨線橋をプラレールで作りたいじゃないですか。それでパーツを買い足したりして、跨線橋を作りました。会心の作です(笑)。
これまでの経験から、これで子どもたちは喜んでくれるなと想定をしていましたが、このイベントを立ち上げてから大人たちが次々と協力を申し出てくださいました。これは嬉しいサプライズでした。
僕のように、思い入れがあって、モヤモヤしていて、それをどう表明していいのかわからないという人たちがたくさんいたんだな、と同志を見つけたような気持ちです。
今日、このイベントができて、僕の「モヤモヤ」はすっきりと晴れたような気持ちです。あとはこの想いを、イベントを通じて知り合うことができた、株式会社文伸の社長・川井伸夫さん(「三鷹跨線橋の記憶と記録を残すプロジェクト」の発起人)たちにバトンを渡したいと思います。
イベントの様子は続編の記事に続きます。
※三鷹跨線橋が残してくれた記憶と記録を次世代に伝える当プロジェクトの書籍制作・発行をご支援いただける個人・法人のスポンサー様を募集しております。詳細は下記までお問い合わせください。
株式会社文伸 出版事業部 武藤
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撮影/鈴木智哉
取材・執筆/柿本礼子
編集/宮本恵理子