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【年賀状】時代の大きな変わり目に


風前の灯火

10億7000万枚とは、何の数字だろうか?



実はこれ、2025年巳年用の年賀はがき発行枚数なのだそうだ。

郵便料金値上がりの影響もあり前年より25%減となったとはいえ、10億7000万枚の数字だけ聞けばずいぶんと多いようにも思える。しかし、年毎の年賀はがき発行枚数のトレンドを見ると印象はだいぶ変わる。

当初発行枚数は10億7000.0万枚…年賀はがきの発行枚数(最新), 不破雷蔵, ガベージニュース, 2024.9.1

年賀はがきの発行枚数は、2003年の44億6000万枚をピークに徐々に減少し始め、その後わずか20年余りで1/4の10億7000万枚までに激減しているのだ。

中でも直近10年間の落ち込みは目を見張るものがある。このままの傾向で減少が続けば今後10年以内に年賀状を贈る風習が日本社会から消滅してしまうかもしれない。

今や年賀状は風前の灯火だ。

我々はもしかしたら時代の大きな変わり目を生きているのかもしれない。


衰退の要因

新年を迎えるに当たり年賀状をしたためる文化は古く平安時代から始まり江戸時代にはそれなりに普及していたようである。しかし、国民的な行事として年賀状文化が定着したのは戦後に年賀はがきが発行されるようになってからであろう。

古来日本では年の切替わりとともに人心が一新されるという思想があったようで、嫌な出来事や記憶は旧年とともに捨て去り、生まれ変わった新たな気持ちで新年を迎えたのだ。

死と再生の繰り返し。

四季折々の豊かな自然に囲まれながらも毎年のように繰り返される天変地異を経験し続けた我々の先祖たちは自然とそのような人生観・社会観を身に付けたのかもしれない。

その思想は昭和や平成の時代になっても連綿と受け継がれ、年賀状の隆盛となって表れたのだ。

しかし、その年賀状の隆盛も令和の時代には勢いを失いつつあるようだ。

我々の根底を流れている考え方は令和の時代でも昔とちっとも変ってない気がしている。それなのに年賀状は廃れてきてしまった。

その要因についてちょっと考えてみた。

1. 個人情報保護法の施行

2003年に個人情報保護法が施行された。それまでほぼ野放し状態であった個人情報の取り扱いが厳格化されたのだ。

元々は顧客名簿などを取り扱う事業会社に対する規制が目的であったが、法の施行を契機として、学校や職場で独自に作成・配布されていた名簿の取り扱いについても社会の意識が変わったように感じた。

2003年以降、学校や職場で氏名・住所・電話番号の個人情報を掲載する名簿が作成されなくなったのである。

「新しい組織に加わって年賀状を出そうとしても、住所がわからなければ出しようがない」日本全体がそのような状態に陥ったのだ。

そう言えば、息子が小学1年生のとき冬休み前に友達と年賀状を出し合う約束をしてきたが、肝心の住所がわからず家まで年賀はがきを出しに行ったこともあった。

職場の名簿がなくなったからと言ってもそれまでの蓄積がありすぐに年賀状が廃れたわけではないが、「住所がわからずに出せませんでした」という言い訳ができる状況になったのを多くの人が有難がっていたように記憶している。

先のグラフでは2003年をピークとして年賀はがきの発行枚数が減少に転じていたが、個人情報保護法の施行と無関係ではないだろう。

2. SNSの台頭

もう一つの要因は言わずもがなであるが、スマートフォンの普及とSNSの台頭だ。

iPhoneの日本登場は2008年だが、スマートフォン全体の普及率が50%を超えたのは2016年のことだ。

先のグラフで、2016年を超えたあたりからさらにもう一段年賀はがきの発行枚数の減少速度が加速しているようにみえるのは、この影響と考えられる。

「当初発行枚数は10億7000.0万枚…年賀はがきの発行枚数(最新)」のグラフに筆者追記(赤字)

LINEのサービス開始が2011年であり、自分の子供世代では中学卒業時点で友達とLINEで繋がっている。我々親世代のように年賀状で互いに細く繋がっておくような必要性は薄いのだ。実際に、その後自分の子供が年賀状を書いているのを見たことがない。

これからデジタルネイティブがさらに増えてくれば、社会全体がそのように変化していくことだろう。

また、若年層に限らずSNSの普及で相対的に年賀状の重要性が低下してきており、そのことが昨今の年賀状じまいブームを後押ししているのは間違いない。

日本の年賀状文化は、年賀はがきからあけおめスタンプに形を変えながら未来に繋がっていくのかもしれない。時代の流れがそうならば、それはそれでいいと自分は思っている。


年賀状の効用

今や終わりを告げようとしている年賀状文化であるが、かつてはそれなりの効用があったように思う。

時代の変わり目で年賀状が役割を終えようとしている今、その効用について少し振り返ってみたい。

1. 新年の決意表明

担任の先生や会社の上司に出す年賀状に、今年の意気込みを記したことはないだろうか?年末に一年を振りかえり新年に向けた決意表明をするのは、よりよい人生を形作る意味でも十分に意味のあることだと思われる。

