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【音楽】「薬師丸ひろ子コンサート」で微笑みと美声に癒された夜
『薬師丸ひろ子 Concert Tour 2024 ~きみとわたしのうた~』に参加した。
※ネタバレにご注意ください! #ネタバレ
永遠の美少女
薬師丸ひろ子は特別な存在である。
これは何も同時代を生きてきた自分に取って特別な存在である、というだけの意味ではけっしてない。
客観的に芸能界を見渡してみても、彼女のような存在は皆無であるという意味において特別なのだ。
薬師丸ひろ子のデビューは、1978年の映画『野性の証明』での高倉健との共演であった。
第一印象は、目力の強い少女だっただろうか。
その頃の自分も十分に少年ではあったが…。
彼女を一躍スターの座に押し上げたのは、主演と同時に主題歌を歌った1981年の映画『セーラー服と機関銃』であろう。
薬師丸ひろ子は、角川映画が育てた角川三姉妹(次女:渡辺典子、三女:原田知世)の長女にして、最も成功した女優でもある。
角川映画は、角川書店の角川春樹社長が肝いりで始めた新興の映画会社で、既存の映画会社とは一線を画し、メディアミックスという新しい広報戦略で映画界に新風を吹かせた。
メディアミックスとは、原作小説を書店で売り出すと同時に、映画館で映画を公開し、歌番組では主演女優に主題歌を歌わせ、その相乗効果を狙って大々的に宣伝する手法だ。
出版業界と映画業界、音楽業界を巻き込んだ見事な宣伝戦略でエンターテインメント業界を席巻したのだ。
薬師丸ひろ子はその中心的な存在であった。
映画『セーラー服と機関銃』は、セーラー服を着た女子高生が機関銃をぶっ放す奇想天外な設定と、決め台詞の「カ・イ・カ・ン」が話題となり、主題歌『セーラー服と機関銃』の大ヒットと相まって興行的には大成功を収めた。
原作は赤川次郎の小説『セーラー服と機関銃』で、こちらもダブルミリオンセラーを記録したようだ。自分もこの頃から赤川次郎の小説にはまり、その後、数十冊にも及び読み進めることとなった。
角川映画のメディアミックス戦略恐るべしだ。
『セーラー服と機関銃』の大ヒットの後は学業専念のため、一旦休業宣言をおこなった。
しかし、その人気を世間が放置しておくはずもなく、1983年の映画『探偵物語』、1984年の映画『メイン・テーマ』、映画『Wの悲劇』と快進撃を続ける。
『Wの悲劇』はブルーリボン主演女優賞を受賞するなど、大人の女優への足掛かりをつかんだ作品だ。
また、主演映画すべての主題歌を彼女自身が歌い、歌もヒットを飛ばした。
角川事務所の戦略だったのか、はたまた学業を優先する彼女の希望による偶然の産物だったのかは不明であるが、彼女のプロモーションは、同時代のアイドルとはかなり趣を異にしていた。
人気アイドルは3か月に一度のペースで新曲を発売し、前の曲がベストテンから外れた翌週には、次の曲でベストテンに返り咲くことも珍しくなかった。
如何にマスコミへの露出を多くするかが、当時の標準的なアイドルのプロモーション戦略であった。
そのためアイドルという名のアイコンは猛烈な勢いで消費され、あっという間に飽きられ、忘れ去られていった。それでも毎年次々に新人アイドルがデビューしていたのでテレビ的には何の問題もなかったのだ。
80年代のアイドル界は、そのような時代だった。
それに対して、薬師丸ひろ子の場合は、年に1本か多くて2本の主演映画のプロモーション時期にのみ歌番組に出演し歌った。
会いたくても会えない、観たくてもなかなか観れないアイドル。でも時々はTVに出てくる。そんなある種の飢餓状態が彼女の神秘性を高めていった。
結果としてこのようなメディア戦略を採用したお陰で、彼女は同時代のアイドルのようにすぐに賞味期限を迎えることはなく、人気が長続きしたのだと分析できる。
もっとも事務所の認識としては、薬師丸ひろ子は一義的には女優であり、当初の歌手活動は映画の宣伝戦略の一部に過ぎなかった節もある。
その証拠に、『セーラー服と機関銃』の主題歌は元々彼女が歌う予定ではなく、ほんの気まぐれでそのような展開になったとの逸話が伝わっている。角川社長も試写会まで彼女が歌うことを知らなかったそうだ。
しかし、彼女の歌唱力はアイドル女優がちょっと歌ってみましたというレベルで収まりきるものではなかったことから、一過性のものでは終わらず歌手・薬師丸ひろ子の誕生につながったのだ。
彼女の歌唱の魅力の1つは、その透き通ったクリスタルボイスだ。可愛らしい外見に相応しいその歌声が同世代の男子たちの心を魅了した。
そしてもう1つの特長が、合唱部で培った発声法だ。
彼女の歌い方は、音程に忠実で腹式呼吸を用い口角をあげて歌う合唱部の発声法そのものなのだ。
従って音程の安定感も兼ね備えている。
他のアイドル歌手がレッスンにより口先での歌い方に工夫を凝らしたのに対して、彼女は合唱部仕込みの素朴な歌い方そのままを貫き通した。
ファルセットなどの技巧を凝らすこともなく、基本に忠実な発声法は純朴な少女をイメージさせる。
彼女の歌唱法そのものが、その後の彼女のイメージを形作り強固なものにしたのは間違いない。
ここに、永遠の美少女・薬師丸ひろ子が誕生したのだ!
