【FIRE】FIRA60という生き方
FIRA60(ファイラ60)という用語をご存知だろうか?
FIRA60とは、早期退職を目指すFIREのバリエーションの一つらしい。
この記事では、FIRA60について紹介してみたい。
FIREムーブメントとは
FIREムーブメントとは、Financial Independence, Retire Early(経済的自立と早期退職)の頭文字を取った略語で、2010年代に始まったアメリカ発祥のライフスタイルのことだ。
その手法は、「投資により働かなくても食べていけるだけの資産を築いて30代・40代の若いうちに早期退職し、その後の生活費を資産の運用・取崩しのみで賄う」というものだ。
生きていくにはお金が必要である。お金を稼ぐために人々は死ぬまで、或いは年金制度が整ってからは年金支給まで働き続ける、それが従来の世界の常識であった。
まさしく働かざる者食うべからずの世界だ。
FIREムーブメントは、そんな常識に風穴をあける新しいライフスタイルだ。
FIREを達成さえすれば、働かずして生きていくことが可能となるのだ。これは従来の常識を180度転換する考え方と言っても過言ではない。
FIRE界隈では4%ルールと呼ばれる独自の考え方が基本にあり、年間生活費の25倍の資産を確保できれば、労働せずに不労所得のみで一生暮らしていけるとされている。
言い換えれば、年間生活費の25倍の資産確保がFIRE達成の条件となっている。
実は、FIREムーブメントが日本で広く認知されはじめたのは2016年頃からで、まだあまり歴史は長くない。
そのため、無謀な計画でFIRE生活に入り、資金難から元の生活に逆戻りしてしまう例も少なくないようだ。また、FIREしてみたものの人生の目的を失って再び働きだすケースもネット界隈ではよく聞く。
そもそも歴史が浅いため、例えば30代でFIREした人が寿命まで生きた実例は皆無なのだ。
その意味では、FIREはまだまだ発展途上のムーブメントなのかもしれない。
FIREの種類
充分な資産を形成してからリタイアするのがFIREの王道ではあるが、資産形成の過程は口で言うほど容易くはない。
FIREはしたいが資金が不足している。資金が溜まるまで待っていては一生FIREができそうにない。それでもやっぱりFIREがしたい。
そのような願望を抱く人々が編み出した手法が、リーンFIREやバリスタFIREというFIREの各種バリエーションだ。
下表は、FIREのバリエーションを、①資産の多寡、②働く/働かないの2軸で分類した表である。
ファットFIRE
本来の意味でのFIREを指す用語だ。
Fatは太ったという意味の英単語で、この場合は潤沢な資産を意味している。
ファットFIREは潤沢な資産を元手に、全く労働をせずに暮らしていくことを目指す理想的なFIRE形態である。
リーンFIRE
資金不足の場合のバリエーションの1つが、リーンFIREだ。
リーンFIREでは、資金不足にも関わらず労働はしない。その代わりに、支出を極限まで切り詰めて生活をする。リーンFIREは必然的にミニマリストとならざるを得ないのだ。
Leanは贅肉がないという意味の英単語であり、つつましい生活を意味している。
資金状況によっては、かなり厳しい生活も覚悟しなければならないが、経済的な豊かさよりも労働をしない精神的な安寧を求める人々がリーンFIREの道を進むのだろう。
リーンFIREでは、生活費を切り詰める目的で自給自足の田舎暮らしを目指したり、近頃の円安基調で魅力は薄れてしまったが、物価の安い海外移住を合わせて考える人もいるようだ。
バリスタFIRE
資金不足の場合のもう1つのバリエーションが、バリスタFIREだ。
バリスタFIREではリーンFIREとは異なり、アルバイトなど軽い労働をおこない資金不足を補う。ただし、フルタイムの労働はおこなわない。
Baristaはカフェなどで働く人という意味の英単語である。
バリスタFIREでは、カフェなどで軽く働く程度なのでフルタイムの労働ほどのストレスはない。
一方で、軽い労働で得た賃金で資金を補うためリーンFIREほど極限まで切り詰めた生活も必要ない。
その意味では、いいとこどりをしたFIRE形態とも言える。
組織に属することなく必要に応じてアルバイトをして生計を立てるバリスタFIREは、自分の若かりし頃に輝きを持ってポジティブに語られていたフリーターという生き方に通じる思想を感じる。
まとめ
まとめると以下のようになる。
いずれのFIREでも、30代・40代でのリタイアを目指すのは共通している。
FIREとは生き方の問題であり、それぞれの家庭事情、資金事情とを合わせて勘案し、手法を選択しているものと思われる。
FIRA60とは
FIRA60(ファイラ60)とは、Financial Independence, Retire Around 60の頭文字を取った略語で、経済的自立と60歳前後での退職を意味する新しい用語である。
元青山学院大学教授の榊原正幸さん提唱の概念らしい。
FIREは早期退職が目的なので、60歳前後での退職では一見FIREとは言えないようにも思えるが、現代日本の退職年齢がどんどん後ろ倒しになっている現状を鑑みれば、60歳前後での退職を目指すFIRA60も立派なFIREのバリエーションの1つと言えよう。
FIRA60を無理やり表に盛り込むと、以下のようになる。
③リタイア年齢を3番目の分類軸にしている。
FIRA60はファットFIREと同様に、潤沢な資金を元手にリタイア後は全く労働をせずに暮らしていく。
違いはリタイア年齢のみで、ファットFIREが30代・40代でのリタイアを目指すのに対して、FIRA60では60歳前後でのリタイアを目指すスタイルだ。
FIRA60ではFIRE達成後のリタイア期間が短くなってしまうが、反面、資産形成期間が長めに取れるため、無理せず資産形成することが可能となるメリットがある。
投資にはリスクが付き物であるが、30代・40代でのリタイアを目指すファットFIREの場合は短期間で利益を得るために無理な投資をしがちであり、リスクが高まり逆に資産を減らしてしまう確率も高まってしまうだろう。
他方、60歳前後でのリタイアを目指すFIRA60では、長期投資を見据えて十分にリスクを下げた投資を採用することが可能なため、資産を減らしてしまう確率は低いだろう。リタイア期間が短いため目標とすべき資産額も少なくて済む。
人生の三大資金は住宅資金・教育資金・老後資金と言われているが、特に子供のいる世帯では住宅資金と教育資金が嵩み、なかなか資産形成が進まない場合が多いのではないだろうか?