日本の風土で育まれたこのような習慣は、きっと砂漠の民やそこから派生した宗教(キリスト教、イスラム教)を信奉する人々には理解しがたいことかもしれないが、勤勉な国民性に繋がるこのような習慣は今でも日本の強みの一つだと感じている。

実際に年賀状が廃れた今でも、noteで新年の抱負を述べた記事をよく見かける。やはり我々日本人は年頭にあたり抱負を述べたい民族のようだ。

2. ゲーム理論の生きた教材

会社で上司や同僚に出す年賀状はどちらかと言うと付き合いの意味合いが強かったが、学校でクラスメートに出す年賀状は少し意味合いが違っていた。

何枚年賀状をゲットするかがステータスになっていたのだ。まあ「友達100人できるかな?」の世界だ。

そこで自然発生的に身に付け実践してきたのがしっぺ返し戦略であった。

しっぺ返し戦略とは、対戦型ゲームのゲーム理論で最強の戦略とされている。

しっぺ返し戦略:
実際の選手権でも強さが実証された最強の戦略である。
 1. 自分から相手をフォローする
 2. 相手からフォローバックがあればフォローを継続する
 3. 相手からフォローバックがなければフォローを解除する
 4. 相手からフォローを受けたらフォローバックする
相手の打ち手に合わせてオウム返しのように返すので、しっぺ返し戦略と呼ばれている。

『【note】「フォロー戦略」と「フォロワー数」「スキ数」との関係性』より

記事ではフォロー戦略について解説しているが、年賀状の獲得競争においても理屈は同様だ。

年賀状のしっぺ返し戦略:
 1. 自分から相手に年賀状を出す
 2. 相手から年賀状が来れば翌年も年賀状を出す
 3. 相手から年賀状が来なければ翌年は年賀状を出さない
 4. 相手から年賀状が来たら自分も年賀状を出す

年賀状の戦略

この戦略の効果はてきめんであった。年賀状の獲得枚数が格段に増えたのである。

しっぺ返し戦略などという語彙は当時聞いたこともなかったが、年賀状の獲得競争というゲームの現場で実践的にゲーム理論を学べたのは大きな経験であった。

この戦略の大きな弱点は、大人になってもこの戦略を継続した場合、年賀状をやめるタイミングを見失ってしまうことだ。何しろ年賀状をやめるかどうかが、自分の意思ではなく相手の意思に掛かっているからだ。

そのため大人になってからは戦略を少し変更して、年賀状適正な枚数に収まるように少なくなるように努めてきた。

3. 連絡手段

年賀状が一定の連絡手段を果たしてきたのは確かだ。引っ越しとか、結婚とか、出産とか年賀状で知った情報は多い。

実は年末に大学時代の友達4人と四半世紀ぶりに会ったのだが、これも年賀状のお陰だ。

みんな県外に住んでいるため、互いの結婚式で会ったのを最後に年賀状だけのやり取りになってしまっていて、それも途絶えがちであった。

どうしても会いたくなって、1年前の年賀状で久々に連絡を取って旧友を招集してみたのだ。年賀状というアナログ手段でLINEも何とか繋がって忘年会が実現した。

下手したらもう一生会えないかもしれないと思いかけていた旧友と再会し再び時が流れ出したのは、間違いなく細く繋がっていた年賀状のお陰だ。

自分たちの世代では、学生時代にスマホやLINEどころか携帯も存在しなかった時代だったから、長らく連絡を取っていない友達と会う手段が限られている。小中学校や高校の同窓会では、FBがきっかけとなり繋がったという話もよく聞くが、FBはパリピの道具だと思っている。一般人には縁のない世界だ。

その意味では年賀状の縁は貴重だ。年賀状じまいの前に、どうしても会いたい人との連絡手段を確保しておくことをお勧めする。


年賀状じまい

実は我が家でも数年前から年賀状じまいを進めている。自分の分はあらかた済んでいるが、妻の分がなかなか進まなかった。

今年は年賀はがきは購入済みであったが、いただいた分だけ返そうということにしていた。

それが年末に実現したくだんの忘年会の後、少し体調が悪いなと思っていたら発熱してしまった。家族揃って寝正月となったのは実に10年ぶりのことであった。

そのお陰(?)でいただいた年賀状の返信はLINEで代用せざるを得ず、強制的に年賀状じまいが完了してしまった。

かくして小学校時代から半世紀に渡って連綿と続いてきた我が年賀状文化は、ひっそりと終わりを告げたのであった。

年賀状は配達実績でも昨年の2/3と相当の落ち込みがあったようだ。今年を機に年賀状じまいをした人が想定以上に多かったのかもしれない。


※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
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