その後は角川事務所から独立し、ライオンのCMで「ちゃん・リン・シャン」(ちゃんとリンスしてくれるシャンプーです)のフレーズが有名になったり、玉置浩二と結婚・離婚などのニュースは知っていたが、あまり彼女をTVで見かけることはなくなった。
再び彼女を画面で観るようになったのは、2002年のドラマ『木更津キャッツアイ』や2005年の映画『ALWAYS 三丁目の夕日』などからである。
肩の力が抜けて、いいお母さん役が似合う女優になった。
薬師丸ひろ子は今年還暦を迎えたが、それでも今なお、その面影とイメージを残し、素敵な存在のままだ。
その彼女が近年は再びコンサートに力を入れているという。今年だけで、何と三度のツアーが企画され、今回のツアーだけでも全国17公演が予定されているそうだ。
彼女に会いたい。彼女の歌声が聴きたい。そんな思いが募り生まれて初めて彼女に会いに出かけたのだった。
コンサートの感想
うだるような暑さがひと段落し秋雨の降りしきる中、駅から徒歩で会場のNHKホールに向かった。
幕が開け、『メイン・テーマ』からコンサートがスタートする。
裾が大きく膨らんだアイス・ブルーの衣装を身に纏い現れたその立ち姿は、凛としていて気品があった。
よく伸びる歌声は、水の流れのように耳に心地よい。
何よりも、「目の前に薬師丸ひろ子がいる!」その現実だけで、幸せな気持ちになれる。
ステージにはソファが置かれていて、これは「おうちのテレビの前で観ているような気持ちでお寛ぎください」と彼女がMCで語っていたのを象徴する舞台装置なのだろう。
薬師丸ひろ子のコンサートは、とにかく皆お行儀がいい。
ペンライトが振られることはなく、ステージからマイクを向けられて一緒に歌うこともなく、立ち上がって応援することもない。
これらを不要にしているのは、すべて彼女の優しい心遣いの結果なのだ。
MCで喋る言葉ひとつひとつに人柄がにじみ出ている。
ファンとしては、そんな彼女の気持ちに応えるべく、ひたすら拍手と手拍子で応援するのだ。
選曲は今年6年ぶりに発売したニューアルバム『Tree』からが多かった。
そのため、前半は正直知らない曲も多かったが、アカペラで独唱した『ちいさい秋みつけた』は鳥肌ものであった。
自身の歌声に自信がなければ、このようなチャレンジはできないと思う。
後半はスペシャル・メドレーもよかったが、やっぱり誰もが聴きたいのは映画の主題歌だ。
終盤で、それもしっかりと叶えてくれた。
やっぱりファンの気持ちを大切にする薬師丸ひろ子なのだった。
『探偵物語』『Woman ”Wの悲劇”より』『セーラー服と機関銃』の流れは最高であった。
特に『セーラー服と機関銃』を聴くと、10代の頃の瑞々しい感情が鮮やかによみがえってくる。
ここでも会場では立ち上がる人がひとりもおらず、一生懸命に手を叩いて応援するのだ。
会場が総立ちになったのは、アンコールで全ての曲を歌い終わった後だった。
何度も何度も客席にお辞儀しながら見せる微笑みは、まるで菩薩のような神々しさと優しさをたたえているようであった。
薬師丸ひろ子の微笑みと美声に癒された素敵な夜であった。
セットリスト
終演後の会場に掲示してあったリストには、アカペラで独唱した歌が記載されていなかったので、追記してセットリストを完成させた。
1. メイン・テーマ
2. 瞳で話して
3. 今日
4. 水色星座
5. きみの月光
6. 未完成
7. ちいさい秋みつけた(アカペラ)
8. かぐやの里
-休憩-
9. きみとわたしのうた
10. スペシャルメドレー
ユーレイズミーアップ
追憶
ムーン・リバー
平凡
今日がはじまるなら
11. 窓
12. 探偵物語
13. Woman ”Wの悲劇”より
14. セーラー服と機関銃
-アンコール-
15. 時代
16. 時の道標
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