また、旅行やレジャーなど思い出を作るための出費をどこまで減らしていいのかも悩ましい問題だ。これは、将来のより良き人生の為に、現在の幸せをどこまで犠牲にするのか問題でもあるが、最適解がどこにあるかは誰にもわからない。
結婚する・しないを含めて家族の形もマチマチだし、人生に対する考え方もマチマチであるため唯一の答えなど導き出しようがないが、一つの考え方として無理のないFIREとしてFIRA60を目指すのも悪い選択ではないように思える。
現在の会社員の雇用環境は相変わらず60歳定年の企業が多いが、再雇用という形を含めれば65歳までの雇用は義務づけられており、実質的な定年は65歳となっている。
さらに、70歳までの雇用は現状では努力義務ではあるが、年金の受給開始年齢の後ろ倒しトレンドに合わせるようにして、実質的な定年が70歳に延長されるのは時間の問題であろう。
何もしなければ、70歳まで働くのが当たり前の時代はすぐそこまで来ているのだ。
一方で、いくら寿命が延びたと言え75歳を超える後期高齢者ともなれば、徐々に心身の状態が弱ってきて十分な活動ができなくなってしまうのも現実だ。
これは、何も考えずに70歳まで働いたら、充実したリタイア生活は望めないことを意味している。
もし、FIRA60を達成できれば60歳から75歳までの15年間を労働に依らず暮らすことが可能となり、黄金の15年間を満喫できるかもしれない。
もちろん死の直前まで、或いは体が動かなくなるまで働くことを生きがいとする生き方も存在するだろう。その考え方は誰にも否定することができない。
しかし、働かずに生活するFIREを人生の最後に経験するのも充分に意味があることだと思われる。
その際に、無理なく達成を目指せるFIRA60は有力な選択肢の一つと言える。
なぜFIREを目指すのか?
ところで、人はなぜFIREを目指すのだろうか?
FIREとは、働かずして生きていくことを目指した一大ムーブメントである。
そんなに人は働くことが嫌なのだろうか?
自分の数少ない経験を振り返ってみると、仕事には充実感もあったし達成感もあった。ちょっとの勇気を振り絞ることで小さいながらも何事かを成し得たこともある。仕事を通じて大きく成長した実感もある。創意工夫してどんどん高みに登ったときは嬉しかった。
しかし組織の嫌な面もたくさん見聞きしてきた。もしかしたら中間管理職の端くれとして、無自覚にも自分がそれを体現してきた当事者だった可能性も否定しきれない。
嬉しいこともたくさんあったが、辛く嫌なこともたくさんあった。総じて楽しかったと自分の中では総括しているが、ポジティブな面とネガティブな面がない交ぜとなって存在しているのが、組織での仕事というものだろう。
本質的には、株式会社は資本主義社会における資本増殖装置なのだ。
利益を出す過程において、労働者は人間である前に労働力を賄うためのコストの一部として扱われる存在だ。
どんなに人権が叫ばれようが、労働基準法が整備されようが、その本質に変わりはない。
資本家は株式会社という装置を通じて労働者から搾取し続けている。
我々が搾取される側の人間である限り、働きたくないと考えるのは当然の感情なのだと思う。
考えてもみれば、FIREムーブメントとは、搾取される側の労働者から搾取する側の資本家への転換運動とも受け取ることができる。
リーンFIREなどという険しい道をあえて選択する人々が存在するのは、人間としての尊厳を追い求めた結果なのだろう。
搾取されつづけた心は、いつしか壊れてしまう可能性を秘めているのだ。
そういう意味では、FIREムーブメントは純粋に生き方の問題なのかもしれない。
最後に
この記事では、FIREのバリエーションの一つであるFIRA60について紹介した。
この用語は、まだ一般化していないようだが、もっと普及すればいいのにと個人的には思っている。
実はこの言葉、今の自分の状態を表すのにピッタリなのだ。
定年まで少し余してリタイアした自分は、けっしてFIREとは名乗れないが、かと言って無職とも名乗りたくはない。
「この前、FIRA60したんだ」
さり気なくそう言える時代が来ることを願っている。
※この記事は、FIREに関する個人的な見解を述べたものです。これが絶対的に正しいという主張ではなく、正解はクリエイターの数だけ存在すると考えています。
※FIREにおける4%ルールが成り立つのかについては、十分な検証が必要と考えています。
※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
また本記事は、特定の商品、サービス、手法を推奨しているわけではありません。特定の個人、団体を誹謗中傷する意図もありません。
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