マスター~回想録~vol.8
この時期になるといつも思い出す。
ロビーには、いつご用意してくださったのか、
大きな花瓶いっぱいの生け花
年始の朝礼である。
つい先日まで、
父方の実家大分で、お餅とみかんをたらふく食べて、
温泉につかって、熱燗を嗜んでいたのだ、
不謹慎ではあるが、頭と体はなまりになまっていた。
ただ、支店長のお話しだけは覚えている。
よく、野球に例えてお話をされるが、
「勝つチームには、勝つ雰囲気がある」
ということだった、
試合前に対峙したとき、そこで悟ってしまうこともあるそうだ。
勝つ雰囲気づくりのためにも、
準備の大切さ、気構えの大切さを説かれ、
そして何より、チームワークを大切にしよう
というお話だった。
*
約15年ほど前、私はとある銀行に採用して頂いた。
それも、喫茶ペナントでマスターに頂いたご縁から、
採用試験を受けてみようと思ったからであった。
自己分析も、試験対策も皆無であった。
SPIは脳波か何かを調べられるもの、
インターンという言葉は玄関のピンポン、
つまり、飛び込み営業の訓練のことかと思っていた。
リクルーターの方々の後押し虚しく、
一度、最終面接で不採用になった。
当然の結果だ。
リクルーターのリーダーの方が、
そのことを伝えに来てくださったが、
私以上に、落ち込んでいた。
「どう?もう一回チャレンジしてみない?」
「はい」
次の日だったか、何日か後だったか
もう一度チャンスをいただいた。
面接の前、今はロータリーになってしまったが、
東京駅の丸の内口の空き地に座って、
何度も何度も、伝える練習をした。
おかげで、日焼けで顔は真っ赤だった。
春の紫外線は侮れない。
赤面で再チャレンジのあと、
別室で待機していると、
先に結果を聞いたのであろう
リクルーターの方々が口々に歓喜の雄たけびを上げていた。
「よっしゃー!」、「うおおっ!」、「やったー!」
私よりも喜んでくれる 、
こんなに人のために熱くなれる方々と一緒に仕事ができるなら❢
それが一番うれしかった。
今でも、丸の内のロータリーを通ると、
そこに座っている自分がよみがえってくる。
*
配属は岡山支店。
通知が届いたとき、
私は、東京にある「大岡山」の間違いではないか?
と思って、
人事に「誤植です」と連絡しそうになったが、
調べたところ、大岡山に支店はなかった。
配属の岡山支店の支店長は、
同じ大学の野球部ご出身、
元甲子園球児でもある。
柔和な印象の中にも、凛と筋の通った厳しさも感じられる、
さすがリーダーという感じであった。
まずは、新人は、ロビーでの研修から
ロビーでのお客様誘導から。
私以外の二人は背が高く、体が大きい、
そして、3人とも意味不明に胸板が厚く、
やる気と、期待も相まって、胸がはちきれんばかりだった。
お客様も時期的に新人だとはわかっていながら、
さぞ、恐ろしい銀行だと思ったに違いない。
わたしは
個人のお客様向けの営業部署に配属で、
事務方を一通り学ばせていただいた後、
店頭ブースで接客だった。
本当に何も知らずに入行したので、
定期預金も知らない。
10万円から?
満期が来るまで下せない?
そんな手荒なことをするのか?
当時は本気でそう思った。
学生時代、部活でアルバイトもろくにできなかったためか、
10万円というお金は、今でいうと100万円くらいに感じたのかもしれない。
かといって、今100万円を10万円に感じることは決してない。
初めて、定期預金のお申し込みをしていただいたとき、
その事務手続きを自分一人でできたとき、
何とも言えぬうれしさがあった。
15:00を過ぎると受付業務は終了、
ブースで事務仕事と、電話営業だ。
そうこうしていると、
店の奥の方から、法人担当の営業の先輩たちが、
順番にロビーにやってきて、缶コーヒーを買っていく。
その後も、定期的にやってくるのだが、
「この人たちどんだけ、コーヒー飲むねん」
と心の中でつぶやいていた。
居心地が悪いのかな?
そんなに飲んだら、胃に穴が開きますよ…
いや、ちがう。
そんなに飲めるのは、
きっとすでに穴が開いているからに違いない。
とか、くだらないことを考えていた。
さておき、
私は、その後、コーヒーを飲みまくる部署に異動になった。
さては、心の声が聞かれていたのかもしれない。
缶コーヒーに飽きた私の心には、
「あー、マスターのコーヒー飲みてー」
あの、ちょっと酸味がある感じの、
薄くてアメリカンどころじゃないんだけど、
なんだか、飲みたくなる。
どおりで、ペナントには社会人が多いんだ。。
社会で辛酸をなめると、酸っぱいコーヒーが飲みたくなるんだ。。
そんなアホなことを考えていた。
私には、マスターのそのコーヒーの味は再現できないが、
少なくとも、お世話になった方々、マスターに恥ずかしくない、
明るく、一生懸命に丁寧な仕事をしようと思う。
MITA FLAG 店主 飯田 将嗣
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